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8話《合同授業》

 レイジが怒られてから数日が経過し、三日間の休日を挟んでからの登校日。


 ほとんどの学校や学園では五日間の授業日と二日間の休日の繰り返しが多い。だが、この学園では生徒たちに十分な休息を取らせることで肉体的にも精神的にも万全な状態で授業を受けてもらい、効率よく育ててこうという学園長の意向により休日が多いのだ。


 ちなみにその学園長は、一国家を統べるほどの権力を持っているのではと囁かれるほどの威光を放つ人格者であるそうな。


 いくつもの町が簡単に収まる広大な面積の学園を建て、その設備は最高峰。それでありながら学費や授業料は特別高額ではなく、それどころか通常より安い。それでありながら生徒たちの生活の支援も欠かさず、無料で住むことのできる寮や格安の食堂の提供も行っている。


 しかし、余程忙しいのか入学式には姿を見せず、未だに一年生たちは学園長を見たことがない。


 そんな学園長が直接に制作したのが、現在レイジたちが集まっている訓練場だ。


「いいかお前ら!この合同授業は、他クラスとの交流が目的。という建前を持った格付けだ!!」


 レイジを遥かに上回る暑苦しさを誇る男。


 身長は二メートルを超え、天性のガタイの良さが窺える。


 その男の名前はガンドレー。三組を担当する講師だ。


 今回、二組の先生であるナチュレーザが急用により休みを取っているため、一時的にガンドレ―が二クラスを受け持つことになったのだ。


 筋骨隆々で高圧的なガンドレ―だが、意外にも座学の授業はわかりやすく、二組の生徒たちは見た目が全てじゃないという教訓を得た。


 現在は昼休みを挟んだのち、全員が訓練所に集められてる。


「だが、今回うちのクラスには最近入ってきた新入りがいる!普段のクラスの様子を見るに問題はないだろうが、仲間外れにはすんなよ?……で、肝心の野郎はどこいってんだ?どこいるか知ってる奴いるか?」


『……』


 沈黙。


「誰もわからんのか?クソッ、またか!!」


 またか。という言葉を聞き、二組の生徒たちは顔を見合わせる。


 しかし、三組の生徒は特になにも気にする様子はなく、ガンドレ―の言葉からもその編入生が授業に来ないのはよくあることなのだろう。


「仕方ない。とりあえず今回は交流を主目的とし、二組と三組でペアを組み、二対二で戦闘を行ってもらう。ペアは俺の独断で指定させてもらうぞ!文句言うなよ」


 くじ引きとかで決めてもらった方が文句も出ないのでは?と、誰もが思ったが誰も口にしない。


「見ての通りフィールドは縦長の荒野だ。また今回は魔術の使用を許可する。遠距離からの魔術の撃ち合いが主になるだろう。開始の合図は俺がするからそれまでは作戦立てたりコミュニケーションをとってチームワークを高めておけ。日頃の訓練で培った技術を活かし、自由に戦え!以上!!」


─────────────────────────────────────


 生徒たちがどんどん組み分けられていった。


 ガンドレ―は男女ペアにするだとか、それぞれの魔術の不得意だとか、そんなことは全く考慮していないようで、適当に「お前とお前な」と指差して決めていく。


「……」


 そんな中、ベックは徐々に焦りを感じていた。


 段々とペアになった者たちがその場を離れていき、それに伴いその場の人数もぱっと見で数えられるほどになっていた。


 そこで、ベックは二クラスの合計人数が奇数であったと気付くこととなる。


 なかなか指名させることがなく、ベック以外の生徒たちにも不安気に周りを見渡す者が増えていく。


 残り九人。


「頼むよ……」


 七人。


 選ばれた生徒が安堵するように息を吐く。


 五人になり……三人になったところでガンドレ―は首を左右に動かした。


「こりゃあ……一人余っちまうのか」


 今更気付いたんですか!?


 と、言いたいところをグッとこらえて飲み込む。


「クソ、あいつがサボってなければぴったりだったのによ……」


 ガンドレ―は深く溜息を付き、右手で前髪を掻き上げた。


 そして、ベックに告げた。


「一人でもいいか?」


 残っていた三人のうち、一人はベック。他の二人はどちらも女子生徒。


 なんだかんだ、ガンドレ―は女子生徒を一人にするのは忍びないと思い、ベックに問いかけてきたのだろう。


 だが、ベックは悟った。これは頼まれているのではなく、既に決まっていることなのだと。


 ここでベックが断り、片方の女子生徒と組んだとしよう。


 その場合、残った人への申し訳なさからベックもペアの人も本調子を出せないだろうし、もしかしたら女子生徒から反感を買うことになってしまうかもしれない。


 もしレイジだったら「逆境に立ち向かってこそだろ!」と言って快く頷いているだろうし、一人でも勝ち星を得られるだろうな。


 ベックはそう考えたところで、一つの思考が生まれた。


 負けたくないな──と。


 タイマンで戦うと、どれだけ上手くレイジの攻撃をいなせたとしても最後には呆気なく負けてしまう。


 ここで引き下がったら肉体だけでなく、精神的なところでも戦う前から負けを認めているようなものだ。


「人の事言えないな……」


 レイジに負けず嫌いだと言っておきながら、自分も十分負けず嫌いじゃないか。


「嫌か?嫌だったら仕方ないが、じゃんけんかくじ引きで決めるが……」


「いえ、ぼくは一人でいいです」


 やってやろうじゃないか。


 一人で勝って、レイジに自慢してやろう。


「おぉそうか!」


 話が拗れることなく決まって、ガンドレ―は嬉しそうに頷き一言。


「もし……あー、名前わからんか。とにかくうちの新入りが来たらお前のところに向かわせとくな」


─────────────────────────────────────


 風が吹き、足元の砂が僅かに流されていく。高く巻き上がることはない為、視界を乱したり呼吸を妨げることはない。


「それじゃあよろしく」


 一人で立ち向かおうと心に決めたばかりのベックの前には、笑顔の絶えない一人の生徒がいた。


「ぼくの決意は一体……」


「どうしたんだい?」


「いや、なんでもないよ」


 首を振って問題ないことを示すと共に、沈み込む気持ちをなんとか振り払う。


「えっと……よろしく」


 ついさっきの出来事を振り返りながらベックは差し出された手を握ったのだった。

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