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転生憑依してきたコにアイドルやってもらってます  作者: 蘭芳琳楠
第一楽章

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2/6

第一楽章 Act4 to Act6

いよいよスタートしたアイドルプロジェクト。

問題山積の中、ナゾの美少女からのアドバイスが功を奏するのか?


愚直なまでに実行せよというある戦略とは?

そしてその先にはアイドル候補者が待ち受ける!

Act4:「困ったなあ」


工程表(共有)

7月20日メンバー(M)募集要項決定。

25日募集用HP(総務部依頼)立ち上げ、M募集開始(詳細未定)、市広報誌『わがまち・ひのかみ』掲載(出稿7月27日まで8月号掲載)

8月M一次募集開始(~31日まで)

9月M選別(詳細未定)

10月レッスン開始(詳細未定)

11月グループ名、オリジナル楽曲決定(詳細未定)

12月公式HP立ち上げ、SNS運用開始(総務部依頼)

1月市・商工会議所後援会立ち上げ(詳細未定)

2月公式ファンクラブ運用開始(詳細未定)

3月お披露目ステージ広報(詳細未定)

4月11日デビュー(お披露目ステージ:日上さくら祭)


保存場所:本社S→芸能部M→工程表F

ファイル名:270701芸能部工程表



「ほんと、やらなきゃなんないことがヤマほどありますよ」

 夏野さんが器用にパソコンを操作しながら言う。

 立ち上げから二週間。市役所との折衝や商工会議所へのあいさつなどを済ませたものの、何をどう進めてよいやらわからない状態でとりあえず積算部の力を借りて予算建てをした。

 しかし、この予算の振り分けが想像を超えていた。

「特に予算がですね……。一千万もあると思ったら、全然足りないじゃないですか」

「女のコたちにボランティアをやってもらうつもりはないので、社員契約、もしくは業務委託契約を結ぶつもりです。だから、当然報酬が発生する。そこだけは譲れないんです」

 社長を交えた企画会議はすでに六回開催している。

 吉法の構想はボランティアの女のコを集めて、学校の文化祭の延長のようなステージを披露するようなものではなく、あくまで本当に市場(マーケット)に打って出る本格的なデビューと活動ができる「ホンモノのアイドル」を作り出すことだった。

「東京の芸能事務所ならもっともっと予算をかけてるだろうし、いわゆる地下アイドルにもそれなりの戦略と方向性のある予算がついているはずです」

 東南アジアにルーツを持つ、夏野・ティリニ・おとの黒く大きな瞳が語った。

「そうですよ」

 ここまで無言でパソコンに向かっていた蔵前が口を開いた。

「本気でアイドル作るなら、圧倒的に予算が足りません。なんちゃってアイドルでお茶を濁すなら潤沢な金額ですが、それでは社長の言う収益化はとても果たせません」

 現実的な意見を突き付けられて、吉法は言葉を失った。

「もっと、コンセプトを煮詰めるべきです。地域の特性に合わせて、キャラクターを濃く醸成するとか、イロモノ的にみられてもグッと個性を前面に押し出すとか」とおとさん。

 続いて蔵前さん。



「地域と言ってもこの町には全国へアピールするものがありません。名産品とか有名な景勝地がない以上、地域の特色を前面に押し出しても弱い気がします」

 ふたりの意見は至極まっとうだった。

「たしかにその通りです」

 吉法はそう返すしかなかった。

「コンセプトをまずしっかりと作りこみましょう。そのための時間が必要ですね」

 三人の沈黙が重く広がるオフィスにドアをノックする音が響いた。

「あ、そういえばあの方は」

 今はあの方をオブザーバーとして呼んでいた。

「入るぞえ」

 またしても古式ゆかしい言葉遣いで白石美奈子が現れた。今日も日上高校の青系タータンチェックのスカートに白いブラウスのいでたちだ。

「どうじゃ? 企画は進んでおるかの」

「ああ、それがまったくもって」

 美奈子は苦笑した。

「まあ、しかたあるまいて」

 蔵前課長がそっと立ち上がると、オフィスの端にある冷蔵庫に向かう。彼女にお茶を用意するようだ。

 あの日以来、社長の許しを受け、美奈子は何度となくここへ足を運んでいた。

 吉法としては彼女が本当に天照大神の転生した姿であると仮定して、約束した望みの実現を強力に推進してくれるものと思っていた。

しかし企画会議の席では意外なことに無言を貫き、あふれるアイドル愛を語ることや、自身のアイドル観を主張することもなかった。そもそも彼女がアイドルヲタクであるというのは、吉法の創作でしかない。


 今日も蔵前課長が出したペットボトルの緑茶に丁寧に礼を言う以外にはテンション低めのご様子だった。

「まず、基本的なコンセプトじゃて。そもそもここをしっかりしないと、先には進めないぞよ」

「確かに」

 会話はこれだけ。そのあと、会社のパソコンでWeWatchを使ってアイドルの動画をいくつか観たあと、そのテンションのまま帰っていった。


「部長、彼女はいったいなんなんですか?」

 蔵前課長が言った。

「最初に来たとき、部長がアイドル研究部だって言ってましたよね」

 夏野さんがねっとりと言った。

「え?」

「あーし、日上高校のホームページ、チェックしたんですけど、クラブ活動のページにアイドル研究会なんてないですよ」

「へ?」

 こりゃ、まずい。吉法は経緯について本当のことを話そうかとも思ったが、まさか信じてくれるわけもないと考えて、やめておくことにする。

「あー、自称だからね。まあ、なんか役に立つとは思ってるんだけど」

「自称って」

 しまった。

「あ、あのさ。役所の産業振興課のあのヒト、えっとなんだっけ」

「イソギさんですか?」

「あ、ああ、そう。五十木さん。ちょっと行ってきます」

「え? 部長、今日アポしてました?」

「あーいや、ちょっと、軽い相談なんで、押しかけてきます」

 冷や汗をかきながら、オフィスを出た。




「とは言ってみたものの……」

 会社を離れて専用の軽四自動車を走らせたが、もちろん市役所に用事などない。あの場を逃げ出したくて言っただけだ。

 少し離れたコンビニに車を止めると松葉杖で少し歩いた。

 幸いなことに右足に不自由はないので、自動車の運転はできたが、こうして自分の足で歩くとなると、それなりの困難を伴う。

 しかし、今日は少し歩きたい気分だった。

 コンビニのすぐ近くに児童遊園があった。そこにベンチがあったので、腰を下ろす。

 見上げると青空が広がっていた。

「はあ。困ったなあ」

 アイドルは愛でるもので、創るものじゃない。その難しさに辟易した吉法は、なりゆきでここまで来たものの、先行きを思えば継続できる気がしなくなっていた。

 そもそも東京の建設会社でも一年ほどで退職を選択している。自分には継続する能力がないのかもしれないと思い始めていた。

「まあ、そう苦にするなて」

「え?」

 傍らに白石美奈子が座っていた。

「ど、どこから?」

「いやあ、さっきからそこにいたんじゃて」

「な、なんで?」

「そろそろ詰めにゃならんと思うての」

 何から何まで読まれているのか。彼女の神がかり的な能力がホンモノかもしれないと思う一方で、「願いを叶える」約束が履行されないことへの疑問がわいてきた。

「願いを」

「叶えてやるぞよ」

 先に言われてしまう。

「うーんとな」

「な、なんだよ」

 美奈子が鼻を近づけてクンクンとやりだしたから、思わずのけぞってしまう。神様とはいえ、見た目は普通の女子高生なのだ。妙に距離が近いところを誰かに見られたりしたら、とんでもないことになりそうだ。

「おう、やはりじゃ」

「んな、なにがだよ」

「お主は織田信長じゃの」

「は?」

 おもむろに立ち上がった美奈子が右手の人差し指をくるりと回した途端、晴天にもかかわらず雷鳴が轟き、白い光が瞬いた。

「うわっ!」

 しかしビリビリもなければ、ヤケドしたわけでもなかった。

「うむ。お主の中に信長を宿したぞよ」

「へ?」

 オカルトは信じない。しかし、さっきの白い稲妻はホンモノのように見えた。とりあえず首を左右に倒して自分の状態を確かめたが、乗っ取られたり、自分の内側に話しかけてくる信長の声が聞こえてくることもなかった。

「どゆこと?」

「いちいち解説を求めるヤツじゃの」

「そ、そりゃ、聞きたくもなるよ」

「転生憑依はそもそもお主らのDNAに起因する。つまりは根本的にまったく関係のない血筋に降ろすことはできぬのじゃて」

「そ、そうなんだ」

「そういえば、お主の名である『吉法』じゃが、信長の幼名は『(きち)法師(ほうし)』じゃ。これはやはり運命という名の必然じゃ」

 なんだかこじつけのような気もするが、少し希望が湧く気がする。

 信長なら斬新な着想から、予想外の戦術で世界を席巻することが可能かもしれないと勝手に想像する。

「ほれ」

 彼女はどこから取り出したのか、一冊の本を手渡してきた。

「な、なにこれ?」

 渡された本のタイトルは『アイドルグループは推すモノじゃない創るモノ!』となっている。著者は蘭芳琳楠(らんほうりんくす)。なんだ、これ。

「信長じゃ。彼奴(きゃつ)のやりようを踏襲するのに最適な本を探してきたぞよ」

「どっから持ってきたんだよ」

「駅前の『本庶堂(ほんしょどう)書店』」

「な、なん!」

 足のことも忘れて立ち上がった。

「ま、まっさか、万……」

「心配には及ばぬ。お主のクレカを使用した」

 膝から崩れ落ちる。

「そ、それも霊力なんか……」

「とりあえず、熟読せよ」

「な、なんで?」

 信長なら独自の価値観と発想力で……。

「あの男は過大評価されておるが、大したことないヤツなんじゃ」

「え? しかし日本史に名を遺す名将でしょ」

彼奴(きゃつ)は父親から譲られた古代中国の兵法書などを読み、それを愚直なまでに再現したにすぎぬ」

「え?」

「本に書いてあったことをそのまま模倣することに努めた。それは簡単のように見えてお主ら人間には実に難しいことなのじゃが、信長はそこをものともしなかった。偉人であるということとはそうことなのかもしれん」

「指示語が多くて全然ピンとこないぞ」

「なあに、簡単なことじゃ。彼奴が参考にした『孫子』は紀元前500年ころの成立じゃ。2500年も経っておるのじゃぞ。多くの者がその内容を知りながら、活かせずにどれほどの苦杯を舐めてきたことか。それがどういうことか、お主にわかるかの」

「ぜーんぜん、わかりません」

 白石美奈子は微笑んだ。その笑みには、慈愛のぬくもりがあった。

「科学を発展させ、もはや夢、まぼろしのごときテクノロジーを身に纏ったとはいえ、人間の本質はこの2500年、何も変わっておらぬ」

 うんうんと自説に溺れる美奈子。吉法は美奈子の次の言葉を待った。

「そこに答えがあるというのに、その答えを直視せず、正しく履行しようとしない。そして失敗すると、自分の都合に合わせて現実の方にさも責任があるかのような言い訳をする。時間がない。お金がない。ヒトが足りない。自分の考えとは違う。しかしな。その言い訳にはいつも欠点が存在する」

「な、なに?」

「自分で見つけよ」

「え?」

「まあよい。お主には信長が降りた。彼奴の良き慣習を得て、それを元に自身の希望を叶えるがよいぞ」

「え? ええ? それだけ? 盟約とか言ってたよね。ぼ、ボクの望みを叶えるって言ってたけど、ボクの望みは会社のアイドル企画を成功させることだと捉えて現われたんだよね」

「いや、単にお主がキーワードを口にしたからってだけで……」

「え?」

「まあ、とにかく呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンなわけだわさ」

「な、なんだよ、それ」

「わらわの霊力はお主のために使われるが、要はお主の意思ひとつなのじゃ」

「要は自分でやりとげろと?」

「そうじゃ。まずは本を読め」



Act.5 「な、なんだって!」


はじめに


今、この本を手に取っておられる貴方は芸能事務所の企画担当者さんですか。

それとも市町村の振興課の責任者さんでしょうか。もしかすると本気で推し活から『創活(つくかつ)』に進路変更しようとお考えの方でしょうか。

この本はそんなあなたの指針となるよう編集されており、必ずやあなたの夢を叶える力となるでしょう。

それではまず、あなたのこころ心算(づもり)を計ってみたいと思います。

質問。

あなたはアイドルグループを創るにあたって、本気で全人生をささげることができますか。

あなたはアイドルグループのメンバーが抱く夢の水先案内人として、滅私奉公(めっしほうこう)を貫くことができますか。

あなたはアイドルグループを応援してくれるファンの方々の満足度向上のためにすべてのキャリアとソースを投入することができますか。

 この3項目のうち、どれかひとつでも『何もそこまで』と思ったのだとしたら、この先の本章を読む必要はありません。今すぐ本を閉じていただいてけっこうです。とっととブックオファーへお売りください。

 つまり、アイドルを創り、育てるということは、誰かの人生の全部か少しかを豊かにする糧として提供するために、自身はその身のすべてをささげることを覚悟せねばならないほど、過酷で凄惨で理不尽で、それでいて最高に気高(けだか)いものであることをお覚悟ください。

よろしいですか。

それでは夢の水先案内人さん、いっしょに地獄と天国が同居する儚くも残酷なアイドルワールドの扉を開きましょう。




「なんだ、これ」

 美奈子に渡された本を読んだ。要するにプロデューサーとしての心積もりや戦略、立ち上げからお披露目、さらにはステージ集客や物販コントロールなどを事細かに記した本だった。

「なるほど。確かにアイドルやってくれるコの人生や、応援してくれるヒトの生活まで変えちゃうんだから、気合は必要だよなあ」

 ふと、窓の外を見る。セミの鳴く声の向こうにどこまでも広がる青空を見た。

 不自由な左足を引きづって、窓際に立ってみる。


 あの台風の日、自分の甘い判断から災害に巻き込まれてしまった。結果としてケガをしてしまう。そのことに責任を感じた社長は、クビになってもおかしくないはずなのに、わざわざ芸能部を立ち上げてくれた。

 その期待に応えないでいいわけがない。

 しかし、やることは山ほどあるし、どこから手をつけていいのやら、わからない状況だしで、正直困惑している。

 白石美奈子、いや、天照大神というナゾめいた存在から得た、不思議なパワーを味方につければいいというのもわかっているし、この本が本当に役に立つものだというのもわかっていた。

 しかし、そのプレッシャーの大きさにつぶされそうになり、立ち止まっているというわけだ。

「ボクに、ほんとにこんなこと、できるのかなあ」

「できるぞ」

「えー!」

 白石美奈子が窓から現れた。




「お茶なら冷蔵庫にあるからさ」

 またしてもの出現に、吉法は美奈子の要求をぶっきらぼうに受け入れた。

「おう。すまぬの」

 勝手に冷蔵庫を開ける。そしてペットボトルの麦茶を取ると、豪快に腰に手をあてて飲み始めた。

「で、今日は何の用です? そもそも、ボク、呼んでませんよ」

「ぷはぁ。やっぱペットボトルのお茶はうまいのう。神社の湧き水もそれなりじゃが、やはりこの冷たさよ」

「それは冷蔵庫のおかげだってば」

「まあよい。今日は積極接触施策の一端として、声掛けに来たのじゃ」

「その役所の報告書みたいな言い回し、やめてくれないかな」

「すまぬ。わらわの言語系はどうしてもネットからの借り物故に、直近の検索からの影響を受けるようじゃ。ま、しかし、支障はなかろ」

「わかりましたよ。で、なに? 今日のおでましは」

「本は読んだか?」

 美奈子が鼻に手をやった。

「いちおう、全部読んだよ」

「どうじゃった?」

「どうって。ま、たしかにいいことはいっぱい書いてあるけど、どれも実践していくにはパワー不足で、とても本の通りにはやっていけそうにないよ」

「そう言うと思うたわ」

「え?」

「お主はヘタレじゃからの。せっかくの社長さんの厚意や、周囲のみんなの期待があったとしても、ボクのパワー不足ですからと、すごすごと逃げ出してご破算にしてしまうと思うたわ」

「な、なんだって!」

「いいか。お主は勘違いをしておるぞよ」

「勘違い?」

「そうじゃ。できるかできないかはやってみてから言うものじゃ。やる前からできないと決めつけるなら、第一章の第二項を読んでみよ」

 ベッドに置いていた例の本が風にページを捲られる。

 しかし、手に取ったときに開いていたのは第一章の第二項のページだった。

「声に出して読め」

 言われるがままにする。

「まず、最初に必要なのは資金でも、コネでもありません。まずはあなたの行動力です。行動力というのは抽象的なもので形がありません。推量することもできません。しかし、あなたの胸の内にあるわけですから、あなた自身がいちばんよくわかっているはずです。不可能かもしれないとか、できそうにないと今の時点で心の片隅で思っているのだとしたら、不可能な理由をあげてみてください。資金不足ですか。銀行に相談に行きましたか。あなたが会社の所属なら、予算稟議を再提出することも可能なはずです。コネがないからですか。コネはあるものを利用するのが最善ですが、なければ作ればよいだけです。要するにできない理由をあげていけば、必ずソリューションがあることに気づけます。不可能だと決定づけるためにはありとあらゆる可能性を試す必要があることが、あなたの行動原理になり、行動力の源になるはずです」

「どうじゃ、いい教えであろ」

「た、たしかに」

「信長よ、お主はこの本の指し示すままに愚直に、そして自由にやってみせよ。さすれば、結果はおのずとついてまいる」

「そうか、そうなのか」

 夏の風が吹いた。




「ホームページは会社(ウチ)の総務部広報チームが作成してくれます。もちろん、業務の範囲内なので予算は不要です。最初はオーディション応募用ホームページとして立ち上げるんですけど、なんかこうイメージのいい文言ないでしょうかね」

「日上から世界的アイドル誕生! みたいなのですか?」

 夏野さんが聞く。

「そそ。もっとインパクトのあるコピーが欲しいですね。ライターさんに依頼するとなると、またお金がかかるからね」

「シブヤから世界へー! がありますもんね」と蔵前。

「それだ。乗っかろう」

「え? 世界なんてめざすの当たり前だから、もっとでっかく行きましょう! 日上(ひのかみ)から宇宙へ! とか」

「ダサ」

 夏野さんの言葉には遠慮がない。

 だが、吉法はあきらめない。

「日上から宇宙の()てまで! は?」

「基本、同じですよ」

 と辛らつな夏野さん。

「日上から宇宙の涯てまで制覇しようぜ! はどう?」

「あ、それいいかも!」

 夏野さんがただでさえ大きな目を見開いた。

「え? これならいいの? じゃ採用で」



Act6:「どう?」


『日上から宇宙の涯てまで制覇しようぜ!』

集まれ!! アイドル候補生!!

 日上市のご当地アイドル大募集!

 募集要項

 日上市は産業振興を目的とし、全国的な知名度アップと名産品の需要増に貢献する観光親善大使を兼ねたアイドルグループを立ち上げます。

 アイドルになりたい! 夢を追いたい! と思うあなたのパワーで日上市を盛り上げてください!

 募集資格:18歳(高校生不可)から28歳くらいまでの市内在住か市内就業の方。

 経験:未経験可(経験者優遇)

 待遇:業務請負契約による報酬制(インボイス登録をしていただきます)

 研修期間:9月上旬よりレッスン開始(報酬あり)から3月まで。以降継続的なレッスンあり。

 レッスン:体幹トレーニングおよび歌唱・ダンスレッスン(費用負担なし)

 来年4月のさくら祭でのデビューを予定しています。

 募集期間:27年8月1日から8月31日まで

 募集用ホームページの応募フォームは下記QRコードから。

 プロデューサーコメント:アイドルをめざすあなた! わたしたちといっしょに世界はおろか、全銀河宇宙を魅了しちゃいましょう! 今は小さな田舎町のご当地アイドルだけど、めざすは宇宙一のスーパーアイドルです! 武道館でも東京ドームでもなく、目標は全銀河同時生中継ライブの実現です! さあ、いっしょに飛び出そう! 愛と勇気とカワイイとアザトイで、宇宙の涯てまで制覇です!!




「どう?」

 吉法が身を乗り出した。

「あります!」

 応募のメールが来たと夏野さんが言った。今日は募集初日だ。

「3通来てます」

「3通かあ」

 吉法が顎に手を当てた。

「ま、上出来じゃないっすか」

 蔵前課長が言うが正直、もう少し来てほしかった。

「えーと、プリントアウトはもったいなから、あーし、読み上げますぅ」

 夏野さんはハーフだからか、微妙な発音で意気揚々と読み始めた。

「イイノルリハ。市内在住。日上市立西小学校2年生、8歳。アイドルにあこがれていますぅ」

「8歳じゃだめでしょ」

「んじゃ、次行きます。えーと。スギバヤシミホ。市内在住。駅前にてスナック『語らい』経営。38歳。10年前まで東京で地下アイドルの経験ありぃっと」

「年齢条項」

 蔵前さんがボソッと言った。

「たしかに」

「じゃ、最後。クゼアキナ。24歳」

 おおっと吉法と蔵前さんが歓喜の声。

「市内在住。ニューハーフ歴5年」

「に、ニューハーフ!」

 夏野さんと蔵前さんが吉法の顔を見た。

「……LGBTQを差別するつもりはないけど、今回のアイドルプロジェクトのコンセプトからは外れるから」

 夏野さんと蔵前さんが同意の頷きを返す。

「夏野さん、三名さまに丁重なお断りメール頼みます。書類選考不通過で」

「了解しました」

 溜息が漏れる。

「な、なあに、まだ初日ですよ、初日、しょにち」

 吉法が明るく振舞うのを見て、夏野さんが作り笑いとわかる笑みを浮かべた。

「じゃ。じゃあ。そろそろ出かけます」

 吉法と蔵前さんはカバンを取って、会社の駐車場に向かった。




 今日はメンバーのダンスレッスンを依頼している駅前の商業施設『ピュアッセ日上』の六階にあるダンススタジオ『Jダンススクール』にあいさつ回りの予定だった。

 車の運転は蔵前さんにお願いして、助手席に座った吉法がラップトップパソコンを開いた。

「ここ、紹介してくれたの、商工会議所さんでしょ。よく、見つけてくれましたね。レッスン料が安いから驚きましたよ」

 上気して語る蔵前さん。赤信号で停車すると、吉法がパソコンの画面を見せた。

「会議所の会員だからだそうですね。それに」

 画面にはダンススクールのホームページが映し出されていた。

「ここは(じん)多加美(たかみ)さんが経営してるんですよ」

「アキバドールズですよね、彼女。市内唯一といっていいほどの超有名元アイドルですからね」

「彼女、年齢条項から少し外れちゃってるんですけど、彼女にメンバーになってもらえれば、とっても都合がいいんだけどなあ」

 吉法が言うと、蔵前さんがアクセルを吹かせた。

「確かに近道ではありますが、いくらなんでも」

 調べたところ、陣多加美は今年30歳。少し条件から逸脱してしまう。そもそも上限を28歳に設定しているのだが、25歳以上を採用するつもりはなかったのが本音だ。なぜなら、自分より年上のコにあれこれしろと言ったりしたりするのは、どうにも難しいように思えたからだ。

「スクールの生徒さんを推薦してもらいましょうよ」

「そうですね」

 もちろん、真の目論見があっての訪問であることは、蔵前には言わなかった。




「はじめまして。こんにちは。清正建設芸能部の神楽吉法と申します」

 吉法が名刺を差し出すと、レッスン着姿の陣多加美がほほ笑んだ。

 見覚えのある美人だ。たしかに現役アイドル時代の輝きを喪ってはいない。

 続いて蔵前さんの名刺も受けとると、アキバドールズ時代を彷彿させる笑顔の多加美がレッスン場へと案内しれくれた。

 ちょうどアンダー20歳ヒップホップダンスのクラスが授業を受けていた。

 蔵前さんはすぐに候補者サーチにかかる。

 しかし吉法の目は講師の女性に向けられていた。

「はーい、それじゃあ、今日のレッスンはここまででーす」

 汗に濡れた講師の女性が、多加美の手招きに呼ばれてやってきた。

 背は高くない。大きなクリクリとした瞳が印象的で、黒髪のボブに右耳を出している。

 理知的な顔つきだが、雰囲気に幼さがあり、生徒たちの中に入ればどっちが講師かわからないくらいだった。

「紹介します。秋城典子(あきしろのりこ)。うちのエースインストラクターです」

「はじめまして。秋城典子です」

 屈託のない笑みには魅力があった。

「あ、秋城って、あ……、あの、アキバドールズの」

 動揺とともに、その笑みの虜になってしまった蔵前さんを差し置いて、吉法は彼女に握手を求めた。

 握手を求められて驚いた表情の典子は、それでも笑みを崩さなかった。

 手にはしっとりとした温かみがあった。

「このコはアキバドールズの現役メンバーでもあるんですよ」

「ええ。存じ上げております」

 そう言うと、典子は首を右に傾げてさらに笑みを作った。

 その黒い瞳の中に何かを見出した吉法が、典子に向かって頷いた。

「単刀直入に申します」

 吉法は多加美と典子を交互に見た。

「うちのアイドルプロジェクトはご存じのことと思います」

 多加美に言った。

「ええ。はい。うちがダンスレッスンをすることも決まっていて……」

「そこでお願いがあります」

 吉法の圧に多加美がたじろいだ。

「え、ええ、はい」

「ください」

「え?」

「秋城さんを。この秋城典子さんをうちのプロジェクトにください!」




次章は4月中旬公開予定です!

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