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楽して生きれるほど甘くはない世界で。  作者: 成田楽


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61話《重み》

 あいつはなにを言ってんだ?


 僕がフレットを襲った?ライアを殺す?


 そんな嘘、ライアが否定すればそれで片付いてしまうことじゃないか。


 時間稼ぎにすらならない。


 なにがしたいんだ?なにを企んでいる?


 あいつは恐怖に怯え、体を震わせている。


 それが演技なのはわかりきっている。


 あいつの本性はドス黒いものなのだから。


 だが、現状レイジたちの中にある情報はあいつからの報告のみ。


 真偽の判断を付けずとも、実際に奴は大怪我を負っており、部外者ならともかく学園の生徒なのだから、まず疑いの目を向けられるのは当然こちらだろう。


 だから、レイジが戸惑いつつも警戒心をあらわにしてきた。


 レーザは落ち着いて思考しているようだったが、すぐに否定してくれないのだから疑いを捨てきれていないようだった。


 ライアはただ戸惑っている。足の痛みも残っているだろうし、出血も多くしていたから思考力が鈍っているのだろう。


 奴は──


「……クハッ!」


 奴と一瞬目があった時、奴は演技を崩して笑った。


 ……嫌な笑い声だった。


 それは微かなもので、ただの勘違いかもしれない。


 まさかとは思った。だが、一手遅れただけで取り返しのつかないことになることもある。


 だからライアの手を引き、自身の身に寄せた。


 なにがあってもすぐに対応できるように。


 約束を、守れるように。


「ロ、ロア君ッ!?」


 驚いたライアが声を上げる。


「おいロア!テメェなにライアを!?」


 ライアに関しては誰よりも敏感なレイジが機敏に反応する。


 だが、説明する暇はない。


 フレットが、腕を歪に曲げつつも上体を起こしてこちらに手を向けていた。


 ロア以外の誰も、フレットを見ていない。


 意識の外に出てしまっていた。


 失敗した。


「それを待ってたよ……【モールディング】」


 それは、武器を出す時に言っていた言葉。


 でも、奴の手にはなにもない。


 その周囲にも変化は見られない。


「…………ッ!?」


 抱き寄せていたライアが、もたれかかるように体重をかけてきたことで、全てに気付いた。


「──レ……を────ぃ」


「ライア……?」


 奴がなにをしたのか。なにを狙っていたのか。


「……ッ!」


 そして、もう失われたということに。

この時が来てしまいましたね。

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