王道だね
ある日目覚めたら、見知らぬ豪奢な部屋だった。
自分が横たわっていたのは、かなり細かい図案――何か大きな鳥だろうか?――が金銀の糸で刺繍された敷物、同じ図柄のふわふわの掛け布団のベッドだった。ただし天蓋はさすがについていなかったけどね!
目を開いたとたん四方八方から人が出てきて(本当だよ!だってベッドの下部分からも人が出てきたし天井からいきなりローブを着たおじいさんが透けて現れたからね!)巫女様お加減はいかがですか、喉はかわいていらっしゃいませんか、巫女様お口をお開けください、お体おふきしましょうかって過剰に面倒を見ようとするんだ。みんな金髪やら銀髪やら青や赤の瞳の美形たちで日本人じゃないって一目でわかる人たちさ。
とりあえず、すぐさまその場で一番地位が高そうな、装飾過多なローブを着た男性に説明を求めたよ(ちなみに天井から出てきた人だ。魔法使いらしい)。
そのおじいさんは私に名前を尋ねた後、比較的親切に説明してくれた。
その内容は何となく予想していた通りで、ここは異世界で自分は魔女を倒すために、国王の命令で巫女としてこの国に召喚されたこと、自分はこの世界のだれよりも精霊の助けをもらいやすい性質で、その力を使ってこの国を助けてほしいということ、旅の従者としてえりすぐりのものを選ばせてくれるということ(その従者の候補はこの部屋にいる美形たちらしい)。魔女を倒したあかつきには元の世界に返してくれるということだった。
私が話を聞いて固まったのを見て、彼らは気遣わしげにしながらいろいろ声をかけたり、食事を勧めてくれた。私がそのどれにも首を振ったの見ると、残念そうにしつつ、サイドテーブルに必ず食べるようにと言い置いてなにかのスープを置き、部屋に一人にしてくれた。
私は何もことばを出すことができず、布団の中にもぐりこんだ。
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私は布団の中にもぐりこんだ後、今部屋から出て行った人間たちへの罵声を心の中で叫びまくった(もしかしたら少しは外に漏れてたかもね!)
いやいやいや、ふざけんなよお前ら。お前らのしてること誘拐だぜ、謝ったって普通許されないよ。
まああいつら謝罪は一言もしてないけど。その主犯の国王も顔ださねーし。
なんで無関係な自分が危険な目に会ってまでこの国を助ける必要があるの?
元の世界に返せるってのは100回やって100回成功するくらいの確率なわけ?
というかそもそも自分はその「元の世界」にもともといたところをあいつらに連れ去られたわけで、元の世界に返すって自分にとって本来何の成功報酬でもないんですけど?
それにさっき出てきたやつらすごく御坊っちゃんぽかったんだけど。動きはのろいし判断力もおせーよ。こっちが説明してほしい何度も言ってんのに何食事の心配してるわけ?
何の苦労も知りません的な。
よその人間連れ込む前にまずは自分たちで苦労してみろよ。
しかも、誘拐犯に正直に名前言えるかよ。この世界なんか魔法とかあるっぽいし。万が一操られたりしたらどーしてくれんの。今日からは太郎・山田だぞ自分。
それに誘拐犯からの食事も怖くて食えねーよ。まあせいぜい1日くらいしか体持たないけど、これからの方針を決めるまではな。
さあそして落ちつけ自分。今後の行動を考えようぜ。
まず、①彼らに協力して魔女を倒して元の世界に帰る
②協力するふりをしてチャンスを見て逃げる
③ここのやつらひっぱたいて魔女に協力して君臨する
④とりあえず逃げる
④だな。①は絶対に受け付けないし、②はここに1秒たりともいたくないからやっぱり受け付けない。
③は結構ひかれるけど、魔女に協力する積極的なメリットがない。
この世界の常識とかないけど、精霊の助けが得られるんなら、死ぬことはないでしょ。死んだらその時だし。それより、この国のやつらにいいようになんか利用されることが生理的にやだ。
ということで自分逃げるよ。
そこの水差しの上にふわふわ浮いている薄水色のきみ、もしあの魔法使いのジーさんに聞かれても何も見てない聞いてないって言っといてね。