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第24話

「フローレディア嬢は、まだ『呪い』を持っていますか?」


王妃のその言葉に、ユーリックとバルドーは驚き、ダングレイ伯爵とオーランジュは緊張に固まった。そんな四人をよそに、王妃はいっそ淡々と語る。


「彼女が城に上がる時、ダングレイ伯爵夫人が内密に私のもとを訪れました。その時、彼女は私に言ったのです。――フレアには『呪い』がある、と」


 その言葉にダングレイ伯爵は俯く。絞り出された言葉は苦しそうだった。


「…ご報告せずに、申し訳ございませんでした」

「伯爵。責めているのではありません。私はそのことを陛下にもご報告申し上げています。その上で、私達はフローレディアにサーシャマリー付きの侍女として勤めてほしい、と。彼女自身を見て決めたことです」


 慰めるような王妃の言葉も、伯爵には答えることができない。


「…どうなのだ、ダングレイ」


 国王の重い言葉に、彼は目線をあげる。意を決したように、二人を見つめる。


「…フローレディアは年に数回、我が家へ帰ってまいります。その時、娘の髪を切るのは妻の役目でした。…『呪い』が収まったとの話は聞いておりません」

「そうか…」

「オーランジュは、どうだ?城でフローレディアが『呪い』を失ったような気配はしないか?」

「いえ…そもそも彼女は、ここ数年呪いの力を使うことはしていなかったはずです」


二人の答えに頷いた国王は、傍らの王妃を見る。その視線に彼女も頷き、改めてダングレイとオーランジュを見据えた。


「古より細々と続いている、今は『呪い』と言われてしまった力があるのは承知しています。そして、その力は、恐らく…サーシャマリーにもあります」


国王を除く全員が王妃の言葉に目をむく。


「…サーシャマリーにどのような力があるのかは、わかりません。あえて、確かめなかったの。でも、あの子の髪の色が何よりの証拠。ユーリック、黙っていてごめんなさい。あれは、あの子の髪の色は私から受け継いだものなのです」


 つらそうに顔を歪める王妃に、誰も二の句が継げない。国王は全て知っているのだろう。ただ一人、目を閉じて王妃の言葉を聞いている。薄い金色の髪を持つ王妃は、息子を見つめながら語る。


「かつて、まだアーデルヴァイドが戦乱の中に会った折、私はその力を極秘裏に使っていました。なぜそんなものがあるのかもわからなかった。とくに辛い思いをしたとは思わないけれど、それが希有なものだと知ってからは、近寄る者全てに不安と疑惑を覚えました。…利用されるのではないかと」


 いい思い出ではないのだろう。眉がわずかにしかめられる。


「国のために力を使ったのは、私の意思でした。史実には残らない形で、しかし確かにそれはあった。でも、限界があるのですよ、ダングレイ伯爵」


つ、と表情を和らげると、視線をダングレイに向ける。まさか、と思ったのは彼だけではなく、隣にいるオーランジュも驚きに王妃を見つめる。


「『呪い』と言われる力の使い方は人それぞれです。私は意識を高めるだけで良かったのだけれど、フローレディアは『髪を切る』という『行動』が必要だったようね。――同じように、おそらく力の限界も彼女独特の方法があるのでしょう。それを見つけることができれば、フローレディアは『呪い』から解放されるはずです」

「…母上は、どうされたのですか?」


 王妃の告白に驚きつつも、ユーリックが聞いてくる。それに彼女はにっこりと微笑みかける。


「使い切ったのよ。国を守るためにも使ったけど、何より大きかったのは…陛下とともにあるために。だから、私の髪には『色がない』のよ」


謎めいた言葉だったが、ユーリックはそれ以上追及しなかった。そんな息子に愛しげな眼差しを瞬間送ると、王妃は向き直る。


「サーシャマリーとフローレディアが揃って攫われた、と言うのなら目的はそこにあると思います。」


静かに言葉を締める王妃に、オーランジュはぐっと拳を握りしめる。身の内でたぎる怒りを察知したのだろう、バルドーがチラリとオーランジュに視線をやる。


「…先ほど報告がありました。ルーヴィッツなる仕立屋は、王女殿下付きの侍女を伴い退城したそうです。殿下付きの侍女という立場を免罪符にしたのでしょう。門衛も荷物を検めることなく通したようです」

「その者は、もう一人の侍女か?」

「はい、殿下。ディケイデット子爵家の娘、ネルです」

「サーシャ付きの侍女が手の者なら、隙を見つけるのも容易かったというわけか…用意周到だな」


親指の爪を噛むユーリックに、バルドーが応じる。そのやり取りで、先ほどまでの王妃の驚きの告白で漂っていた静かな空気が、一変ピリピリしたものに変わる。


「はい…なんでも彼女は自分用に、とルーヴィッツからドレスを買う予定だったようです。そのため何度か店にも足を運んでいるのですが、怪しまれることもなかったようです。周りの侍女たちも不審には思わなかったと言っています」


 ユーリックの眉間のしわが深くなる。


「それに、小広間での生地選びの際、そのネルと言う侍女が王女殿下にルーヴィッツのドレスをすすめていた、との証言も出ています」


 バルドーの報告に、今度は王妃が眉を顰める。自分の思い付きが娘を危機に陥らせたと思っているのだろう。それに気付いた国王がバルドーを止める。


「バルドー、もうよい。それより、サーシャマリーの行く先だ。王妃の言う通りなら、犯人達がこちらになんらかの要求をしてこない可能性もある」

「つまり…力を利用するためだけに攫った、と」

「…そうだ」


 部屋にいた全員が息を飲んだ。手がかりのない中、犯人側から接触がなければ何も掴めないかもしれない。ユーリックが王妃に詰め寄る。


「サーシャは、サーシャの力とはどのようなものなのですか!?彼女が力を使えないとなったら犯人はっ!」

「…落ち着きなさい、ユーリック」

「母上!!」


 肩を押さえる母の手を振り払い、ユーリックは父である国王の机にバンっと手をつく。


「父上!なぜサーシャマリーを探さないのですか!?軍を動かさないのですか!?」

「ユーリック。冷静になれ。お前は一人の人間のために、国軍を動かすのか?」

「しかし!サーシャマリーは王女ですよ!?」


詰め寄って来るユーリックに、国王は顔の前に手をやり留める。


「わかっている。しかし、軍を大々的に動かせば他国にもその動向を感知される。サーシャマリー一人のために、国民の安寧を脅かすわけにはいかない。理解しろ、ユーリック」


強い視線を向けられたユーリックが、なおも言い募ろうとするが、その瞳に父の苦悩を見てとり押し黙る。立ち上がり、息子の肩に一度手を置くとダングレイ伯爵に視線を向けた。


「サーシャマリーに関して、この話は今まで私と王妃しか知らぬ。ダングレイ、フローレディアの髪の『呪い』を知る者はどれほどいる?」

「はっ。私の家族、妻とフローレディアの兄と…ここにおりますグレンバッグ侯爵家のご子息、オーランジュ殿とご当主の侯爵様のみでございます。当家では使用人にも明かしてはおりません」


言外に自分も問われたことを察知したオーランジュが、国王に首を垂れながら伯爵に倣う。


「当家でも私と父以外は存じません」


その様子に国王は頷く。が、オーランジュは再び口を開く。


「陛下…一つ、気になることがあるのですが、ご報告させていただいてもよろしいでしょうか」

「…申せ」


国王の許可を得たオーランジュは、部屋内の全員に向けて話しだした。


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