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第23話

今後場面がころころ入れ替わります。

読みにくかったら教えてください。

 フレアは身体の痛みに無理やり眠りから覚醒した。身体どころか頭も痛い。こめかみを押さえながらゆっくりと体を起こす。

――――私、どうしたんだっけ?

ぼんやりする視界にごしごしと目をこする。まだぼーっとする頭をはっきりさせようと首を振ると、自分の反対側に倒れているもう一人の人物に気付く。倒れたままの姿から流れる黒髪にハッとなる。


「サーシャマリー様!!」


 慌てて膝立ちのまま近付き、呼吸を確認する。わずかに上下する胸にほっとし、あたりを見回すと見たことのない部屋だった。石がむき出しの壁に簡素な調度品、というのも憚られるような家具。一応ベッドもあるが、彼女達が寝かされていたのは床だった。固く、冷たい床の上にどれだけの時間いたのだろう。道理で体が痛むはずだ。窓は彼女の背のはるか上にあり、空が小さく切り取られている。夕闇もそろそろ消えかけている。その様子に、フレアは自分たちの状況を悟る。


――――攫われたんだ…


 王女付きの侍女として、王女が常にその危険にさらされていることくらいなんとなくわかってはいた。しかし、この3年間一度として身の危険を感じることはなかったために失念していたとしか言えない。理解していたつもりなのに身についていなかった危機感に、フレアは唇を噛む。

 その時傍らのサーシャマリーがわずかなうめき声とともに身動ぎをする。


「姫様。サーシャマリー様…」

「ん………フレア?」


そっと肩に手をやると、薄く眼を開いたサーシャマリーが身体を起こす。背中に手を添え、その手助けをする。


「大丈夫ですか?どこか痛いところはございませんか?」

「ええ…なんだか体中が痛いし、頭もふらふらするけど…大丈夫よ」


サーシャマリーの言葉に一応胸を撫で下ろす。


「ここは…わたくし達どうしたのかしら?」

「わかりません…でも、そうやら城ではなさそうですわね」


 不安そうなサーシャマリーの背を抱くようにして答える。王女が起きたことでフレアは自分がしっかりしなければ、と思いだす。彼女が不安そうにすれば、まだ年若い王女はより心を沈めてしまうだろう。

――――私がお守りしなくちゃ。

そう思ってサーシャマリーの肩をぎゅっと抱きしめた。




 部屋の片隅に置かれていたテーブルに水差しがあるのを認め、フレアは立ち上がる。水差しからコップに水を注ぎ、匂いをかいで不審がないことを確かめると、まずは自分が口に含んだ。毒などが入っていなさそうなことを確認すると、同じコップに再度水を注ぎサーシャマリーに手渡す。受け取った彼女は、恐る恐る口をつけるが、飲み干すといくらか落ち着いたようだ。


「姫様。床は冷えます。どうぞ、こちらへ」


 椅子はなかったのでサーシャマリーをベッドに誘う。サーシャマリーも大人しくそれに従い、二人で腰を下ろした。


「攫われた…のね?」

「そのようですわ…申し訳ございません。私が付いていながら…」

「いいえ、フレアのせいではないわ。とにかく、城へ帰る方法を考えなくちゃ」


サーシャマリーがそう言ったとたん、一つしかないドアがガチャガチャと重い音をたてる。とっさにサーシャまりの体をかばうように抱きしめる。ぎぃっと音を立てて開いた扉から入ってきた人物に二人は驚いた。


「「ルーヴィッツ!!」」


 城で見た服装と全く同じ格好で、嫌みたらしく礼をする。顔をあげたその表情はいつもと同じにこやかな笑みだったが、フレアにはもうニヤけた卑劣な笑みにしか見えなかった。


「お二人ともお目覚めのようですね」

「…見ればわかるでしょう。ルーヴィッツ、これはどういうことか、説明なさい」


キッと睨みつけるフレアに、ルーヴィッツはいやらしい笑みを向ける。


「おや、わかりませんか?なに、大したことではありませんよ。ちょっと城から出ていただいただけです」

「姫様にこのようなこと…冗談では済みませんよ?」

「そうかもしれませんねぇ。でも、仕方がないんですよ。私のような若造が、王都の中で商売をしようと思ったらどこかで賭けに出るしかない」


肩をすくめるその様子に、フレアは怒りを爆発させたかったが、それは得策ではない、と必死で抑える。


「こんなことをして、まだ王都で仕事ができるなんて本気で思っているの?」

「まさか!そこまで愚かではありませんよ」


にやけるルーヴィッツからフレアは視線を外す。おそらく、彼は黒幕ではないのだろう。一商人が起こすには事件が大きすぎる。それに彼の口ぶりから、この後ルーヴィッツは少なくとも王都、もしくはアーデルヴァイドを出るつもりなのだろう。だが、それこそ突然来た異国の者に大きい商売をさせるほど他国も甘くはないはずだ。

――――他国で、それもアーデルヴァイドの王都に匹敵する場所で商売をさせてやれるだけの力を持った人間。フレアはあたりをつけるが、その人数は限られているとはいえ特定することはできない。


「姫様をどうするつもり?」

「どうも。私はあなた方に何もしませんよ。だが、あなた達を『どうにかしたい』方がじきにいらっしゃいます。せいぜい見苦しくないように身支度でも整えておいてください」


 そう言って、ルーヴィッツは身をひるがえすと扉から出ていった。ガチャリとカギが閉まる音が部屋に響いたが、フレアとサーシャマリーはその音にほっと胸をなでおろす。とりあえず、しばらくは入ってこないのであろう。


 フレアは自身の胸に抱きこんだサーシャマリーを伺う。怯えているかと思ったが、そっとフレアから身体を離すと気丈な眼差しでフレアを見返してきた。


「もうじき、と言っていたわね。あまり時間がなさそうだわ」

「…そうですね。姫様…もしかして、なんですが…」

「なに?」


言いにくそうにするフレアに、サーシャマリーが促す。

 フレアは迷っていた。『あなた達』。ルーヴィッツは確かにそう言った。それはつまり、誘拐の対象にフレアも含まれている、ということだ。一介の伯爵令嬢にはたして誘拐してまでの利用価値などあるのだろうか。

 だが、フレアには確かに思い当たることがあった。決して、他者に悟られることのないように過ごしてきたつもりだったが、きっとどこかで『何か』が知られてしまったのだろう。フレアが狙われるとしたら、理由はそれしか思い当たらない。


 本当なら、もう誰にも知ってほしくない。それはフレアの偽らざる本音だ。しかし、この状況でサーシャマリーにそのことを話さないことが、良いことへ向く手段だとはフレアには思えなかった。


 一つ息を吐き、サーシャマリーに目を合わせる。


「お話しておかなければならないことがあります」

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