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11 我が家

 家には無事に帰ることができた。

 我が家は城壁のへりにはりつくように建っている長屋のうちの一軒で、石積の外壁に石のスレートで葺かれた屋根は、城壁と一体化したような様相を呈している。

 私はこういう人工物だけど長い年月のうちに自然物のようになっている様子が好きで、しみじみと我が家を外から眺めていた。家を離れてまだ数日しか経っていないのに、もう懐かしく思っている。

「これがあんたの家?なんて言うか……ボロいわね」

 私の荷物の中に紛れていたホリィが失礼なことを言う。

「雰囲気があるって言って」

「まあ、そうとも言えるかもしれないけど」

「シホ。シホじゃないかい」

 うちの隣のドアから、一人の老女が出てきた。クラリィ婆ちゃんだ。同郷の出で、遠縁で、私たち一家を王都に誘ってくれた恩人。

「ただいま、ばあちゃん。帰ってきたよ」

「お帰り。今週はもう帰ってこないかと思ったよ。昨日の夜、今週は帰れないって知らせが来たときには、あんたの両親はえらく落胆しててねえ。慰めるのに一苦労だった。さ、早く帰って両親に顔を見せておやり」

「うん、わかった」

 クラリィ婆ちゃんの言葉に従って家に帰ると、両親が満面の笑顔で出迎えてくれた。

「お帰り、シホ。来週まで会えないと思っていたわ」

「うん。そうなるところだったんだけど、大丈夫になった」

「本当か?お前、抜け出してきたんじゃないだろうな?」

「抜け出してきてなんかいません」

 私の言葉に、両親は安堵したような表情になった。

「とりあえず、荷物を置いてくるわ」

「ああ、そうだね。湯を沸かそう。お茶を飲もう」

 私は五日ぶりの自室に入った。たった五日しか留守にしていないのに、懐かしく感じる。

「あんたって、どういう子なのよ。抜け出してきたんじゃないか心配されるなんて」

 荷物の中から飛び出てきたホリィが、出てくるなり言う。

「うちの親がちょっと過保護なのよ」

「えー、なんか違う気がするー」

「何よ、それ。あ、私、ちょっとお茶しに行ってくるけど」

「お構いなく。私は好き勝手してるわ」

「いいけど、うちの親に見つからないようにしてね」

「わかってるって。矢鱈な人間には私みたいな存在は良くないからねー」

 その言いぶりに少し引っかかったが、何も言わず、私は部屋を出た。私の部屋は三階にある。階段を下り食堂まで行くと、クラリィ婆ちゃんが椅子に腰掛けていた。それはいつものことだった。両親とクラリィ婆ちゃんと私。この四人で食事をしたりお茶を飲んだり。

 両親が台所に立ってお茶の準備をしている間、食堂では私とクラリィ婆ちゃんの二人きりだった。クラリィ婆ちゃんは私に言った。

「お前、今、ポケットに何入れてる」

 言われて私はポケットに手を突っ込んだ。中に入っていたのは、学院生に渡される例のキーホルダーと、昨日、森で黒衣の男を撃退するのに使った物の残り。

 それは、人形の腕や足だった。カミサマが世界の仕掛けを働かせるために私に与えてくれたもので、あのときカミサマが入っていた人形の残骸だ。相手が放った魔法にこれをぶつけると、人間に魔法が当たったのと同じ判定になるのだとか。それで、世界の仕掛けが動いたのだ。

 クラリィ婆ちゃんは私の手のひらの上から人形の腕をつまみ上げると、眇めて見た。

「こんな神気まみれのもの、どこで手に入れたんだい」

 どう答えたらいいかわからず私が固まっていると、両親が台所から茶器や茶菓子を持ってやってきた。婆ちゃんは人形の腕を私の手のひらに返し、私の拳に握らせると、後でうちに来な、と言った。私は頷いた。

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