春編2話「同期」
アグニスへ
元気?そろそろ第三騎士団の仕事には慣れた?
お互い慣れない仕事も多いけど、何とかやっていこうな!
次の辺境大森林への遠征のときは絶対にメンバー入りして来いよ。……そろそろ詠唱なしでも魔法は使えるようになった?
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さて、今日は街の方にも顔を出さないといけない。
もうちょいしたら本格的に春だから採取に忙しい。俺、辺境伯の前に薬師だから。本業は疎かにできないから今のうち。
「リシアン様!お待ちしてました」
元気に駆け寄ってくるのはジャスウェル。本人が言うにはラルストン子爵家の気ままな次男坊、らしい。
王都で記者をしていた貴族なんだけど、俺の「ファン」だって。
わざわざ王城文官……広報部に転職している。それもこの辺境領の補佐官をやるためという変わり者だ。
ファンを公言するだけあって、やたら懐っこいわ絡んでくる……マジで何なの。
あと聞けば同い年らしい。様付けも敬語もいらないって言ってんのに「リシアン様は同期の、いや全若手貴族が期待する超新星なので」とか訳わからん理由で断られた。
しばらく一緒にいればこう……落ち着くかなと思ったけど、今のところ変わらない。
雑ないつもの口調で話しても
「分かりますよ、市井の者と話すときはそちらの方が自然ですもんね!私も取材の時は口調を変えるので一緒ですね」
照れ笑いしながら言う始末。ダメだこいつ、早く何とかしないと。
「リシアン様、そろそろ武具関連の工房代表者が決まりそうですよ!」
しかし、さすがは元記者。普段はアレだが情報収集能力は高い。
「マジ?誰になりそ?」
「ガンドル親方ですね。年齢を理由に固辞されていましたが、あと少しです!」
妥当なとこだよなと思いながら報告を聞く。
このおっちゃんなら、そうだな。最後の一押しでもしに行こっと。
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「おっちゃん、いるー?」
馴染みの工房に入って声を掛ける。
「おう、坊主。じゃなくて、領主様か?」
からかうように言ってくるおっちゃん。
「ええ、武具工房の代表に挨拶に参りました」
そっちがそうくるならこっちもこう。
胡散臭い!と言って背中を叩くのはやめてほしい。
「てか、おっちゃんがマジで代表になってくれたら俺が助かるんだけど」
いやぁ、歳がなぁ……なんていうけどさぁ。
「ガンドルさん、ですよね?王城の知り合いから聞いたんですけど、医官部にあの最新器具の縫合針や鉗子という革新をもたらしたあの……名匠ガンドルさんでお間違いないですか?」
ニコニコのジャスウェルに戸惑うおっちゃん。
「僕の知り合いの騎士もですね、あの素晴らしい器具の処置で怪我がかつてない早さで治り……職務にもすぐ復帰したんですよ。彼の代わりにぜひ、お会いしたら御礼を言いたいと思っていたんです」
へぇ、そうなんだと思いながらのんびり聞く。
「何でも若手にはまだ到達できない至高の腕をお持ちで……お弟子さんにもその技術を受け継がせるべく熱心な方だとお伺いしました!」
それ、細かい作業は目がきついから早く覚えろってよく怒鳴ってるやつな……。
王城医官部でガンドル工房の医療器具は垂涎の品で今、順番待ちが発生してる。最優先はもちろんレオ兄さんだけどな!
レオ兄さんの心意気と高い医療知識におっちゃん、いたく感動してたしな。
「まだ現役って事ですよね?医療への貢献、そしてその技術を余すことなく継承しようという志……素晴らしいです!」
そうかな、とおっちゃんはべた褒めに照れている。
「じゃ、現役続行だし代表もよろしく?」
「そうだな……って、坊主?!」
よっしゃ、言質はとった。
え?まさか、断らないですよね?と目を輝かせているジャスウェルに負けてか……
「分かったよ、やるよ!」
仕方がないなと笑っている。散々褒められた照れ隠しなのか、俺の背中を叩くのはちょっと手加減してほしいところ。
いくつか他のところも回り、今日はこのへんで薬店に帰る。ジャスウェルも今日は麓の宿に泊まる予定みたいで、一緒。
武具工房、精肉業の代表は決まり書類の作成があるのでしばしジャスウェルに店番は任せる。
途中で呼ばれたのはスピナシアが来たときくらい。
「リシアンさん、新しい体力増強剤すごいっす!」
「いつもより走ったんですけど疲れにくくって」
また同じのは売らないのかとうるさい。いいから黙ってレポートを書いてくれ。
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「リシアン様、そろそろ冒険者の方も来ないと思うので精算を」
「ありがと、ジャスウェル」
リシアン様は貴族にしては珍しく、あっさりと礼の言葉を述べる。淡々としているように見えて、情に厚い方なんだと思う。
「何か……今日の売上、多くね?」
精算をしていたリシアン様がその手を止め、帳票を確認している。
「あぁ、必要かな?と思ってオススメしておきました!そろそろ熊が出るんでしょう?」
ぶるっと震える仕草をしながら言うと「俺のとこに雇われる気はない?」とお褒めいただけた。
更には「売り子の日当」として賃金までくれようとする。いやいや、私はリシアン様の働きを間近で見れたので満足です!むしろこっちが払いたい……と言ったら困惑されるので
「それよりそこの燻製にしている鹿も魔獣なんでしょう?あちらを分けていただきたいです。まだ食べたことがないんですよ」
そうお願いをする。
「そんなんでいいわけ?」
と呆れて笑っているリシアン様ですが、何よりのご褒美です。ありがとうございます。
「あとこれだけ綴じたら終わりだからもうちょい待ってて」
と、リシアン様が見知らぬ冊子を手に取っている。
「そちらは何ですか?」
そう尋ねると「俺の研究のやつ」とニヤリと笑っている。
「薬効を有さない偽薬が人体に及ぼす心理生理学的影響」
――そう背表紙に書いてある……。
「研究も、されているのですね?」
辺境伯、薬師、冒険者活動とどれも疎かにしないリシアン様にはいつも驚かされる。
調薬だけではなく研究・開発までなさっているとは。
「そちらの研究はどうですか?」
そう尋ねてみると
「冒険者って単純なやつらが多いせいか……ダメだな。……もう少し賢いやつのサンプル集めないと、精度の高い結果は出ねぇな」
真剣な様子は研究者そのもので。私に協力が出来ることがあれば何でも申し付けください!と言ったら苦笑された。
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ジャスウェルは変わってはいるが、元記者なだけあって人の懐に入り込むのがうまい。
見ていて「なるほど、こんな言い方をすればいいのか」と思うことも多い。
同年齢で爵位も……俺があのまま子爵家にいたら同じだったはず。
もしも、俺が貴族学院に行ってたらどうだったのかな……と少し考えてみる。
アグニスもいたはずだけど、あいつとは爵位も違うし絶対に仲良くはならないタイプだろうなと苦笑する。
ジャスウェルも……ヴァルディリア子爵家の庶子に、今みたいに話し掛けてくるとは思えない。
会う時期が違えばってことかな。
もしもは考えることはやめて、王都にいる友人にたまには手紙を出そうかなと便箋を手に取った。
いまだにあの厨二病みたいな詠唱魔法ってやってんのかなと思うと、にやけるのが止まらなかった。




