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第12話

相変わらず長くてすいません…

 オーランジュの私服を持って、フレアはこそこそと自室に戻った。誰のかわからない服でも、明らかに男物を持っているのはまずいだろう。部屋の前まで来てようやくほっとした時、背後から声を掛けられる。


「フレア!どこに行ってた…ちょっと、なによ、それ!」


振り向けば廊下の先からリリーがものすごい勢いで走って来る。

――――ヤバッ!!


慌てて部屋のドアを開けようとするが、焦ってカギが開かない。もたもたしている間にフレアはリリーにガシッと肩を掴まれた。服を背中に隠し、そろり、と彼女をみあげれば、怖いくらいににっこりと笑った同僚がいた。


「ほほほ、フレア。ちょーっとお話しましょう?お部屋にお邪魔してもいいかしら?」


――――目がコワイ…

気迫につられて思わずコクコクと頷くと、リリーは彼女の手から鍵をもぎ取り扉を開ける。二人で部屋に入るとゆっくりと閉めた。


「えっと…お茶でも…」


言い終わる前にさっさとフレアのベットに腰かけたリリーが自分の隣をぽんぽんと叩く。座れ、ということらしい。諦めてリリーから体一つ分間を空け、座る。隣から流れてくる気配が恐ろしい。なんと言い訳しようか、必死で頭を回転させていると、先にリリーが口を開いた。


「それって、また、オーランジュ様、の?」


ドキッとして思わず肩がピクリと動く。それを見逃さなかったリリーはガバッとフレアの両肩を掴んで揺さぶってきた。


「そうなのね!ちょっと、どういう関係なのか、今日こそは白状してもらうわよ!!」

「あの~、リリー?私そろそろ時間が…」

「何言ってんのよ!それであなたを探していたんだから!今日の夜の当番をネルとアデリーが代わってほしいって。だから私たちは今から夕方まで休憩よ!」


――――なんて都合の悪い…

フレアは自分の運の悪さに天を仰いだ。

リリーの追求から逃れる言い訳もできないばかりか、この後夕方からサーシャマリーの就寝まで休憩なしだ。本来ならこの休憩時間にじっくり体を休め、軽食でもつまんでおけば乗り切れるのだが、リリーがそうさせてくれるのはおそらくフレアが彼女の気が済むまで質問に答えた後だろう。


 チラリと見れば、さあ話せ!とばかりのリリー。オーランジュとの会話を思い出して、まあいいかとフレアは息を吐く。


「…誰にも言わないでね?」

「それは内容によるわね!」

「あんまり広まると彼に迷惑がかかるかもよ?」

「それは、困るわ。わかった、約束する。誰にも言わないわ!」


 本当かな、と思わなくもないが、きっとオーランジュを慕う彼女のことだ。迂闊なことはしないだろう。明るくて奔放な面もあるリリーだが、案外口が堅いのは今までの付き合いでなんとなくだがわかる。

 なるべくリリーと視線を合わせなくてもいいように、フレアは今オーランジュから預かった服を直しながら話すことに決めた。


「…幼馴染なのよ」

「…うっそ!だってあなた達の家は近くもないじゃない!!」

「そう、ね。王都の屋敷は全然近くないわ。でも、別荘のあるリュートではすぐ隣なのよ」


 王都からほど近いリュートは穏やかな気候の土地で、貴族たちの別荘地として有名だ。フレアが五歳になる年に父であるダングレイ伯爵がそこに別荘を構えた。その時敷地を隣り合わせて建っていたのが、オーランジュの実家であるグレンバック侯爵家の別荘だった。王都には同年代の友達が大勢いた二人だったが、別荘地ではお互いが一番年の近い相手だったので、フレアの兄を合わせた三人は自然とよく行き来するようになった。――当時、次期財務大臣候補として頭角を表していた父がグレンバック侯爵と親交を深めるためもあったかもしれない、ということに気付いたのは城に上がる少し前くらいのことだ。


 当時の三人に別荘での休暇は、王都の屋敷での勉強や作法の講義といった子供には煩わしいことから解放される貴重な時間であり、フレアとオーランジュは年の差が五歳ありながらもよく共に遊んでいた。もともと女の子にしては活動的だった彼女も、兄達と野原や森を駆け回ることをとても楽しんでいた。春と秋の年に2回程度だったが、お互いの家族も生き生きとする子供たちのためにリュートでの時間を大切にしていた。


 オーランジュの服にボタンをつけなおしながら、そんなことをフレアは語る。リリーは何が楽しいのか目を輝かせながら聞いている。


「まあ、幼馴染って言っても会った回数自体はそう多くはないんだけど。兄と彼は王都でもたまに会っていたみたいなんだけど、私は別荘でしか遊んだことはなかったわ」

「それが、お城勤めで運命の再開…」

「そう…って、運命のっておおげさじゃない?」


 針から顔をあげ、リリーを見て驚いた。両手を胸の前に組んで天井を見上げるその瞳はうっとりしている。

――――え?なんで?

思わず眉をしかめるフレアにお構いなしにリリーは呟く。


「幼いころの淡い初恋の思い出。年に数回しか会えない相手を思って胸を焦がす日々。それが勤め始めた城でまさかの再開。運命以外の何だと言うの!」


――――初恋じゃないし、思ってないし!

慌てて針を置くとリリーの両肩を揺さぶって目を覚まさせる。


「リリー!しっかりして!!何を言っているの!?」

「いいのよ、フレア。ごまかさなくても」

「ごまかすって何を?それに、私オーランジュが城で働いていたことを知っていたわよ」


その言葉にリリーは一瞬ぽかんとする。が、すぐに気を取り直して


「じゃあ追いかけてきたってこと!?すごいわ、フレア!最初は伯爵家のご令嬢がなんで?って思っていたのだけど。まさか好きな人のために働きに出るなんて!!」

「違うって!!言ったでしょう?兄と彼は王都でも会っていたって。それで知ってただけよ!」


 どうやらリリーの頭の中では完全に物語ができあがっていそうだ。なんとか誤解を解こうと、フレアは内心かなり焦ってきた。


「彼とは初恋とかそんなのなかったし、きっと向こうは妹くらいにしか思っていないわよ!縫物を頼みに来るのだって、昔遊んでいて、よくみんな服を破ったから…それをごまかすためにうまくなったのを知ってるからよ」

「何言ってるのよ!オーランジュ様が今までお針子に縫物を頼まれたことなんて一度もないのよ?」

「それは…今までも私が縫っていたから」


気まずくてぼそぼそと答えると、リリーはそうではない、と手を横に振る。


「あなたが来る前からよ。もともとオーランジュ様は剣の腕もたつ方だったからお怪我をされることも滅多にないけれど、服を破るなんて一度も聞いたことないわよ?」

「…どういうこと?」


 フレアよりも城勤めが長い彼女の言葉に、え?と思う。フレアが城に上がって三年。その間、オーランジュが服の修繕を頼んできたことなど一度や二度ではない。最低でも月に一度は何かしら持ってきていたはずだ。そのたびに「剣に向いてない」とか「どんくさい」とか言ってきたのだ。間違えるはずがない。


「今のあなたの話を聞いて、私はてっきりオーランジュ様がわざわざあなたに会いに来られたんだと思ったんだけど?」

「わざわざ?なんのために?」

「だからっ!運命よ!!」


 再び目を輝かせたリリーに、フレアはどっと疲れが出てくるのを感じた。


「あなた、オーランジュが好きなのではなかったの?」

「もちろん、お慕いしているわ。でも、それはあくまでも憧れよ。私みたいな下級貴族の娘では、ね。遠くからお姿を拝見できるだけで幸せなのよ」


 一瞬自嘲気味に笑ったリリーにハッとなったが、すぐに彼女は夢見る乙女モードに戻る。

拳を握りしめ、フレアに満面の笑みを向けてくる。


「でもあなたは違うじゃない!オーランジュ様から接触を取ってくるなんて、他の娘には考えられないことよ!それだけ愛されてるってことなんだから!それに、鼻持ちならないどこぞの『ご令嬢様』にオーランジュ様が取られるのだって我慢ならないんだから!フレアには頑張ってもらわないと!」


 リリーの笑顔にフレアは曖昧な笑みを返す。

――――絶対に『そんなこと』はないんだけどね。

あってはいけない。その言葉も、その理由も口には出せなかったが。

お気に入り登録、評価、感想ありがとうございます。

毎日一人でワイワイ言って喜んでます(笑)


別作品にバレンタインおまけも書きました。

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