春編29話「お守り」
せっかくレオ兄さんも来ているというのに、騎士団と冒険者ギルドでの会議へと連れ出されて面白くない。
冒険者とどう連携をとるか、どのような配置とするのかなど取り決めることは多い。それと街まで被害が及ばないように防衛も必要だし、適切な人員配置が要となる。
万一討ち漏らしが出るとそれはかなり強い魔獣ということになるし、前線ばかりを強い者で固めればいいというわけではない。
「ヴァルディリア辺境伯にはこの中間地点で森と街との調整を願いたいが……」
「いや、リシアンは深層部を勝手知ったる庭のように駆け回っております。前線でこそうまく機能すると思います」
一番の悩みどころ、俺の配置。
ちなみにルカは街の人々から評判もいいし、後方で街の防衛に落ち着いた。こちらにも手練の冒険者を置いておきたいこと、まだ移住して間もないことからこちらは即決だった。
ジャスウェルからの一報で、西側……バラクロフ伯爵領を抜けてモンテディオス王国の兵が挟撃を仕掛けてくる可能性が捨てきれないからだ。
なので森だけでなく、街の西側にもなるべく騎士団と冒険者とを分散させておきたい。
このへんは歴戦の猛者である騎士団長へお任せしよう。
街の防衛かぁ……と考えを巡らせる。ここに残ると決めた領民が大半なわけで、何か出来ることはないかな。
下を向いて考えていたら、ポケットが勝手にもぞもぞと動いている。あやとりのように複雑に編んだ糸を見てほしいとばかりに、ぴょこっと顔を覗かせた白を慌ててポケットの奥へと突っ込む。
……危ねぇ。最近、気が付いたら仔蜘蛛のどれか一匹が気が付けば俺にくっついていることが多い。見られたらマズいんだからじっとしててくれ。
お前ら、そろそろ簡単に隠しきれるサイズ感じゃないんだよ。
「あ……」
「どうした?リシアン」
怪訝そうにするギルド長に何でもないと言う。そっか、領民たちには……気休め程度にしかならないかもしれないけど、お守り代わりにロープでも持たせておこうかな。
お蚕さんの糸を織り込んだやつ。簡易魔法結界になるし、いいかもしれない。
物理攻撃はそのまま通してしまうため、森の中へ張り巡らせる案は却下されたけれど人が持つなら話は別だ。
騎士たちはそれぞれ専用の防具を持っているけど、一部を除けば……攻撃力に全振りしたがる冒険者たちの防御機能もザルだしこちらにも渡しとくか。
俺は結局、前線への配備が決定した。冒険者についてはそれぞれの相性もあるし、ギルド長と話し合ってある程度が纏まったところで解散となる。
森へ行って、座布団にロープの量産を頼もうと思っていたんだけどそんな時間までは捻出が出来ず。
仕方なく精霊たちに言付けを頼んだ。
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医官と薬師で混成チーム医療班を組もうと情報共有をしているが、度々脱線して話が進まない。
辺境に多い魔獣の受傷傾向には医官が食いつくし、対人戦については薬師が興味を持ちと……。
熱心なことはいいんだけれどなぁ。また落ち着いたらこのような合同勉強会を開いてもいいかなと、私物の手帳にメモを取る。
前線にはある程度、防御や攻撃魔法を使える者が赴くことになった。バルドレム先生は満場一致で決定した。僕はというと人当たりがいいからという理由で後方の街にて全体へ指示を出すことが主な仕事になる。
リシアンはどうするのだろうか。辺境伯だし、中間地点あたりが妥当かなと思う。
今のところすごく上手くやっているとは思うけれど、慣れないことだろうし心配は尽きない。無理はしてないだろうか、ちゃんと眠れているのだろうかと気になる。
医官と薬師の会合は終わる気配も見えないまま。とりあえず、配置だけは決まったので問題はない。
早くも後方の街にて任務に当たる医官は薬店に滞在する約束まで取り付けている。
「定期的に集合はかけるから遅れないようにするんですよ?」と釘を差すことは忘れない。
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「……朝かぁ」
寝不足が続いて体が重いけどそうも言ってらんない。まぁ、大丈夫だろうと思う。
『お届け物でーす!』
最近、手紙やらを運ぶことを覚えた精霊たち。それが楽しいようで今日も精霊たちはご機嫌だ。
「はいはい、今日は何?」
欠伸を噛み殺しながら、騎士団の滞在中は服もそれなりのを選ばないといけないことに気が付いてげんなりする。
『リシアンが頼んでたやつー』
『お守り、座布団から預かってきたよ!』
さすが織物職人、仕事が早ぇな。ロープ編みくらいお手の物って感じなんだな。
「へぇ、見せてみ……」
箱の中を見て絶句する。何この、超絶技巧の紐。
一つを手に取ると小さくも立派なお蚕さんを模った刺繍がついた立派な編み紐。
「……座布団はこれを一晩でこんなに作ったの?」
『うん、仔蜘蛛たちにも手伝わせてたから早いねぇ!』
精霊たちが楽しげに言っているし、そこまで大変なことではなかったのか。
それなら遠慮することでもないかな。ありがたく使わせてもらおう。
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穏やかな昼下がり。子どもたちも昼寝を始めて、ようやく落ち着いた時。
『座布団!リシアンから命令だよー』
精霊のその言葉で、幻蚕たちから一斉に視線が集まる。穏やかな昼下がりの休息は一瞬で終わった。
ご主人、貴方が度々織物の依頼をすることで幻蚕たちからは嫉妬されるのです。同時にご主人から仕事を与えられているからと、当たりの強さも緩和されるので複雑です。
次はどんな命令なのだろうか……ご主人が頼んでくるものはいつも難しいので戦々恐々とする。
『お守り、作ってだって!』
さて、お守りとは何だろうか?精霊たちが説明するには身を守るための願掛けのような小物だという。身に付けたり飾られるものらしい。
幻蚕の繭から作った糸には簡易魔法結界となるので、材料としてはこれを使ってお守りに仕立ててほしいとのことだった。
『身に付けられるのがいいんじゃない?僕、騎士が持ってるの見たんだぁー』
そちらは金属製だったといい、手首や足首に着用していたとのこと。だとすれば紐状にすればいいのだろう、それなら簡単だなとほっとした。
『お守りだからぁー……守護獣だしスノウモスルァーのモチーフ入れよ!』
『あぁ!リシアンのネックレスみたいなの?そっか、あれもお守りだもんね!』
いきなり難易度が跳ね上がった。
ご主人のネックレスというと……魔石を中心に繊細な金属加工が施されたあのネックレスのことですか?
ガクガクと震えている間にも精霊たちのお喋りは止まらない。
『領民に配るんだって!魔獣が来たら危ないから』
『だからいっぱい作ってね』
泣いた。一つだけならまだしもそんな無茶な……と思った。納期を聞いても知らないと言われたので、それならと持ち直し掛けたところだった。
「ご主人が頼んでいるからにはすぐ終わらせるよね?」
という幻蚕たちの圧……むせび泣きながら、お守り作りに着手した。寝ていた子どもたちも起こして、簡単な紐部分の作り方だけは叩き込んで量産を急いだ。
夜通し行われた作業で完成はしたものの、燃え尽きる寸前である。そんな我を見て「大きくなったら、お父さんの仕事をもっと手伝うね?」などと健気なことを言う子が出てきて、また泣いた。




