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Dragon Sword Saga2『旅の仲間(後編)』  作者: かがみ透
第Ⅴ話 或る晴れた日に吟遊詩人が見える
14/19

黒の魔石

改行、表現その他、読みやすく直しました。(2016.8.2)

 ヴァルドリューズは、一本のある大きな木の前で立ち止まった。


「あそこだ」


 彼の指した先には、彼らの身長の倍ほどもある高さに作られた、トリの巣であった。


「えっ、まさか、あの巣の中に、魔石が?」


 拍子抜けしたケインは、呆然と、巣を見つめる。

 あの中に、二年前に分散してしまったマスター・ソードの力の一部がある、というのだろうか。


 そこへ、ばさっばさっと、トリの羽ばたきが聞こえたと思うと、大きな羽を広げ、巣に着地したのは、腹の下の方に灰色の縞の入った、目の鋭いトリであった。


「あれは、オオハヤブサじゃないか!」

「大丈夫! ミュミュが取ってきてあげる」

「よせよ、危ないぞ!」


「大丈夫、大丈夫! だって、妖精は何でも知ってるんだよー。ミュミュは、妖精の中でも、よくものを知ってる方なんだから。だって、ミュミュ、いつもいい子だもん。だから、ハヤブサと仲良くする方法も知ってるし」


 物知りといい子は別物であるが、日頃の旺盛な好奇心が功を奏していると言いたげな素振りであった。


「自然界の生き物は、みんな妖精と仲がいいんだよ」


 そう笑ってみせると、ミュミュは、ケインが止めるのも聞かず、そのまま上昇していき、トリの巣から少し離れた枝の部分に、跨がって座った。


 ハヤブサは、小さな木の枝や葉、泥などで固められた、自分より一回り大きな家の外側に止まって、じっとミュミュを見ていた。


「ハロー、トリさん! 美少女妖精のミュミュだよ〜! ご機嫌いかが?」


 ケインが、スベった。


 ハヤブサは、にらむような目付きのまま、ミュミュを見ている。

 明らかに、トリの方がミュミュよりも大きかったにもかかわらず、彼女は恐れ気もなく、にこやかに続けた。


「そこにある黒い石を、ミュミュにくれないかしら? 貸してくれるだけでもいいんだけど~」


 トリは、巣にとまったまま、黙ってミュミュを見下ろしている。


「あの男の子が持ってる剣は、あの『ドラゴン・マスター・ソード』なのよ。マスター・ソードは、『黒の魔石』ほか三点セットで、やっと使い物になることは、トリさんも知ってるでしょう? そこにある黒い石が、その魔石のひとつなの。ねっ? お願い! それを、こっちに渡してくれない?」


 トリは、何も反応していない。


「そうなの!? ありがとう! うわー、嬉しい!」


 ミュミュが途端に喜んで、ケインたちを見下ろし、手を振った。


「ケイン、ヴァルのお兄ちゃん! 交渉成立したよー! トリさんが、石を持っていっていいって!」


 ケインは、あんぐり口を開けてから、ヴァルドリューズを見た。


「なあ、あのハヤブサ、ホントに話通じてるのかな?」

「……」


 ケインに向けたヴァルドリューズの顔も、どことなく不可解そうであった。


「じゃあ、お言葉に甘えて、さっそく、もらっていくねー」


 ミュミュが、そろそろと枝を伝って、巣まで這っていく。

 トリは、黙ってそれを見つめる。


「あ、あった、あった!」


 ミュミュは、巣の中に手を伸ばして、掴んだものを持ち上げようとした。


「グギャーッ!」


 突然、オオハヤブサは鳴き声を上げると、翼をばたばた羽ばたかせ、ミュミュの身体を鋭いくちばしでつっ突き始めたのだった。


「きゃーっ!」


 ミュミュが巣の中に落っこちた。

 交渉決裂は、一目瞭然だった。


「やめてーっ! なにすんのよー! あんた、くれるって言ったじゃないのー!」


 ケインには、とてもそうは見えなかった。


 ミュミュは、ハヤブサにつっ突かれ、ぎゃあぎゃあ騒いだ。


「こらー、ケイン! あんたのために、ミュミュは、こんなひどい目に合ってるんだからねー! 早く助けてよー!」


 ミュミュが巣から顔だけ出して叫ぶが、トリに顔を踏んづけられて、またぎゃあぎゃあ罵りながら格闘する。


「まったく、しょうがないなー。ちょっと待ってろ」


 ケインは、さっさと木に登り始めた。

 オオハヤブサは、自分よりも身体の大きいものをも襲う習性がある。場合によっては、ヒトにも襲いかかるともいう。


 ケインがハヤブサの巣に着き、目でも突かれては大変だからと、頭を低くし、手探りで、巣の中を探った。


「ギエーッ!」

「いててて!」


 トリは新たな侵入者をも容赦しなかった。

 彼は、手を突かれながらもバタバタ振り、トリを追い払おうとしたが、トリは、一旦羽ばたいて浮くと、彼の腕に、鋭い足の爪をくい込ませて止まり、頭をつついた。


「グワーッ! グワーッ!」

「いていていて!」


 ケインは、それでも、懸命に巣の中を探る。

 何かを夢中で掴むと、石にしては生温かく、柔らかい。


「キャーッ! ケインのエッチ! 放してよー!」

「うわー! ごめん!」


 掴んだのがミュミュだとわかると、慌てて放り投げ、その下にあった、拳よりも大きな固いものを掴んだ。


「あった……!」


 トリに翼でばさばさ殴られ、くちばしでつっ突かれ、顔を足の爪で引っ掻かれながらも、黒い石を確認すると、ケインは木から飛び降りた。


「クワーッ!」


 オオハヤブサは、一瞬バランスを崩したが、すぐに飛び立って巣まで戻り、相変わらず鋭い目を、人間と妖精に注いでいた。


「ああ~ん、いたいよ~!」


 ミュミュは、ヴァルドリューズのてのひらの上で、えんえん泣いていた。


「結局、お前は、ハヤブサを怒らせただけ……?」


 ちらっとミュミュを見て呆れながらも、ケインは、手にした石を見つめた。

 黒曜石のように鋭く、きらきらと輝く尖った塊――間違いなく、『黒の魔石――ダーク・メテオ』であった!


 その形状は、人間界の石と似ているようで違う。以前、彼が見たものと、なんら変わりはなかった。


 嬉しさをこらえきれない目で、ケインはヴァルドリューズを見上げた。

 彼は、静かな目をケインに向けて返し、ゆっくり頷いた。


 ケインが、魔石を地面に、そうっと置く。

 初めてマスター・ソードを手にした時と、同じように、この石の力を、剣に吹き込むのだ。


 ミュミュも、泣くのをやめ、じっと見入った。

 ケインは、目を閉じ、精神を剣に集中させると、頭の中には、いつかの呪文が甦る。

 彼の心臓は、その時と同じように、高鳴っていた。


『この世のすべての闇の(もと) 

 ダーク・ドラゴンの意志よ。

 我が偉大なる神の剣に、

 共にすべてを解き放たん!』


 深く青い瞳をうっすらと開くと、黒い魔石は、ぼおっと黒い炎に包まれた。

 戦いで呼び出した時に現れる黒い竜の形に、揺らめいている。


 そこへ、剣を打ち降ろした。

 同時に、強い風が、石から吹き荒れ、彼に向かう――!


 手から、彼の全身に伝わる感触は、以前と同じだった。

 凄まじい力に、なんら変わりはない。


 ケインは、自分の中に、何か邪な、邪悪な念が入り込んでくるのを感じた。


 ここで負けると、彼の意識は闇の力に乗っ取られ、マスター・ソードも、ただの石となり、次の正義の勇者が現れるまで、再び眠りについてしまう。

 強靭な精神力で、ダーク・ドラゴンの力を抑えつけなければならないのだった。


 かなり長い時間が経ったように思えた後、それまで沸き起こっていた暴風が止んだ。

 黒の魔石も消えている。


 ケインは、ゆっくりと、剣をかざしてみた。


 うっすらと、刃が黒く光っている。

 その中で、黒い竜がうねっているような、明らかに、『この剣は生きている!』という感覚が、彼の全身に伝わっていた。


 そして、彼自身にも、何か大きな力が加わったような、腕に新たな力が(みなぎ)っているのだった。


「これだ……! この感覚だ……!」


 ケインの剣を持つ手は、懐かしさに打ち震えていた。


 「ぷっ!」


 ミュミュが吹き出しかけ、慌てて口を押さえた。

 ケインが、横目で見る。


「おい、こんなカッコいい場面で、なんてことするんだ?」


「ごめ~ん! だあ~って、ケインたら、頭ぼさぼさで、顔もキズだらけのまんまキメてんだもーん!」


 とうとうこらえ切れなくなった彼女は、腹を抱えてゲラゲラ笑い出した。


 せっかく、感動を噛み締めていたケインは、完璧に気分をぶち壊されていた。


 その様子に、ヴァルドリューズも、目元をほころばせていたが、二人とも気付いてはいなかった。




 その晩は、そのままキシールで野宿し、明け方から、空間を通ってフェルディナンドに戻った時、彼らは再び紅通りに現れた。

 魔道士とは言えない魔物たちを、新たな力に任せて、切り裂いていく。


 蒼い大魔道士は、いつの間にか、いなくなっていた。

 ケインとヴァルドリューズは、残った北地区を攻める。


 ともかく、三つの魔石のうち、最初にダーク・メテオが見付かったのは、ケインにとって好都合だった。


 通りに住む化け物じみた魔道士たちの使う炎の術、電光などの黒魔法は、すべてマスター・ソードが吸収してしまい、その度に、まるで成長でもしているように、剣はますます勢いを増し、ケインの意志と一体化し、振るい易く馴染んでいくのだった。


 魔法を吸収した剣の中のドラゴンは、ますます生き生きとしてくるように、ケインには感じられた。


 一旦制御してしまえば、抑えが効かなくなることもなく、ケインの方は、剣のダーク・ドラゴンにエサを与えてやるような感覚でいればいいのだった。


 そこで、ふと、彼は思った。


(これって、マリスがサンダガーを餌付けしてるのと……違う! それとは、絶対に違うんだあ!)


「お疲れさまでした。どうぞ、こちらでお寛ぎ下さい。もうすぐお食事が出来ますからね」


 北地区を三分の一ほど制圧し、夕方、紅通りのヴァルドリューズの家に戻ると、木の魔道士バヤジッドは、いそいそとキッチンで動き回っていた。


 ケインは、ドサッとソファにもたれた。


「なんだか、いい匂いがするなぁ!」


 ミュミュも、さっそくローテーブルの真ん中に、ケインと同じように足を投げ出して座った。

 ヴァルドリューズは、机に向かい、書き物をしている。


「お帰りでしたか」


 ドアが開くと、ダミアスが現れた。


「ダミアスさん!」


 ケインは、跳ねるように、起き上がった。


 一日二日であったが、久しく会っていなかったかのように感じる。

 ダミアスは、微笑みながら、部屋に入った。


「ダミアスさん、ここへ来る時は大丈夫でしたか!? 蒼い大魔道士は、この通りには、もういないみたいでしたが?」


 ダミアスは、微笑んだまま、頷いてみせた。


「私は、あの家から少し離れたところで、ヴァルドリューズ殿の指示があるまで、お待ちしていました。ミュミュから彼の伝言を聞き、マリス殿とお仲間をアストーレまでお送りしました。こちらが安全とお聞きしてから、再び参ったのです」


「じゃあ、マリスも、クレア、カイルも、皆、無事なんですね?」


「ええ。皆さん、また元のお仕事に就いてらっしゃいます」


「それを聞いて、やっと安心したよ!」


 ケインは嬉しそうに笑うと、ソファの隣を空け、ダミアスがそこへ腰掛けた。


「あの大魔道士、ゴールダヌスと敵対すると言っていた。それに、『我々』と言っていたから、他にも仲間がいるようだった。俺のことは、単に邪魔だから消そうとしてるんだろうけど、……あいつらは、マリスをどうしようというんだ?」


 ケインは、テーブルに視線を落とした。


「確かに、彼らは、マリスを手に入れたがっている。『サンダガー』を守護神に持つ者の存在を知った時、さまざまな輩が彼女に目を付け始めた。そうなることを予想して、ゴールダヌス殿は、内密に研究をしていたのだ。


 お前が出逢ったグスタフなどは、単に彼の研究を邪魔しようとしていたに過ぎないが、他の連中は、彼女を生かして捕え、なんとかして『サンダガー』を利用し、何かをしでかそうというつもりだろう。もちろん、己の欲望を叶えるために」


 見向きもせずに、書き物を続けながらヴァルドリューズは淡々と語った。


「だから、あなた方二人が揃わないと出来ない召喚技に、ゴールダヌス殿はお考えになったのでしょう」


 ダミアスが、口添えした。


「あのお嬢さんは、本当に珍しい守護神をお持ちですよね」


 そう言ったのは、バヤジッドだった。


「私は、六二三年生きておりますが、『サンダガー』を守護神に持つお方とは、初めてお目にかかりました。しかも、女性の方とは。ですが、蒼い大魔道士は、どうやら、『サンダガー』の他に、ベアトリクス王国にも目を付けていらっしゃるようで。……さあ、どうぞ。食事が出来ましたよ」


 バヤジッドが、豪勢な食事や木の実酒を運ぶ。魔道士用に、カシス酒に並ぶ、アルコール度の低いカリン酒も。


「ああ、うまいっ!」


 仔ウシの肉を煮込んだものを一口食べたケインは、思わず感動していた。

 噛むまでもなく、肉が口の中で、ほろっとくずれ、見た目は色が悪いが、かかっていた黄色いソースが、コクがあって香りも高く、実に品のいい味だった。


「お気に召されましたか? これは、私の得意料理でもありまして、『仔ウシのカリー・ボルボルソース煮』というんです。お替わりもたくさんございますよ」


 バヤジッドは、何重にも聞こえる声で、嬉しそうに言った。


「それ、ちょうだい!」


 ミュミュが、今までかじっていた野菜の漬け物を放り出し、テーブルの上で立ち上がって指を指す。


「こらー、ミュミュ、お行儀悪いぞ」


 彼女は、ケインの言うことなど聞こえなかったかのように、トコトコ歩いていくと、彼の器に、いきなり両手を突っ込んで、肉を取り出した。


 そして、迷うことなく、そのまま頬張ったのだった!


「おいしい! おいしい!」


「そ、そう……それは、良かったな……」


 ミュミュは、喜んで、次々と、スープの中の肉をあさっていた。


「俺の肉……」


 次々奪われていく肉を、ケインは、悲しい気持ちで見ていた。


「そう言えば、ドゥグ殿は、どうかされましたか?」


 やさしいダミアスは、彼らが、とうに忘れていたカエル魔道士のことを思い出し、木の魔道士に尋ねていた。


「ああ、オオタキバエを追っかけて、どっかにいっちゃいましたよ。あいつの好物みたいで。出て行った途端に、奴が入って来られないよう、特殊な結界を張ってやりましたから、きっとその辺でうろうろしているか、ハエを食べ終わったらすべてを忘れてしまい、自分の家にでも戻ったかも知れませんね」


 バヤジッドは、さらっと言うと、スロウ・ティーを一口啜った。




 数日後、既に紅通りの一件は片が付き、後は、フェルディナンドの宮廷での報告と、新たな法律、取り締まりなどの対策の話し合いが終わるのを待つばかりとなっていた。


 ヴァルドリューズとダミアスは、毎日のように宮廷に通い、夕方になると、バヤジッドの家に戻った。


 ケインには、もうすることはなかったが、二人の魔道士の用が済んでから一緒に帰ることになっていたので、彼らのいない昼間のうちは、隣町を見物していたり、景色のいい山の上で、のんびりしていたりして、時間を潰していた。


 宮廷での、傾向と対策の会議もやっと目処(めど)がついたという時、その日はバヤジッドの家で、晩酌が行われた。


 彼の用意してくれた魔道士たちの好む酒の一つ、悪酔いしないという極上のカリン酒を、ケインは杯に注がれ、口に含んだ。

 一口飲むと、スーッとした喉越しで、あまりアルコールを飲んでいる感じがしなかった。


 これでは、かえって飲み過ぎてしまうのではないかと考えたケインだが、彼の経験した傭兵仲間との、わいわいがやがやとした飲み会とは違い、シーンとした中で、しみじみと酒を酌み交わしているので、がぶがぶ飲んで悪酔いする者はいなかった。


 ケインは、魔道士たちの中で、ひとりでそわそわし、なんだか落ち着かず、思わずミュミュを見てみるが、いつも騒がしい彼女も、今日はおとなしい。

 彼の杯から一口酒を啜っただけで、後はテーブルの上に座ったまま、じっとしていた。


 普段はよく喋るバヤジッドも、こんな時に限り、黙っている。

 沈黙に耐えきれず、何か喋ろうとケインが思った瞬間、ヴァルドリューズが口火を切った。


「明日の夜には、アストーレに帰れるだろう」


「そうかあ、やっとアストーレに戻れるのかあ。……といっても、俺は、まだ二週間くらいしか、ここにいないんだったっけ?」


 ケインは、大袈裟に明るい声を出したのだが、それを受けて続いてくれる者はなく、話はそこで途切れた。


「アストーレに戻られたら、今度はどちらへ?」


 しばらくの沈黙の後、ダミアスがヴァルドリューズに尋ねる。


「おそらく、西の方角へ行くだろう」


 それだけ応えて、ヴァルドリューズは杯に口をつけた。


「もう行っちゃうんですか。淋しくなりますね……」


 ぽつんと、バヤジッドが呟く。


 ケインは、この魔道士の口数が少なかったわけがわかった。


 ふいに、ダミアスがケインを振り向いた。


「そう言えば、先日、アストーレに戻った時に知ったのですが、アイリス王女殿下にご結婚を申し込まれた方がいらしたそうです。その噂を聞きつけて、デロスとマスカーナの王子殿下も、またご訪問にいらっしゃるのだとか。そのため、宮廷舞踏会が開かれることになったのですが、それが、ちょうど明日の夜なのです」


「へー、そうなんですか。……にしても、また舞踏会か」


 ダミアスは、続けた。


「ですが、当の王女殿下は、なんだかこのところお加減がよろしくないらしく、ふさぎ込んでいらっしゃるようで。服飾デザイナーのお二方がいらした時だけ、お部屋から出てこられるのだとか。クレア殿がフェルディナンドから戻られてからは、いくらかお元気になられたようですが、相変わらず、他の者とは接することなく、お部屋にこもっておられるので、陛下も大変ご心配なさっています」


「どうしたんだろう? 王女殿下は、白い騎士に憧れてたから、もしかしたら、その王子殿下たちとのご婚約は、今は考えられないのかも知れないな。その様子じゃ、舞踏会にだって出られるかどうか……」


「陛下も、そうお考えになって、白い騎士にも、舞踏会に参加して欲しいと、お頼みになっていらっしゃいました」


「それで、マリスはなんて? 彼女は、長い間、城にいるとアレルギーが出るなんて言ってたくらいだから、ま、どうせ断ったに違いないんだろーけど」


 ケインが、くすっと笑いをもらす。


「それが、快く、お引き受けしてらっしゃいました」


「なっ、なんで? 引き受けたってことは、舞踏会で王女殿下と踊るってことだろ? 王女殿下は、白い騎士マリユスが女だとは知らないんだから、ますますマリユスにのめり込んでいくことになるんじゃ……?」


 そう心配したケインには、異常な現象に思えた。

 ダミアスは頷いてから、歯切れの悪い口調で続ける。


「マリス殿がおっしゃるには、……殿下のことよりも、以前から、ご自分が、どれだけ女性を惹き付けられるか……お試しになってみたかった、のだとか……」


「なに言ってんだか、マリスは。やっぱり、変わってるな。クレアは? 止めなかったのか?」


「殿下が塞いでおられるのを、クレア殿も気になさり、マリス殿が殿下と踊り、それによって、殿下のお気持ちが、少しでも晴れるようならば、……その方がいいと」


「ええっ?」


 ケインは、頭がくらくらするような気がした。


「カ、カイルは、なんて?」


 なけなしの期待を込めて聞くが、ダミアスは、ますます困ったような表情になった。


「ご自分も……と、マリス殿と、どちらがより多く女性を寄せ付けられるかと、……なんとなく、ライバル心を燃やしておられるようでした……」


 沈黙が流れた。


「みんな、どうかしてる! 俺も、白い騎士が女だって最初にバラさなかったのは悪かったけど、マリスは所詮女なんだぞ! 姫とくっつけるようなマネして、どーする? だいたい、なんでカイルまで張り切ってんだ? あいつは、ただの警備兵だろーが」


 ケインは、異常な事態の不毛な未来に、頭が痛くなった。




 翌日の夕方、いよいよアストーレに戻る時がきた。


「これで、みなさん、帰られてしまうのですね。ああ、なんて淋しい! 私のことは、忘れないで下さいね。またどこかでお会いできるといいですね」


「おじいちゃ~ん!」


「おお、お嬢ちゃんも、元気でね」


 ミュミュが、わあわあ泣いて、木の魔道士バヤジッドに飛びついた。


(おじいちゃん……? ま、まあ、年齢からすると、そうか)


 ケインは、バヤジッドとミュミュを見守る。


「あの、よかったら、これ、私からのお餞別なんですけど……」


 帰りがけに、バヤジッドが木でできた丸い形のペンダントを、ケインに渡した。

 それは、ロケットになっていて、中には、彼の肖像が入っていた。


「これは……?」

「それを開けると、私といつでも交信できます」

「は、はあ。それは、どうも……」


 別れを惜しんだ後、既に、魔道士たちの厄介な結界の心配もなく、バヤジッドの家から直で、ダミアスが、彼らをアストーレ城へと運んだ。


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