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13 選ばれし者たち

 発表は、月曜日の朝一番に一年生全員を講堂に集めて行われた。

 宴への参加者として選ばれたのは、五名。ホリィが言っていたように全員が一年生で、魔法科が四名、魔素術科が一名だった。

 魔素術科から一名選ばれる、と校長先生が言ったとき、生徒たちからはどよめきが起きた。まあそうだろう。宴への参加は、これまで魔法使いに限られていたのだから。

 私は事前に訊いていたので、そのこと自体には驚きはしなかった。問題は、誰が選ばれるかだ。まさか、ホリィの言ったとおりになるのか。

 そのホリィは私の制服のスカートのポケットに入っていた。今度は気配を消しておく、とホリィは言っていたので、クラリィ婆ちゃんに見つかったときのようなことはないだろう。

 宴の参加者について、まず発表されたのは魔法科の生徒たちだった。そして、四人目にジェニファ・テウル・ラウトゥーゾの名前が呼ばれた。

 その瞬間、魔法科がざわついた。ジェニファよりも前に発表された三人のときは静かだったのにと思っていたら、私の隣にいたマリちゃんが顔を寄せてささやいてきた。

「意外ね、子爵家から選ばれるなんて」

「ラウトゥーゾって子爵家なの?」

「そうよ。最初の三人は、公爵家と侯爵家と伯爵家なんだけど」

 マリちゃんは家が商売をしている関係からか、貴族の家柄に詳しい。

「ラウトゥーゾって、遺跡の名前でしか知らなかったんだけど」

「今はそっちが有名ね。でも、ラウトゥーゾ家自体は元々侯爵家で、でも領地が衰退してしまって、遺跡くらいしか名が残らないようになってしまったのよ。家格も落とされて」

 一応領地もちではあるが、さっぱり税収の上がらない土地で、領主は王都に出て働き、自分たちの食い扶持は自分たちで稼いでるのだとマリちゃんは教えてくれた。それで名ばかり貴族なのかと私は合点がいった。

「元は侯爵なんだし、血は保たれてるってことだったんだろうねえ」

 この世界では、魔法を使えることが貴族の条件だ。そして、魔法の力が強いことが高位貴族の条件である。

 もっとも、ラウトゥーゾの例からもわかるように、魔法以外の事情で降格されることはある。そして、断絶されることも。断絶は、文字通り、血筋の者が全て命を絶たれるということだ。

 静粛に、と校長が言うと、魔法科はおとなしくなった。

「それでは、次に、魔素術科から選ばれた生徒を発表する」

 そうして呼ばれたのは、クロウだった。魔素術科でそれに異議を唱える者はいなかった。魔法科は、魔素術科から選ばれたというだけで不満そうだったが。

 私は私で、安堵していた。ホリィが言うようなことは起こらなかった。

 が、マリちゃんが傍で呟くのをきいて、安心してもいられないと思った。マリちゃんはこう呟いていた。

「宴って、参加者はいつも六人だったんじゃないかしら」

 マリちゃん以外にも同じことを思った者はいたらしい。あと一人はどうするんだ、と、そこかしこから呟きが上がるのが聞こえる。

 校長は、静粛に、とまた言った。

「最後の一人については選抜試験を行う。試験の参加資格は、本校の一年生の魔法科全員と、魔素術科の魔素術の成績上位二十名に与える。魔素術科の生徒で資格を持つ者は強制参加だ。それ以外の生徒でも、参加したい者はしてもよいが、命の保証はしない。そのつもりでいるように」

 それって、強制参加を言われた生徒たちも、かなり危険な目に遭うのでは?私は心中で突っ込みを入れていた。私は口には出さなかったが、それを口に出した人物がいた。クロウだ。クロウは挙手をし、校長に質問した。

「それは、強制参加の生徒たちにも同様に命の危険があるということですか」

「無論だ。そもそも神々の宴ではかなり過酷な目に遭う可能性が高い。なので、それに参加する者を選ぶための試験もそれを見越したものを考えている。先日のオリエンテーリングであった事件、あれを凌げる力量がないと命の保証はないと考えてよい。成績上位の者であれば生き残れる可能性が高いと見て、試験の参加資格を与えている」

「そもそも、なぜ魔素術科の生徒までが対象になるんですか。宴の参加者はもともと魔法使いだけのはず」

「そのようなこと、言われずとも知っておる。が、神々の希望なのだ。今回の宴の参加者はこの学院の一年生の中から選ぶ、そして魔素術師からも選出するように、と」

「試験の参加について辞退はできないんですか」

「認めない。魔素術科の生徒で試験の参加資格がある者がそれを辞退するのであれば、同時に学院から退学を言い渡す。仲間が死地に向かうかもしれないときに逃げ出すような者は、学院の生徒として認めない」

 私は思わずため息をついた。何だそれ。貴族ならともかく、平民にそんなこと求めんなよ。

 マリちゃんが私の服の袖をつかんできた。手が震えている。

「どうしよう、私……」

「大丈夫だよ、私が何とかするから」

 私はマリちゃんの手を握った。私もマリちゃんも、魔素術の成績上位二十位に入っている。というか、一位は私で、マリちゃんは十九位なのだ。惜しかった、もう少し下だったらマリちゃんは参加しなくて済んだのに。努力家のマリちゃんが苦手な科目を作るまいと魔素術も頑張った結果がこれだなんて、世の中うまくいかない。

 クロウがまた質問した。

「魔法科の生徒は強制ではない、と聞こえたのですが」

「そうだな。その理解で間違いない」

 校長は認めた。

「あくまで魔素術科の生徒の選抜だ。ただ、それでは機会を与えられなかった魔法科の生徒の諸君は不満だろう。なので、魔法科については全員に参加の機会を与えた。とはいえ、魔法科の諸君が参加しなかったからといってそれは何の不名誉でもない。力量を踏まえての判断であるならば、寧ろ賢明と言えるだろう」

 魔法科の生徒たちから声が上がる。不満の声だ。中には、平民なんぞたたき落としてやる、という声まで聞こえる。

 マリちゃんは私の手を強く握ってきた。その手から、細かく震えているのがわかった。私はマリちゃんの手を握り返しながら、マリちゃんの様子を見た。マリちゃんは目尻に涙を浮かべていた。

 マリちゃんは、魔法科の生徒の発言をきいて怖くなったんだろう。正直、私は魔法科の生徒たちに恐怖は感じなかった。彼らは魔法を使えるかもしれないが、それを人間に向けることはできない。やれなくはないが、どの程度までが神の煉獄に収容されない限度なのかがわからない以上は、やらない方が賢明というものだ。

 魔法使いにはそんな制約があるので、ものすごい大魔法を使って周りを巻き込むような戦い方ができる者ならば魔素術師相手でも魔法で戦えるだろうが、そんなことができるのは魔法使いのうちでもごく一部だ。そんなのは宴の出席者に選出された上位の生徒を除いた残りの生徒の中にどれほどいるか。

 一方で、魔素術師は魔素術を人間に向かって放つことができる。それを考えれば、やりようがあるのだが。

 まあ、そういう不利を考えて貴族たちは剣術や体術を磨いて魔法を使わなくても戦えるように備えているらしいのだが。

 校長は、選抜試験の日時や場所はまた改めて伝える、と言うと、壇上を降りた。教頭が解散を言い渡す。一時限目の授業が控えているため、生徒たちは皆すぐに講堂を出ていった。

 教室に入ると、クラスメートからの祝福がクロウに降り注いだ。

「クロウ、おめでとう!同じ魔素術科として鼻が高いぜ!」

 ゼンタの声が一際大きくきこえた。クロウは礼を言っていたが、嬉しそうには見えなかった。

 私とマリちゃんは自分たちの席に戻ってその様子を見ていたのだが、そのとき私は、マリちゃんが複雑そうな表情をしているのに気がついた。

「どしたの?」

「なんか……納得いかないっていうか。魔素術のトップはシホちゃんでしょ。なのに何でって」

「あー、何でだろうね。でも、彼は二位だし」

「二位でしょ」

 マリちゃんは悔しそうだ。

「まあ、選ぶ基準は魔素術の成績だけじゃないんじゃない?」

「……何でもっと悔しそうにしないの。シホちゃんは凄いのに、それを認めてもらえてないってことなんだよ。オリエンテーリングのときのリーダーだって、シホちゃんがやればよかったのに何で譲ったりしたの」

「あ、いや……」

 これは本気で怒っていると察して、私は反論するのをやめた。マリちゃんの目は完全に座っていた。マリちゃんが私のことを本当に思って怒ってくれているのだというのはわかる。でも、私自身はといえば、ひとの評価などどちらでも良かった。

 第一、今回下手に評価されたら、神々の宴に引っ張り出される。校長も言っていたけど、あれは過酷だ。この国で行われた宴のうち、前々回とその前の回の記録がクラリィ婆ちゃんの家にあったので、土日の間に読んでみた。前々回はその当時随一と称される魔法使い同士が大規模魔法を打ち合って、宴の会場から遙か遠く離れた場所でもその天変地異の片鱗が観測されていた。

 そんなものの中に、入りたくなんぞはない。

 問題は、選抜試験だった。魔素術の成績上位二十位で行う、ということだったので、魔素術を競わせることには間違いないだろうが、問題はその方法だ。まさか記述試験ではないだろう。実技試験?でも、どんな内容になるのか。第一、魔法科も受験資格があるとか、魔素術師と魔法使いとで競わせる気か?

 選抜試験の詳細については、その日のうちには出なかった。その翌日にも出なかった。

 待つしかなかった。


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