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第25話

 ユーリックを筆頭に、バルドーとオーランジュが国王の執務室から出てくる。入室を禁じられていた侍従が、ハッと顔をあげて何かを聞きたそうだったが、彼らは一顧だにせず歩き出した。


「オーランジュ…やつがフレアに目をつけたのは、やはり先日のことがあったからだろうか?」


 歩調を緩めず、振り返ることもなくユーリックが背後のオーランジュに問う。見えていないと知りつつも、オーランジュは首を横に振った。


「いいえ。奴がフレアに会ってからすぐに俺の前に現れました。それ以前から目をつけてはいたのでしょう。もしかしたら接触を図って、違う計画があったのかもしれませんが…あの跳ね返りが大人しく言うことを聞くタイプではない、と気付いたのではないかと」

「…ダングレイ伯爵の娘はそんなに勝気な娘だったか?清楚な感じだ、と近衛の中では評判だったじゃないか」


 バルドーが横から口を出す。その言葉にオーランジュは肩を竦めた。


「猫かぶりなんですよ、あいつは。たぶん、いまだに平気で木にも登れますよ。…大方、話を聞いてやるそぶりも見せなかったんでしょう」

「…近衛の奴らが聞いたら驚くだろうな」


 軽口をたたきながらも三人は大股で城の中を進む。少しでも暗い雰囲気を払拭したいのであろうバルドーの言葉に乗りながらも、オーランジュは心の中で激しく己を責めていた。幼稚な自分の感情に流され、何日もフレアと話すことをしなかった。ようやく会ったかと思えば、自分を否定するかのような言葉に動揺し、突き放すような態度をとってしまった。そのすぐ後に彼女達が攫われたことを思えば、過去の自分を殴りつけてやりたいぐらいだ。


 いつになく険しい顔をした部下に、おもしろいものを見たとバルドーは内心思う。こんなときでなければ思う存分からかうのだが、今はとにかく目的を遂行することが最優先だった。おそらく、三人のうちで一番冷静なのは己だろう、とバルドーは考える。妹の身を案じるユーリック、幼馴染を攫われたオーランジュ。部下の不始末という責任を負わねばならない立場ながら、二人の方がよほど身を切る痛みに耐えているのはずだ。普段冷静な二人が怒りに身をまかせつつあることを認識して気を引き締める。

――――無事に済むといいのだが…

それが攫われた二人へ向けてなのか、これから向かう人物へ向けてなのかは、自分でも判断できなかった。





第四近衛隊・詰所。鍛錬や職務の合間に休息を取る際や、隊の連絡事項などが行われる場所だ。前を進んでいたユーリックがドアの前に立つが、背後からバルドーがその肩を押さえる。


「殿下。ここは私が。殿下自らが先頭を切ってこられては、他の者に不審がられます」

「…そうだな、頼む」


大人しく道を空けたユーリックに、軽く頭を下げるとバルドーはドアを開けた。

中にいた数人が一斉にドアの方を向き、バルドーの姿を認めると立ち上がる。それを軽く手でとどめ、部屋を見回す。


「…デューク・ウィンストーンはどこだ?」

「…デュークは午後から休みをいただいております。なんでも実家の方で急用だとか…」

「なに?いつごろ出ていった?」


眉を顰める総隊長に、その場にいた第四近衛隊の面々は顔をこわばらせる。みな一様にお互いの顔を見あいながら、発言を押し付け合っているようにも見える。

――――だから、貴族の坊ちゃんの箔付け部隊なんて言われるんだ!!

ぎりっと奥歯をかみしめた音が聞こえたのか一番手前にいた隊員が、ひっと半歩後ずさる。

冷静に、とさっきまで思っていた自分が吹っ飛びそうになった時、バルドーの後ろから声が掛る。


「どけ、バルドー。私が直接聞く」

「ユーリック殿下…」


半ば彼を押しやるようにユーリックが身体を滑り込ませてくる。その様子に隊員達はますます萎縮し、首を垂れたまま固まった。その姿に思い切り不快感を表すと、ユーリックは低い声で問いかける。


「デューク・ウィンストーンだ。やつはいつ城を出た。知っているものはおらんのか?」


 なお沈黙を続ける隊員達に、ユーリックは冷めた目で見下ろしながらバルドーに告げる。


「この者たちは口がきけぬらしい。近衛隊の仕事は無理であろう。そうそうに退城させよ」

「デュ、デュークは!実は朝から姿が見えませんでした!ただ、昨日の晩に外出し、そのまま戻らなかったようなので…その…」


一人が慌てて顔をあげる。その様子に他の者たちはさらにバツが悪そうだが、ユーリック達は気にも留めず、話しだした一人に目を向けている。バルドーが言い淀む隊員に、顎で先を促す。


「お、女の所にでも言っているのだろうと…同室の者が」

「…かばっていた、というわけか。すばらしい友情だな。その同室の者はどこにいる?」


バルドーの軽蔑したような眼差しに、居た堪れないのか発言した隊員は俯く。しかし、彼の視線は足元ではなく、部屋の奥にいる一人の隊員に注がれていた。よく見れば他の隊員達も彼を盗み見ている。当の本には真っ青な顔で俯き、小刻みに震えているようだ。


「…なるほどな。お前か、デュークと同室の者は。顔をあげろ」


バルドーの声に、びくっと肩が大きくふるえた後にゆっくりと顔をあげた。


「聞きたいことがある。包み隠さず正直に答えろ」

「は、はい…」

「デュークは昨日どこへ行くと言って城を出たのだ?」

「の、飲みに行くと言っていました。一緒に行こうとしたら、城下で人と会う約束があるからダメだ、と」

「人と会うと言っていたのだな?誰かわかるか?」

「いえ…ですがそこそこ身形を整えていましたので、相応の店に行くのでは、という感じでした」

「デュークはよくそのように外出することが多かったのか?」


ふむ、と考え込んでいるバルドーに、ユーリックが横から口をはさむ。皇太子から直接声を掛けられた隊員は、ますます顔色を失くす。


「い、いえ…帰ってこないなどということは初めてです。仕事の後に城下に降りることは何度かありましたが」

「最近はどうだ?」

「そういえば、ここ1週間ほどは増えていたかと…」


 考え込む風の隊員に、ユーリックとバルドーは目配せをし合う。


「邪魔をしたな。引き続き任務にあたれ」


そう言って身を翻すユーリックに頭を下げながら、あからさまにほっとした様子の彼らにバルドーがこそりと呟く。


「戻ったら覚悟しておけ…第四隊は全員一から鍛えなおしだ」


真っ青になった貴族のご令息達を残して二人はドアから出ていった。







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