閑話 【国王夫妻の夜】
いい年した人たちがイチャイチャしてます。
苦手な方は飛ばしてください。
本編には全く関係ありませんwww
夜。国王と王妃の寝室では、王妃だけが一人、開かれた窓の外を眺めていた。部屋の明かりをすべて落とし、月明かりのみで庭園を見下ろす。その手には一冊の大ぶりな手帳。その表紙を愛おしそうになでる。
静かに扉が開かれ、夜着を纏った国王が入ってくる。
「なんだ、起きていたのか」
「ええ。なんだか懐かしくて」
これ、と差し出された手帳を受け取った国王が中を開き、ああ、と目を細める。
「子供らの幼き時の物だな」
「それはまだサーシャマリーが生まれたばかりの時のね。あの時から二人はお互いにべったりで…少々妬けていたわ」
手帳には子供たちの成長記録とともに、折々に触れ王妃が取った二人の手形、足形がうつっている。幼いサーシャマリーの物はところどころこすったような跡も見られるが、それもまた大切な思い出の一つだ。
ぱらぱらと手帳を眺めて国王は彼女にそれを返す。
「こんなに小さかったのに…あっという間ね」
「そうだな。私が隠居できる日も近そうだ」
「またそんなことを!思ってもいないくせに子供たちを驚かせないで」
王妃が傍らに立つ国王の腕のあたりを軽く叩く。それに苦笑しながら
「まあ、まだしばらくは掛るだろうな。ユーリックに国を渡す前に、私にはまだまだしなくてはいけないことがある」
「…そうね。もう少し、陛下には頑張っていただきませんと」
今叩いたばかりの手で、今度は優しく彼の腕を撫でる。つ、と眉を上げた国王は王妃のその手を取り意味ありげに笑いかけた。
「他人事のように聞こえるぞ」
「そうかしら?私も早く田舎へ行きたいですわ、陛下」
「…よく言う」
結婚以来、王妃は今までその立場に付いていた誰よりも精力的に政務に努めてきた。在位十九年でその地位は確固たる物となり、国王から政治についての相談を受けることも多々ある。彼女はそんな生活を大いに楽しみ、励んできた。いまさら田舎でのどかに生活する姿など想像がつかない。
見上げてくる王妃のごく薄い色の金髪に顔を寄せ、彼は楽しそうに呟く。
「では、お前が王都から離れがたくしなくてはならないな」
「…どういうこと?」
王妃の体をすくい上げ、窓を閉めると国王は部屋の奥へと歩き出す。
「ユーリックとサーシャマリーは仲が良すぎる。あれでは本当に後々結婚に支障が出るかもしれんだろう」
「まあ、確かに。でも、さっきは…」
「あれもまた本心だ。だから、もう一人弟か妹がいればいいのだろう?」
「…本気ですか?」
「お前も幼い子を残して田舎になど行けぬであろうしな」
楽しそうに言う国王に、呆れたような、しかし嬉しそうな顔で王妃は答える。
「…五十歳なのに、お元気ですね」
「まだ四十九だ」
――――国王夫妻の夜はゆっくりと更けていく。