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第19話

 ユーリックとサーシャマリーのお茶会は、すぐにいつものなごやかな雰囲気に戻った。だが、フレアは隣にいるオーランジュに気が気でない。入室してから彼と一度も目が合っていないことも、フレアの不安を増長させてくる。


――――なになに?まだそんなに怒ってるわけ?

チラリと見やれば、こちらの視線に気付かぬはずもないオーランジュは、しかし視線をまっすぐユーリックに向けたままだ。


――――む、むかつく…!!

そもそも、彼が起こっている理由さえ自分にはよくわからないのに、この仕打ちはなんなのだ。腹の内では煮えくりかえるような思いをしていたが、顔に出すわけにはいかないフレアはぎゅっと、自分の両手を握りしめた。






 翌日はよく晴れた絶好のお茶会日和だった。侯爵家の令嬢が参加するとあって、午前中フレア達は準備に追われる。サーシャマリーが講義を受けている間に整えるべく、厨房とお茶会の会場となる中庭を往復し、テーブルを整えていく。と、フレアとともにテーブルセッティングをしていたリリーが、周りを見回し人が途切れたのを見るや近づいてきた。


「ねえ、昨日の殿下ちょっと変じゃなかった?」

「え?ルーヴィッツ殿とのこと?」

「うん、それもあるけど…普段視察の恰好のまま姫様の部屋にいらっしゃるなんてないわよね?」

「そういえば、そうね」


 昨日はオーランジュに気を取られていたが、確かに入室したばかりのユーリックは少し変だったかもしれない。いつもは人当たりがよく、決して城下の者たちを見てもあのような探るような視線を送ることはない。服装も、サーシャマリーに会う前に必ず整えてくるはずだ。


「ルーヴィッツ殿は緊張して真っ青になってたわよ」

「そうなの?気付かなかったわ…」


今日も来ると言うのに大丈夫だろうか、と城に視線を送る。だがリリーはそんなことより、と楽しげだ。


「久しぶりに殿下の礼装を拝見したわ~!やっぱり素敵よね。マントがあるのとないのとで、どうしてあんなに雰囲気が変わるのかしら?」

「そうね。いつも拝見してると麻痺しちゃうけど、たまに違うお姿を見るとドキッとするわね」

「オーランジュ様の礼装も初めて近くで見たけど、やっぱりたまらないわ!!」


拳をぐっと握るリリーに、だがフレアは一瞬ピクリと動きが止まる。その様子に気付いたリリーが聞いてくる。


「まだケンカしてるの?」


驚いたような表情の彼女に、再び手を動かしながらフレアは首を振る。


「ううん。話してない。っていうか、会ってもいない。昨日が本当に久しぶり。でもあれは会えたにはならないわね」

「…まあ、姫様たちの目の前でおしゃべりを始めるわけにはいかないしね」

「そうね…。ねえリリー?この前の小広間でのことなんだけど…」

「うん?」

「あれってそんなに怒ることなの!?ちょっとしつこくない!?」


 一瞬は落ち込んだような顔も見せたフレアだったが、開き直ったのかリリーに詰め寄る。詰め寄られた方は、えっ?と身を引く。だが、箍が外れたかのようなフレアはお構いなしにリリーの両手をガシッと掴む。


「だって!オーランジュがお誕生祭に出るのなんてみんな知ってるじゃない!どこぞのご令嬢方がその相手役を狙っていることだって。その人たちから自分の身を守るために、ちょっと!ほんのちょこっと『気をつけてね』って言っただけなのに!3週間も避けるなんて、怒りすぎでしょう!?」

「ああ、う、うん。そう、かな…」


フレアの剣幕に押されるリリーの様子にも彼女の勢いは止まらなかった。リリーの掴んだ手を上下にぶんぶんと振り回すようにして捲くし立てる。


「だいたい、器がちっちゃいのよ!そりゃあ私だってちょ~っと嫌味っぽくなっちゃったかな、って思ったのよ?それをあの唐変木がっ!」

「と、唐変木…」

「そうよ!この3週間、謝ろうと思って時間さえあれば城内をうろうろうろうろしてたのよ!貴重な休憩時間を削ってまで!」

「そんなことしてたの…」

「なのに、絶対!ぜ~ったい気付いてたはずなのに!無視!もうこれでもかってくらい無視!!唐変木じゃなかったら何だって言うの!?」

「あ、あのね、フレア…」


諌めようとするリリーに、フレアは何も言うな、とばかりに首を振る。


「ごめんなさい、リリー。あなたの夢をぶち壊すようなこと言って。でもね、もうあんなヤツ知らない!勝手に服でもマントでもビリビリにしちゃえばいいんだわ!そんでどこぞのご令嬢に、できもしない繕い物を頼んで、ぐっさぐさにされちゃえばいいのよ!」

「まあ、そういうのはさ、ほら…」

「オーランジュなんて、貴族のご令嬢方に取って食われちゃえばいいのよー、あの唐変木ー!!」


 はあはあと肩で息をするフレアの背中を、困ったような顔でさすりながらリリーは彼女の顔を覗き込む。叫んですっきりしたような雰囲気をそこに感じ取ると、背筋をしゃきっと伸ばさせ、その肩に両手を置く。


「フレア。あなたの言いたいことはよーくわかったわ」

「…ほんと?」

「ええ。あなたが今まで猫を被っていたことも含めて、ね。でも、私はそんなの気にする方じゃないから安心して。それよりも、しなくちゃいけないことがあるわ」

「あ!ごめんなさい!支度を終わらせなくちゃね!」


 ちょっと引っかかりを覚えた言葉ではあったが、目の前のテーブルを見てフレアは仕事中だったことを思い出す。だが、食器に手を伸ばそうとしたフレアを、肩を掴んだままのリリーが止める。訝しげに顔をあげると、ゆっくりと首を横に振るリリー。その表情はいうなれば「してやったり」だ。にやりと笑うと、フレアの肩に置く両手に力を込める。


「そういうことは、本人に言いなさい」


そう言われて初めて背後に視線を感じる。冷や汗が流れそうだ。ひきつりそうになる顔でリリーの顔を見つめると、彼女の視線はフレアの背後に回っている。


「リリー、私達、友達、よね?」

「ええ、もちろん!すべてはあなたのためよ」


にっこり笑うリリーに、絶対ウソだ、と思う。走って逃げたいフレアの頭上に、あきらかに背の高い人物の影がかぶさる。


「ちょっと顔貸してもらうぞ、『猫かぶり』」


襟首を掴まれるように引っ張られる。ここはまかせてー、と手を振るリリーを今日ほど恨めしく思ったことなどないだろう。


ベタベタな流れになりそうなので、どうにかします(汗)



こんなの予定にない…

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