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Dragon Sword Saga2『旅の仲間(後編)』  作者: かがみ透
第Ⅳ話 紅通りの魔道対決 
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紅通りの魔道対決1

改行、表現その他、読みやすく直しました。(2016.6.25)

「待たせたな」


 ヴァルドリューズが、やっと本題に入ろうとしたのは、それから小一時間経った頃だった。

 二人の魔道士は、もうそこにはいなかった。ヴァルドリューズに言われて、席を外したのだった。


「何かあったら、いつでも言いつけて下さいませ」


 木の魔道士バヤジッドは、消える前にそう言った。


「随分いい暮らししてるみたいじゃないの。魔道士の執事兼シェフ付きとはね」


 マリスがからかうが、ヴァルドリューズは、彼にしては多少うんざりしたような顔を向けただけだった。


「俺たち、今夜はここに泊まっていいのか?」


 カイルのとぼけた声に、ヴァルドリューズが無言で頷く。


「はー、良かった! さっきの話じゃ、とてもとても、この時間、外を出歩くなんてムチャみたいだもんな。どうやら、この紅通りでは、常にヴァルかダミアスと一緒にいた方がいいらしいや」


 カイルが「あ~あ」と、伸びをした。


「ちょっと黙って。ヴァルドリューズさんが話せないじゃないの」


 クレアがカイルを叱りつける。


「そろそろ、聞かせてくれる? 『吟遊詩人』は何なのか?」


 マリスも真面目な表情になっていた。


 ヴァルドリューズは、マントの中から取り出したものを見せた。

 一冊の分厚い書物であった。


「チャール=ダパゴの魔道書を見つけた」


 彼は素っ気なく言うが、マリスとクレアは驚いていた。


「チャール=ダパゴっていったら、あんたのラータン・マオの隣じゃない!? あそこも魔道が栄えてたわよね」


 そう言ったマリスに頷くと、ヴァルドリューズは、クレアに魔道書を差し出した。

 クレアは顔を上げ、彼の意図がわからず、問うような目を彼に向けていた。


「好きに使っていい」


「ええっ、私に!? そんな、もったいないです! ヴァルドリューズさんが持ってらした方が……」


 あまりの恐れ多さに、クレアが両手を組み合わせて、彼を見上げる。


「いや、私には必要ない」


 クレアは、それでも困ったようにヴァルを見つめていた。


「クレア殿、それを手に入れるには、彼は意外と骨を折ったのだ。魔道士の塔が設立されてから、この本の写本はすべて世に出回ることを禁止され、原本は著者の魔道士たちが焼いてしまい、もうどこにも存在していないと思われたものを、持っていた魔道士が偶然この紅通りにいたのだから。


 何しろ、チャール=ダパゴ王国の誇る魔道の数々が記された、貴重なものなのだから、快く――とまではいかなかったが、その魔道士の方から譲ってもらったのだ。頂いておいた方が、よいと思うが」


 横から、ダミアスが穏やかな声を挟んでいた。

 ケインは、ちらっとダミアスを見て、目が合うと、彼は微笑した。


(きっと、ヴァルは、そいつから少々『手荒なマネ』をして、取り上げたに違いない。

なんてヤツだ! 職権乱用じゃないか?)


 ダミアスの微笑から、そう見当のついたケインがおかしく思っている横で、クレアは瞳を輝かせていた。彼女は、そんなことは思いも寄らないようであった。


「私のために、そんなご苦労を……!」


 クレアは、本を恐れ多そうに両手でそうっと受け取り、魔道に縁のないものにはわかりもしないその本の重みを、噛み締めているように、しばらく動かなかった。


 再び、彼女が顔を上げた時は、その瞳は濡れていた。


「一日でも速く覚えられるように、頑張ります……!」


 彼女は、魔道書を固く胸に抱いた。

 ヴァルドリューズはそれを見て、珍しいことに、少しだけ微笑んだ。


「……で? 他にも何かあるんでしょ? それだけだったら、ダミアスさんに言付けて、クレアに渡してもらえば良かったんだから。他に、あなたが見たものは、何?」


 マリスの声が、話をもとに引き戻す。

 ヴァルドリューズの冷静な碧い瞳が、静かに彼らを見渡した。


「実は、手伝ってもらいたい」

「手伝ってもらいたい? あなたの仕事を?」


 マリスが、拍子抜けした声で繰り返した。

 ヴァルドリューズは、頷いてみせた。


「この通りには、割と腕の立つ魔道士たちもいるが、化け物もいる。訓練には丁度良いだろう」


 彼は、おそろしく淡々と言ってのけた。


「あっ、そう! あんたが珍しくあたしの作った暗号を使ってくれたのは、そういうことだったの? うまいこと言って、あたしたちを乗せて、自分がラクしたかったのね? このあたしを(かつ)ごうなんて、いい度胸してるじゃないの!」


 マリスが腕を組み、上目遣いで彼の前に立ち塞がった。


「明日の朝は早い。もう休んだ方がいいだろう」


 それだけ言うと、彼は背を向け、さっさと部屋の隅に行き、座って目を閉じた。


「ちょっと……!」


 なおも言い募ろうとする彼女の肩に、やさしく置いたダミアスの手が、彼女の機嫌を、それ以上損ねることを食い止めた。


「彼に任せっぱなしにしている私が、このようなことをいうのも何ですが、あなたたちなら魔道士の間の法は関係ありませんし、手分けした方が早く済むことは間違いないのです。この国で、あまり時間を費やすわけにはいかないのでしょう? あなた方には、もっと巨大な敵が、待っているのかも知れないのですから」


 マリスの目付きが、戦士の時のように鋭く、ダミアスに向けられた。


 部屋の隅では、いつの間にか、魔道士バヤジッドの小柄な黒いフードの後ろ姿が、ヴァルドリューズに、「よく寝られるようにショコラはいかか?」と尋ねるが、断られると、空間へと姿を消した。


「そうよ! これは修行だと思って、みんなでヴァルドリューズさんを手伝いましょう!」


 クレアが瞳を輝かせている。魔道書は、しっかりと胸に抱えたままだ。


「ええー? めんどくさ――」

「面倒臭いなんていうのなら、あなたとは、もう口も利きません! そんな人情のない人なんて、もう顔も見たくないわ!」


 かったるそうにしているカイルに向かって、彼女は人差し指を突きつけた。


「おいおい、何も、そこまで言わなくても……」


 ケインが思わず宥めるほどであったが、カイルの方は、きょとんとしている。


「そうは言うけどさー、魔道士たちの結界の中を、俺たち生身の人間なんかが飛び込んで行ったら、どうなるかわかったもんじゃないぜ? そいつら斬りつける前に、こっちが危なくなっちゃうぜ」


「それもそうだ」


 カイルの意見に同意したケインに、クレアの視線が移る。


「まあ! ケインまでそんなこと言うなんて、信じられない! みんな、正義の心はどこへ行ったの!?」


「正義? 確かに、巨大な敵を打倒するための訓練と思えば、正義のうちではあるのかも知れないけど、これは、『正義』というより『仕事』だろ? 俺が言いたいのは、魔道士と対決するには、ちゃんと手順を考えておかないと――カイルの魔法剣の技は『浄化』だから、魔物には有効でも、人体には影響ないし、俺の剣だって――」


 ケインは、うつむいてから続けた。


「悪いけど、今のマスター・ソードでは、ミドル・モンスター程度の魔力には効果はあっても、それ以上の力を持った魔物や魔道士が相手だったりすると、……難しいんだ。しかも、連続して魔法効果を使うには、限界がある」


「今のマスター・ソードだと――って?」


 マリスは、目だけをケインに注いだ。

 ケインは、それには触れなかった。


「だ、だから、俺とカイルは、なんとか魔道士たちを出し抜いて接近戦に持ち込まないと、戦力にならないってことだったんだよ。念を押すけど、これは、あくまでも、『俺たちの敵』じゃなく、『仕事』なんだから、ただ頑張ればいいってもんじゃない。確実に成し遂げないと」


「そうそう、俺も、それが言いたかったんだよ」


 ケインの後に、カイルがヘラヘラと続いた。


「だけど、……だけどっ、そんなこと言ってたら……この先、もっと恐ろしい敵が現れるかも知れないし、私たちに不利な条件で戦わなくちゃいけないこともあるかも知れないじゃない? ましてや、本当の敵になんて……」


 クレアが再び彼らをキッと睨みつけた。その瞳には、うっすらと涙が滲んでいる。


「マリスやヴァルドリューズさんに任せてばかりでいいの? 普段、お世話になってる恩を、返そうとは思わないの?」


 クレアが何をそんなにムキになっているのか、ケインには解せなかった。


 カイルは、ムッとした顔になったが、すぐに「へっ」と笑った。


「奇麗事じゃ敵には勝てないんだよ。勝負するには、ある程度勝算がないとな。まあ、実戦経験の少ない魔道士見習いのお嬢さんには、わかんねーかも知れないけどな。感情だけで行動すると、痛い目を見るのは自分だぜ?」


 彼にしては珍しく、挑発的な物言いで、彼女を見下ろしていた。


「……わかってるわ。あなたたちの言うことが正しいってことも。だけど、私……」


 言葉に詰まってしまったクレアの瞳からは、とうとう涙が零れてしまっていた。


 しんと険悪な雰囲気の中で、マリスが手を打った。


「ダミアスさん、明日、あたしたちを案内してくれる時、魔道士の家に着いたら、まず、やつらの結界を解いてもらいたいんだけど、それくらいは構わないかしら?」


 彼女の明るい声を受けて、ダミアスが頷く。


「相手が私以上の力を持っていなければ、可能ですが」


 それを聞いたマリスが、勝ち気な笑顔で皆を見回す。


「結界さえなければ――同じ土俵の上でなら、ちょっとは勝算が出て来たと思わない?」


 クレアが、みるみる瞳を輝かせていく。


「私程度では、彼らの結界を解くなんて所詮無理だけど、ダミアスさんなら出来るわ! 彼らの厄介な結界さえなくせば、ケインもカイルも戦えるじゃない!」


「だけどさー、関係のない俺たちが、魔道士たちに殴り込みに行くようなマネしていいのかあ?」


 カイルが、疑わしい目になる。


「そうだよ。これは、ケンカじゃないんだ。いくら仕事でも、下手したら、フェルディナンドの国自体が大騒ぎにもなり兼ねないんだから、あくまでも慎重に取り組まないと。自分たちの訓練のために戦いをけしかけるのは、正義とは違うし、修行をするなら他の方法でも……」


 と、ケインが言いかけると、


「あら、これは、『正義の神の思し召し』よ。例え、相手が異国の見ず知らずの魔道士たちといえども、困っている人々を救うのが、正義の味方『白い騎士』の務めよ。そうは思わないこと? 『白い騎士団』の皆さん」


 マリスが、両手を腰に当てて、堂々と言ってのけた。


「正義の『白い騎士団』……すてき!」


 クレアまでが、うっとりと天を見上げている。


「むやみに正義を振り翳すなよっ。どーせ、マリスは、幼い頃野盗をイジメて快感を得てたのと同じように、やっつけたいだけなんだろ?」


「あーら、そんなこと、ございませんわ! ただ、人々が困っていることを知ってしまったからには、黙って見過ごせないのが、正義の味方の融通の利かないところであって、つまりね、頭が頭が固いわけよ」


「……さっぱり意味がわからないんだけど」


 呆れているケインに、マリスは、指を突き立てた。


「ケイン、あんたのご主人様は誰? どこのどなた? しのごの言ってないで、ついてらっしゃい! あんたも『白い騎士団』の一員でしょ!」


「なっ、なんだよ、それ!? そりゃあさ、一言『ついてこい』と言われれば、いつでもついていくって言ったのは、俺の方だけどさ、あの時は、状況が状況だったから……」


 ケインが言い訳をしているすぐ隣では、クレアが意気揚々と、見事に言い切る。


「この世にはびこる悪を倒し、正義のために、みんなで力を合わせて頑張りましょう!」


「よーし、決まったわ! さ、明日に備えて、今日はもう寝るとしましょう!」


 ケインとカイルは、ぽかんと口を開け、クレアとマリスの意気込みを見せられていた。


「なあ、クレアって、最近、マリスに感化されてないか?」


 カイルが呟いた。


「……まあ、マリスが、乗せてるんだろうけど」


「女って、キラクでいいよなー」


 「ふあ~あ」と、欠伸をしながら、カイルが言う。


(お前もな……)


 ケインは、心の中で呟いた。




「まだ起きてたのか?」


 床に、毛布だけを被り、床に横たわっていた一行であった。

 夜中、ケインがふと目を覚ますと、隣では、クレアが小さな光の魔法球で目の前を照らし、ヴァルドリューズからもらった魔道書を読んでいた。


「ああ、ケイン、ごめんなさい。眩しかった?」


 クレアは、光の大きさを縮めた。


「明日、魔法を使うんだったら、もう寝た方がいいんじゃないか? 魔力を充分に貯めておいた方が……」


「ええ。でも、読んでおきたいところがあったものだから……。もう少ししたら眠るわ」


 彼女は、心配させないよう、ケインに微笑んでみせた。


 ケインは身体をクレアのほうに向け、頬杖を付いた。


「なあ、なんでわざわざ戦いたがるんだ? 魔法を覚えると、やっぱり試してみたくなるのか?」


 彼としては、何気なく聞いたつもりであったが、少々ぶっきらぼうな問いかけに、気を悪くした様子もなく、彼女は打ち明けた。


「確かに、練習よりも実戦の方が、精神力も集中力も高まって、魔法の威力も大きくなるけど、それだけのためじゃないわ。カイルには奇麗事だって言われちゃったけど、私は本当にヴァルドリューズさんの役に立ちたいのよ。マリスにだってそうだわ」


 彼女の目は、遠くへ向けられた。


「モルデラで、身寄りのなかった私は、祭司長様のところで巫女になり、人の役に立ちたいと思っていたけど、あそこでは、何かが違うと、いつも思っていたの。でも、自分ひとりではどうすることもできなくて……違うと思っていながらも、祭司長様方に従っていたわ。


 ある国の祭司長様がモルデラを訪ねて来られた時、私を、ご自分の神殿の巫女に欲しいとおっしゃってくれたのだけど、あなたも知っての通り、村は魔獣につけ込まれ、若い娘たちは生け贄に捧げられていたわ。その祭司長様についていけば、私はその宿命から逃れられたでしょう。


 でも、若い娘たちはまだ村に残っているわ。自分だけ助かるなんて、私には出来なかったの。その祭司長様が去ったその後も、魔獣を退治してくれる方を、密かに隣の町や村に呼びかけに行ったけど、結局、協力してくれる人なんていなかったわ。


 私は、もう諦めかけていた――そんな時よ。ケインが魔獣ドラドを倒しに行くって言ってくれたのは」


 その時のことを、ケインも思い出していた。


「あの時、俺は、食後の運動で、山へモンスターでも倒しに行こうとしていたんだった。今思うと、それって、マリスが盗賊苛めて楽しんでるのと、似たようなモンか……」


「それでも、私には、この人なら、もしかしたら、倒してくれるかも知れない――そう思えたの。ううん、例え、魔獣を倒せなくても、私と同じ気持ちの人が、旅人とはいえ、この村にいてくれた……それだけでも、嬉しかったわ。


 私、あなたについていったけど、戦闘自体が初めてで、とても怖かったけど、村の人たちのように黙って運命を受け入れる気には、もうなれないことに気付いたの。戦うしかないって――!


 でも、攻撃魔法の殆どを主とする黒魔法は、巫女だったために習うことは禁じられていたし、剣を扱ったこともなかったから、あなたとカイルに頼ることになってしまった。


 さっき、彼が言ったみたいに、『自分の村の始末も自分では付けられない無力さ』を思い知って、なんだかとてもはがゆくて、あなたたちにも申し訳なくて……」


「クレアが責任感じることなんて、なかったのに。俺なんかは、ただのおせっかいからやったことなんだし、カイルのヤツは、マリスたちと組んで、次元の穴を塞ぐついでだったんだから」


 クレアは、下を向いた。


「あの時……魔獣の光線が私に向かってきた時、本当に、もうだめだと思った。私は、これで死んでしまうんだって。でも、黙って生け贄になるよりは、ずっといいって思ってた。そうしたら、マリスが助けてくれて、『サンダガー』を召喚して、魔獣を倒してくれた。


 この人たちに付いて行きたい! 付いていくからには、これまでのように人任せじゃいけないって思ったの。その後だって、カイルが私を庇って怪我をしちゃったし、私はといえば、その治療さえ出来なかった。


 あの後、ヴァルドリューズさんが、『魔法の習得は、徐々に身に付くものもあれば、突然使えるようになるものもある。だから、焦らなくていい』って言ってくれて、いくらか気が楽にはなったんだけど……。


 さっき、カイルに対しても、あんなにムキになっちゃって……。やっぱり、焦ってるのかも知れないわね。一刻も早く、あなたたちくらいの戦力にならなくちゃって。


 逆に、それが、みんなの足を引っ張ることになるかも知れないのよね。現に、ここに住む魔道士相手に、私程度の魔力がどれほど通用するかさえ、わからないというのに、『正義のため!』だなんて言っちゃって……。


 でも、やらなくちゃ! って、そればかりが頭の中にあって……。実戦経験が、私だけ少ないから、あえて飛び込んでいこうとしていたんだと思うわ」


 ケインが、くすっと笑った。

 クレアは、はっと彼を見て、それから、ちょっと恥ずかしそうに笑った。


「戦いに慣れてるあなたたちからしたら、こんなのって、やっぱり甘いわよね。修行して、ちゃんと戦力になってから、やることだったのよね。……ごめんなさい。あなたにも、カイルにも、生意気なこと言って」


「そうじゃないんだ」


 ケインは笑った。


「クレアの話を聞いてるうちに、俺も昔そうだったのを思い出したんだよ。覚えたての武術を試してみたくて、今から考えると、無謀なことしてたよなー。その時の俺は、クレアよりも、ずっと幼かったから、相当生意気だったと思うよ。


 でもさ、カイルもマリスも、似たようなモンだったんじゃないかな? 武道の世界なんて、相手あってのものだからな。自分だけじゃ、上達したのかどうか、なかなかわからないから、相手にぶつかって、自分の力を(はか)ろうとしてたのかもな。


 ヴァルにしたって、あの若さで相当な上級の魔道士らしいから、魔道士連中の中で生意気に思われるどころか、疎まれたり、妬まれたりしてたかも? 何かが上達するには、ある程度の『生意気な部分』てのは、必要なことなのかも知れないな」


 ケインは手を伸ばし、彼女の肩に置いてから、改めて微笑んだ。


「だから、クレアは思った通りにやればいいんだよ。明日は、俺が援護する。ダミアスさんが、奴等の結界を解いてくれるんだったら、直接奴等に斬りつけることは無理だとしても、魔法を跳ね返すくらいは、俺の剣でも出来るからな」


「ケイン……!」


 クレアの瞳が、ますます大きく見開かれていく。


「ありがとう! 私、明日、頑張るわ!」


「だからって、何も、こっちから攻撃しかけることないんだからな。あくまでも、話し合いが先だぞ」


「ええ、ええ……!」


 クレアの嬉しそうな笑顔を見て、ケインも安心し、再び毛布に包まった。


 それから、少しの間、クレアは引き続き魔法書を読んでいたが、その後、光の球を消し、毛布の中に入った。


「お前、甘いな」


 ケインがうとうとしかけた時、反対側の隣で寝ていたカイルが、ぼそっと呟いた。


「クレアを援護するったって、俺たちでさえ勝てる――っつうより、まともな戦いになるのかさえ保証はないんだぞ。事態は何も変わっちゃいないってのに、結局、同情しやがって」


「うう、そう言われると、確かに、そうなんだけど……。でも、マリスもいることだし……あいつがいれば、なんとかなるような気はしないか?」


 実に消極的な意見を、我ながら言っていると思ったケインであった。


「けっ、そんな神頼みみてぇなこと……! 確かになあ、『お前のご主人様』は、いろんな意味で普通じゃねえから、なんとかなるかも? ってアテにしたくなるのも、わかるけどなー」


 『お前のご主人様』と言われた時、ケインは、ちょっとぞくっとした。


「とにかく、俺は行かねーからな。訓練で命を落としたんじゃ、あまりにもつまんなすぎるぜ」


 ケインは、カイルの顔をじっと見た。


「カイル、お前の魔法剣が、そう言ってるのか? 危ないから逃げろって……?」


 カイルは目を反らし、しばらく黙っていたが、


「……別に、そんなんじゃねーけどさ」


 聞き取れないくらいの小さな声で、そう言うと、ぷいっとケインに背を向けた。


(素直じゃないなー。本当は、クレアのこと、助けてやりたいと思ってるんだろう。変なことに意地張って、オトナ気ないヤツだ!)


 静かな暗がりの中、ケインは、笑いをこらえるのに一苦労したのだった。


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