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第28話

ながっ(笑)

 リュートにある森は深く、長い。それは隣接している村と別荘地を隔絶するためとも、狩猟のためとも言われている。また、リュート側はある程度整備されているが、途中からは全くの手付かずで自然を満喫できた。

 何年もリュートに遊びに来ていたフレアもあまり奥まで行ったことはなかったが、今日は馬ということもあり、森の中ほどにある泉まで二人は足を伸ばした。


「こんな所があったなんて知らなかった!きれい…」


 オーランジュに馬からおろしてもらいながらも、フレアの目は太陽の光を反射してキラキラ光る泉に釘付けだ。地面に足が付いてとたん、泉に向かって走り出す。そっと手を差し入れ、その冷たさに驚いている。馬を泉のほとりにつないだオーランジュも傍らから覗きこんでくる。フレアがいたために馬を走らせるというよりピクニックになってしまったが、幼馴染の無邪気な様子にまあいいか、という気になる。

 泉の淵から少し離れた木陰に持ってきた敷き布を広げ、二人は外でのランチをとることにした。

 王都よりも若干涼しい風がまだ心地よい季節。たびたび飛ぶフレアの話題に耳を傾けながらの昼食は穏やかなものだった。


 小一時間もそうしていただろうか。あまり長居してグレンバック家のお茶の時間に遅れると母がうるさい、とオーランジュが腰をあげる。


「ええ~、もう行くの?」

「また来年来ればいい。泉は逃げないだろ」


不満そうなフレアをなだめながら馬の縄をほどきにかかったその時、二人のいる対岸からガサっと音がして突然人が現れた。


「な、なんだ…あんた達は誰だね?」

「…通りすがりだ。あんたは村の?」


隣村の者だろう男が驚いて声を掛けてくる。突然の出来事に驚いてオーランジュの背に隠れたフレアをかばいながら返事をする。


「こんな所まだ入って来るなんて、珍しいことを…」


男がほっと肩を撫で下ろしたのを不審に感じたオーランジュだったが、さっさと帰るに限ると馬の縄を木から解く。と、とっさに隠れていたフレアが恐る恐るオーランジュの陰から顔を出して男を伺った。


「こ、こんにちは」


一応挨拶くらいはしておこうと頭を下げたフレアだったが、その姿を認めた途端、男の顔が驚愕に固まった。それに二人も驚く。


「あの…?」

「ひぃっ!!」


フレアが首を傾げながらさらにオーランジュの背後から出ると、男は顔をひきつらせて後ずさる。それに思わず伸ばしていた手がビクリと止まる。あまりの男の態度に眉を顰めたオーランジュが問いただそうと声を発する前に、男が自分の背後に向かって叫びだした。


「おいっ!みんな来てくれっ!!ま、魔障の娘がおるぞー!」

「えっ…?」


大声で叫ぶ男の言葉にオーランジュもフレアも意味がわからなかった。しかし、よくない事態に陥りそうなのは確かだ。ちっと舌打ちをすると、オーランジュはさっと馬に飛び乗った。青い顔で向こう岸を見つめるフレアに腕を伸ばす。


「フレア!行くぞ!!」

「え…う、うん!」


 慌てて腕を伸ばし、馬上へ引っ張り上げてもらう。その間にも対岸ではがさがさと盛大な音を立てて数人の男がやって来るのが見える。おろおろとしてぐらつくフレアの体をむりやり抱え込み、オーランジュは馬の首を返した。


「あ!逃げるぞ!!」

「待て!その娘を置いていけー!」

「追えー!逃がすんじゃねえ!!」


 チラリと背後を見ると、おそらく狩りの最中だったのだろう、手に手に弓や剣、中には斧を持った男達がわらわらと現れては追って来る。引き返している者がいるのを見ると、他の仲間に伝えに行ったか、最悪は馬があるのだろう。なんにしてもオーランジュ一人でどうにかできる人数ではない。ぐっと手綱を握る手に力を込めると馬の腹を強く蹴った。


 身をかがめて立ち並ぶ木をやり過ごす。しがみついてくるフレアを懐に抱えながらは、かなりキツイものがあったが、相手は地の利があるせいかなかなか声が遠ざからない。オーランジュは苛立ちながら馬を駆った。

だが、慌てていたためか途中で方角を間違えたらしい。馬は崖の切り立つ場所へ入ってしまう。ぐっと手綱を引き愛馬を止める。額に浮かぶ汗をぬぐいながら腕の中のフレアを見れば、こちらもぐったりとしている。今日初めて馬に乗った彼女にはかなり堪えたはずだ。


「大丈夫か?」


そっと乱れた前髪を撫でれば、微かにだが頷きが返ってきた。それにほっとして辺りを見回す。


「あの人たち…なに?」


怯えを湛える顔で呟かれた言葉に、オーランジュは首を傾げる。


「さあな。なにか勘違いをしているんだろう。それより、早く戻ろう。リュートまでは入ってこないだろう」


そう言うとフレアはこくこくと何度も頷き、ぎゅっとしがみついてくる。

抜けられそうな所がなかったので、仕方なく引き返そうと馬の体の向きを変えた。が、その時目の前の茂みががさりと分けられ数人の男が現れる。


「いたぞ!こっちだ!!」

「兄さん、悪いことは言わねえ。その娘をこっちに渡すんだ!」


険しい顔をした男達が口々に叫ぶ。呼び声に応える声も聞こえてくる。これ以上人数が増える前にこの場を突破しなければと、焦るオーランジュは馬の首を向けて叫ぶ。


「どけっ!!」


しかし彼らはひるむ様子もなくオーランジュに、正確にはフレアに手を伸ばしてくる。


「くそっ、どけ!!いいかげんにしろ!」


からみつく男達の手に馬が進まない。


「きゃぁっ!いやっ離して!!」


片側を相手にしていれば、反対側からフレアに伸びた手が彼女をひきずり降ろそうと腕を掴んでいる。

それを慌てて振り払うが、今度は逆から手が伸びてきてきりがない。


「や、やだっ!!さわらないでっ!」

「フレアっ!!」

「オーランジュ!やだぁ!」


ずるっとオーランジュの前からフレアがとうとう下ろされる。たがいに手を伸ばすが、男達はフレアを馬から離していく。オーランジュも馬から飛び降り、腰の剣を抜こうとするが、いち早く察知した男が素早くオーランジュを取り押さえる。


「いいかげんにしろっ!お前達、伯爵家の娘にこんなことをして、いいと思っているのか!?」


オーランジュのその言葉に、一瞬男たちは怯んだ様子だったが、フレアの体を掴む男が頭を振る。


「そんなはずはねえ!貴族様の娘が、魔障の娘だなんてありえねえ!!」

「そうだ、兄さん騙されてんだ!あの娘は『呪い』の子だ!!」

「呪いだと!?」


男の腕を振り払おうともがくオーランジュが鋭い視線を背後に向ける。それに集まってきていた他の男達も彼を捕えながら頷く。


「そうだ。あの娘は呪いの色を持っている。…かわいそうだが、返すわけにはいかねえ」


オーランジュは目をむく。


「ふざけんなっフレアを離せ!そいつに触んな!!」


かなり離された場所でフレアがぼろぼろと涙を流しながら手を伸ばしてくる。身体を後ろから押さえられ、口をふさがれたフレアは声も出せない。


「いかん、呪われるぞ!早く始末するんだ!!」


そう言われた男が腰から大ぶりのナイフを取り出す。もがいていたフレアはそれを見て驚愕に固まった。オーランジュも顔色を失う。


「やめろーーっ!!」


渾身の力で男達の腕を振りほどくと、フレアのもとへ足を踏み出す。それを横目で見ていたナイフを持った男が、慌ててナイフをフレアに振りおろす。


ガツンと、骨と骨がぶつかる音が響く。フレアに刃が届く寸前でオーランジュが男に体当たりをした。同時に吹っ飛ばされたフレアと彼女を捕えていた男も転がる。


「オーランジュ!!」

「あっ!待て!!」


拘束が緩み男の腕から抜け出したフレアが立ち上がろうとするが、すんでの所で足を掴まれ転ぶ。


「フレア!」


振り返り、身体を起こしたオーランジュが手を伸ばすが、彼に体当たりをされた男も起き上がる気配がするのに身構える。


「くそっ!邪魔すんなっ」


そう叫んでナイフを握りなおし、振りかぶる男の前をパラパラと何かが風に乗って流れていく。細い糸のようなそれらの色に、オーランジュがフレアをチラリと見れば、彼女のスミレ色の髪が右側だけ極端に短くなっている。今度は三人の男に取り押さえられているフレア。その姿にオーランジュの頭にカッと血が上る。

――――切りやがったのかっ…!

拳を握りしめたその時、風に流れたフレアの切られた髪が彼女の方へと漂う。まるで引き寄せられるかのように。


 そして、その髪が彼女の目の前に来た時。



ドンっという音とともに、辺り一面が火の海と化した。



またしても見直しなし!

すいません…

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