65話……《それは、遡っていく》
『あたし、大人になったら孤児院を作るよ』
『孤児院……ですか?』
『お前みたいな子供は山ほどいるだろ?そいつらもまとめて、あたしが面倒見てやるんだ』
『……とても良い考えだと思います』
『お前にも、手伝ってもらうからな』
『ずっと仕えさせてくれるんですか?てっきり、飽きたら捨てられるかと……』
『バカ言うな。お前はあたしの従者だけど、友達でもあるんだ。そんな簡単に切り捨てるわけないだろ。絶対、いつでも着いて来いよ』
『っ……はい!』
…………
…………
…………
『子宝に、恵まれなかったな……』
『すみません』
『そう謝らないでくれ。お前が悪いわけじゃない」
『……ありがとうございます』
『だが、後継ぎの候補が娘一人というのは不安が残る。一切恵まれないよりはマシだが……せめて男だったらと思ってしまうな。いざとなれば養子も手数に……いや、それでは他の貴族の手が入り込む危険性が…………あぁ、くそ。御神石なんて偽りじゃないか。何の為に時間を割いて手入れしてたんだ……』
『……あの』
『……なんだ?』
『無謀な考えだとは思うのですが、いっそのことシギルを後継ぎにするというのはどうでしょうか』
『いずれはそうするつもりだが』
『えっと、候補として考えるのではなく、後継ぎを任せると決定してしまうということです』
『ん?……どういうことだ』
『他の貴族に嫁いでもらうための教育ではなく、男の子を育てるようにするということです。どちらにせよ、不安定なまま嫁ぐ年齢になってそこで嫁ぐか後を継ぐかの判断をするよりは、初めから決めてしまっていた方が、シギルにとっても、私たちにとっても良いのかと……』
『ふむ。縁談の話も十歳頃から始めたいところでもある。となると……そうか。早々に決めるべきなのか。であれば……八歳だ。八歳までにシギルに才が見られなければ、やむを得んが切り替える。養子を探すとしよう』
『……妾を迎え入れるというのは──』
『それこそありえん!』
『ぁ……』
『……私はお前だけを愛し続けると決めたのだ。たとえ家の存続が懸かろうと、お前以外に手は出せない。お前以外は見えない』
『ドイン様……っ!』
『んんっ。と、とりあえず、シギルの頃までには安定した統治を残しつつ、領民には多少の無理を押し付けていこうと思う』
『そ、それは……』
『安心しろ。生活は困窮しない程度に、ただの不満が挙がる程度に、だ。私が降りた後シギルに改善してもらえば、たとえ女だろうと受け入れられるだろう。彼らにとっては、習慣より、結果が、事実が大事なのだからな』
…………
…………
…………
『ドイン、いい?』
『うん!この石?を掃除すればいいってのはわかったよ!』
『偉いわ。じゃあなんでお掃除しないといけないんだっけ?』
『え、えーーーーと………………汚れるから?』
『間違っては無いわ』
『やった!』
『でもいい?これは、ずっと昔からやってることなの』
『ずっと昔から?グラルトおじいちゃんも?』
『そう。おじいちゃんもよ』
『じゃあおばあちゃんも?』
『おばあちゃんも』
『ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんは?』
『もちろんやってたわ。みんなみんな、ずっと、ずーっと昔から続けてることなの』
『ずーっと、ずーーーっと?』
『そう。ずーーーーーーっとよ』
『じゃあ、もっともっと、ずーーーーっと昔からも?』
『そうよ。だから、ドインもちゃんと忘れずやるのよ。お嫁さんができたり、子供ができた時もちゃんと教えて、ずっと続けていくのよ』
『わかった!……でも、お掃除したらなにかいいこととかあるの?』
『この御神石様は、わたしたちを見守ってくれてるのよ。だから、本当に大変な時は守り神様が来て下さるの』
『……なんか嘘みたい』
…………
…………
…………遡っていく。
『これだけ異質なんだよな』
『これ?確かに妙に角ばってるし大きいし……自然のものじゃないよな』
『こんな陰になってて湿ってる場所にあるのに苔生してないのも気になる』
『お前の家族に聞いてみたら?』
『聞いたら答えてくれるかねぇ。ま、後で聞いてみるよ』
『気になるから教えてもらえたら僕にも共有してよね』
『もちろん。忘れてなければね!』
『ああ。忘れるんだね』
『そう決めつけんなって』
『もう慣れた。さ、グラルト。そろそろいくよ!』
『おい、置いていくなって!』
…………
…………更に、更に、更に。
…………遡っていく……遡っていく……
『雪だー!』
『雪だー!』
『初めて見たね!』
『だね!どうする!?なにして遊ぶ!?』
『まずね、雪だるまは作りたかったんだ!』
『じゃあそれ作ろ!そのあとかまくら作って、雪のお城も作って、そしたら父さんも母さんもみんな呼んで雪合戦しよ!』
『いいね!』
『じゃあさっそくまずは雪だるまだ!』
『でもどうやって作るの?』
『えっと、多分まずは丸くするんだよ。それで転がすんだ!』
『転がしちゃったら壊れちゃわない?』
『た、多分大丈夫だよ。もし壊れちゃっても、もう一回作り直せばいいんだからさ!それにこんなに雪が降ってるんだから、何回でもできるよ!』
『そうだね!……あ!ねーねー、もうだれか雪だるま作ってたみたいだよ?』
『あれ、ほんとだ。おっきいね』
『ね。でも、すんごい四角いね。雪だるまって丸いやつだよね?』
『うん。それに、二個か三個重ねてた気がするよ』
『変なの。壊しちゃったら可哀想だから触らないでおこ』
『だね。こっちで作ろ!』
『うん!』
…………
…………
……それは、始まりまで。
『あなた、大丈夫?』
『……ぇ、僕に聞いてるのか?』
『もちろん!それで、大丈夫なの?』
『……そう見えるかい?』
『見えないわね。なんで胸から下を地面に埋めてるのよ』
『いや、それは僕も知りたい。気付いたらこうなってたんだから。ところで、よく僕みたいな奴に話しかけられたね。僕だったら怖くて近寄れないな』
『その自覚はあったのね。あなた変な人ねー』
『うーん』
『どうしたのよ』
『いや、なんでもない。ここから出たいから手を貸してくれないか?』
『触るのはちょっと……』
『そうか……』
『嘘よ』
『……』
『ごめんなさいって、ちょっと魔が差しただけよ!ほら、手を出しなさい』
『……助かる』
『ん、んぅー!……硬い。全然抜けないわね』
『……諦めも肝心か』
『なにバカなこと言ってるのよ。もう暗くなるし雨も降りそうなのよ』
『いやー、こんなにも地面と一体化してる感じに埋まってたらどうしようもないかなって』
『なんでそんな楽観的なのよ。そもそもここはわたしの家の敷地内なのよ?わたし以外に見つかってたらどうなってたかわからないわよ?』
『うーん……じゃあなんかご飯くれない?』
『あんた……自分の立場わかってる?』
『わかってるけど、それはそれ、これはこれさ』
『……ま、良いわ。ちょっと待ってなさい』
『本当にくれるんだ』
『あんたが欲しいって言ったんでしょ!』
『ごめんごめん』
…………
『美味しくないね。不味いってわけじゃないけど、味が無い』
『あんた失礼過ぎよ!』
『すまない』
『そもそも、この辺だと一番良い食事だと思うのだけれど?それを美味しくないって、あなた一体どんな暮らしをしてたのよ……もしかして伯爵様くらいの貴族の子息だったり?』
『伯爵様の子息?そんなわけないでしょ』
『じゃあどれほど贅沢な暮らしをしてたのよ』
『うーん。難しい。贅沢ではないし、そもそも暮らしって呼べるのかも怪しい状態だったんじゃないかな?』
『なによそれ。とにかく、あんたはどうにかしてそこから出ることだけ考えてなさい』
『えぇ……』
『ええってなによ、ええって』
『なんか、ダルいってわけじゃないんだが、気力が湧かないっていうか、元気が出ないんだ』
『もう、まるで子供じゃないの。はぁ、いいわ。この際わたしがあんたの面倒みてあげる』
『……なんで?』
『人の善意は素直に受け取りなさいな!』
『……そうだな。確かにその通りだ。ありがとう』
…………
…………
…………
…………
…………
…………全てはここから始まった。
遡って、遡って……始まりまで遡って…………
知る必要は無い、でもふとした瞬間に思い出される記憶。紡がれ続いた繋がり。
別に名前自体に意味は含まれてませんが、ちゃんと名前を見てくれてないと訳分からないものだと思います。




