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第20話

ずるずる引きずられるようにして庭園の端にある木立の中に入る。人目から隠れるような位置で、ようやくフレアは解放された。引っ張られたドレスの襟を直しながら、一言も発さない彼――オーランジュに向き直る。

 フレアは歩いている間になんて言おうかとずっと考えていた。いや、この3週間考えていたのだ。言葉がないわけではない。だが、あんなことを聞かれた後ではどうしようもない、と気持ちはすっかり開き直っていた。


「…こんなとこまで引っ張ってきて、何の用かしら?」

 努めて平静を装った声を出す。しかし、一向に答えないどころか、視線を合わせもしない幼馴染にフレアは訝しげな視線を向ける。と、その手にまたしても服らしきものを持っていることに気付いた。

また破ったのか、と思ったがそれを口実にできることに少しほっとする。


「今度は何を破ったわけ?縫ってあげるから…」


貸しなさい、と伸ばした手を避けるように、オーランジュは服を背後に隠してしまった。

え?と思って顔を見上げれば、やはり遠くを見たままでぼそりと答えられる。


「いや、いい」

「な、なによ?そのために来たんじゃないの?」


思わぬ行動を取られ、動揺する。そんなフレアをよそに、オーランジュは気難しげに眉根を寄せた。視線はまだどこかを見たままだ。


「これは…城のお針子に頼むことにする。悪かったな、連れ出して」

「ちょ、ちょっと!!」


くるりと背を向けだすオーランジュを慌てて呼び止め、腕を掴む。

――――まだ、謝ってないのに!

焦って呼び止めたはいいものの、言葉が出てこない。オーランジュも足を止めたが、振り向かない。そのことがフレアの心をさらに乱す。


「…なんだ?」


 いつまでも固まっているフレアに、先にオーランジュが口を開く。ビクリと身体が跳ねたのは、いつになく彼の声が冷たく聞こえたからだろうか。その感じが彼にも伝わってしまったであろうことに気付き、なおさら焦る。


「あっあのっ!ふく…この前の服!できたんだけど…」


なんとか開いた口は、思っていたのとは別の言葉だったため、語尾が鈍る。だが、オーランジュはそのことに気付いていないのか、ああ、とやっと顔をこちらに向ける。しかし、なんだか無性に後ろめたいフレアは視線をそらしてしまう。


「…今度でいい」


 頭上から溜息とともに吐き出された言葉に、フレアの気持ちは沈む。地面とにらめっこをしていたフレアは、するりとはずれた腕が一瞬彼女の頭の上をさまよい、やがて下ろされたことに気付かなかった。

 視界の隅にあったオーランジュの靴が歩き出す。


「お前も早く戻れ」


 その言葉に、フレアは彼に背を向けて走り出した。






――――なんなのっ!いったい何なのよ!なに様なのよ!?

唇をかみしめて城内へ戻る。リリーのもとに戻ったフレアは、驚く彼女に「もう嫌だ!」とだけ言うと、支度が終わって空になった銀盆を掴むとずんずんと歩き出してしまった。後から小走りでついてくるリリーが「なにがあったの!?」と必死に声を掛けてくるが、なんでもないとだけ言ってあとは唇をかみしめたままだ。

 厨房に銀盆を返す――というより叩きつける――と、サーシャマリーの部屋へ戻ろうとしたフレアの腕をリリーがガっと掴む。


「なに!?」

「なにじゃないわよ!そんな態度で姫様の前に出る気!?」

「そんなことしないわよ!」

「嘘ね!なにがあったのか知らないけれど、気持ちの切り替えもろくにできない人を姫様の前に出すわけにはいかないわ!部屋に戻りなさい!」


 強い語調で言われた言葉にぐうの音も出ない。高ぶっていた気持ちが一気に冷めていくのを感じながら、フレアは再び唇をかみしめた。

――――情けない…

リリーの言うとおりだった。このままサーシャマリーの部屋へ戻ったところで、平静さを保てるのか正直自信がない。怒りがおさまると反動で気持ちがどん底まで沈みそうになる。

ぎゅっとドレスを握りしめ俯くフレアを、リリーはそっと抱きしめた。今度は優しく語りかける。


「さっきは行かせてしまってごめんなさい。こんなつもりじゃなかったのよ…こっちは引き受けるから、部屋で休んで?」

「でも…」


先ほどもリリー一人に任せてしまった。これ以上甘えられない、と顔をあげるがリリーはフレアの顔を自分の、彼女より少し低い肩にそっと押しつける。


「大丈夫。昼から私は出掛けるから…。あなたにはお茶会の後を頼むわ。それに、姫様のドレスだって、しっかり見ててもらわなきゃならないんだし」

「ごめん…後で、ちゃんと話すから…」


わざと明るく言うリリーの袖をぎゅっと握りしめ、フレアは頷く。その様子に満足したかのようにリリーはフレアの背中をポンポンと叩くと、ぐっと身体を離した。


「さあ、私はもう一仕事してくるわ。しっかりご飯も食べるのよ!ヘマしたら承知しないんだから!」

「ええ。ごめんなさい、リリー。…ありがとう」


やっと作った笑顔でリリーに応えると、彼女はじゃあ、と手を振ってサーシャマリーの部屋へ戻って行った。


すいません、時間がないので一発書きです。

誤字、脱字、表現の誤りなどありましたら教えてくださいませ。

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