6話《学園》
ここは、性別、種族、身分による差別なんて無い学園。
その国に生まれた誰もが入学し、学びを得たいと願う学園。
しかし、敷地の広さは有限であり、国から出る予算も限られている。そのため、全ての希望者を受け入れるわけにはいかないのだ。
争いごとの絶えない世界。他国より優位に立つのに必要なのは力だ。
どんなに物資があろうとも、奪われてしまえばそれで終わり。
どんなに知識や知力があり指揮を取ろうとも、有能な部下が居なければ、戦力が無ければ何も成すことはできない。
全ての土台には力が必要だ。力で頑強に支えていなければ簡単に崩れてしまう。
全てを決定づけるのは力のみ。
バランス良く、あらゆる分野にて力が必要なのだ。
そんな信念の元に建てられたのが、このコンクスト学園だ。
つまり、入学するのに必要なのはただ一つ。
力だ。
研鑽された剣術を持っている?素晴らしいじゃないか。
魔術の適正が高い?将来性抜群だな。
暗殺術を会得している?力があるならそれでもよし。
そう。なんでもいいのだ。
力に種類は問われない。
ただフィジカルが強いとかでも、他と渡り合うほどのものであるのなら問題ない。
とにかく、求められているのは、国を守り、国を攻める力であり、そのような者を育成するのが、コンクスト学園なのだ。
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「──と、いう考えはここが設立させた当初のもので、今はそこまで力に貪欲な学園ではありません。なので、この時間はあくまで個々の得意分野を伸ばしていく為のものと考えていただければ幸いです」
長々と語っていたのは、一年二組の担任となったナチュレーザ・コルトクル。
スっとした背の高い健康的な体。真っ白な髪は、頭の後ろで小さく結ばれていて、顔立ちも見た人全員がイケメンだと評価するもの。しかし、それよりも特徴的目を引くものは、この国では見慣れない尖がった長い耳。
いわゆる、エルフという種族だ。
人間とは違う種族ではあるが、分類は人間と同じで魔物ではない。
簡単に組み分けると、意思疎通可能、対話可能な知能を有している人型のものは【人】と分類され、人の中で【人間】【エルフ】【獣人】等と分けられていくのだ。
そんな彼が受け持つクラスは、現在訓練場に集まっていた。
屋内の訓練場にも関わらず、草木が育ち、微かに風が肌を撫でる。まるで屋外かのように日差しが照っていて、それにより大地が熱を帯びていた。
ちなみに屋外の訓練場もあるが、あいにくの雨の為本日は屋内訓練場に集まっている。
「この施設は、学園の敷地面積の七割ほど使用して作られた特殊な訓練場です。魔術や魔法を最大限に活用して作られたここは、気温や天候を自在に変えることができ、草原、森林、岩山等、あらゆる状況を創り出すことができます。今回は障害物の無い一般的な乾いた土壌での授業になります。それでは、本日は体慣らしも兼ねて簡単な模擬戦を行っていただきます」
そして始まった模擬戦──という名の取っ組み合い。
木で作られた模擬刀が貸し出され、生徒たちは好きなようにペアを組んでいた。
「ねぇフェーレ」
「ん?」
「魔術も魔法も禁止ってなるとちょっと難しいね」
「うん。それに頼りっきりになってるとなおさら」
「私は動くの苦手だから大変かな」
「……任せて。手加減は得意」
ライアとフェーレはすぐには剣を交えずに、周りの様子を窺いながらその場で剣を素振りして腕を慣らす。
ナチュレーザが、生徒たちの中でも得意不得意が分かれていることを配慮し、強制はしないと言ってくれていた。
それもあり、ライアとフェーレのようにまったりしている者もいて、片方の生徒がもう片方の生徒に剣の振り方を教えている者たちもいる。
もちろん真面目に戦っている生徒の姿もあるが、剣をメインにしていない生徒は使い慣れてない為どうにも形になっていない。
実力がかけ離れているペアだと、呆気なく剣を手から落としてしまっていたりした。
「お友達も呼んでいいならまだなんとかなるんだけどなぁ」
そんな、戦闘訓練というよりかはレクリエーションに近い雰囲気の中、とある区画では激しい試合が行われていた。
「オオ──ッ!!」
相手を威圧する咆哮と共に、上段から両手を組んだ拳を振り下ろす。
素人が真似をすれば隙だらけで欠陥のある動作。だがその男の速度は常識を逸していて、意識しなければ見逃してしまうものだった。
とっさに反撃することは出来ず、反射で防ごうとすることが限界だろう。
そのまま脳天を穿ち、仕掛けた男の勝利が確定する……と思われていた。しかしその考えは容易く裏切られた。
「ッ──!」
相対面する白髪の男は踏ん張るように息を止め、正面からその拳を片手でつかみ取る。
そしてそのまま、その細身からは考えられないような圧倒的な力で押し返していく。
それぞれに配られたはずの模擬刀は、無残にも半ばから折れて捨てられている。
「レイジ。君はいつもいつも力任せすぎるんだよ」
「うるせぇ!」
レイジは掴まれた腕を振り払おうと、足を踏ん張り体を捻って離れようとする。しかし叶わない。
「クソがッ!」
それならばと、逆に腕を押し込んで更に距離を詰めて頭突きをキメる。
「おっと」
しかし、あっさりと頭に手を添えられて止められてしまう。
だがこれで両腕が塞がった。
右足を曲げながら振り上げ、膝で相手の腹を狙う。
しかしこれも足を合わせられて防がれてしまった。
「今度はぼくの番だよ!」
掴んだ腕をそのままに、勢いよく振り上げた。レイジの体は軽々と浮き上がって浮遊感に苛まれたが、そのことを理解するよりも先にいつの間にか視界に地面が迫っていた。
受け身を取ることが出来ずに、無防備なまま打ち付けられた。
「はぁ……はぁ……」
「そろそろやめない?」
「わかるだろ、ベック……俺は──」
「俺は負けず嫌いなんだ。でしょ?」
「分かってるならッ!とことん付き合いやがれ!!」
仰向けの体勢から足を振り上げて跳ね起き、反撃の隙を与えないように即座に顔面に手を伸ばしたが、見破られていたのか腕を交差させて防御の姿勢を取られた。
しかし、こうなるのは想定済み。
上半身を脱力させて姿勢を低く、右肩を腰あたり目掛けて突進。
流石に想定外の動きだったのか、対応されることなく直撃。
目の前の男を、ベックを吹っ飛ばす気でいた攻撃だった。
「少しだけ苦しかったかな」
しかし、少しだけ地面を滑らせるだけで終わってしまう。
「クッ──!」
身の毛がよだち本能的に背後へ跳ぶと、レイジがいたところに膝蹴りがかまされていた。
「あぶねぇ……」
もし避けていなければ膝に腹に刺さり、とてつもない打撃による衝撃がレイジの臓器を襲っていただろう。
「間一髪だったね」
「フィジカルだけで解決しやがってよ」
「だけって言われても、ちゃんと攻撃を防いだ数の方が多かったと思うんだけど?」
「うるせぇぶっ飛ばす!!」
そして再び取っ組み合いが始まるかに見えたが、レイジは冷静に距離を取った。
「結局、俺には俺のやり方が一番合うってもんだぜ……」
「レイジ?」
目線をベックに固定しながら首を回し、腕の力を抜いて左右に震わせた。
一、二、三とジャンプ。着地しつつ腰から下の関節を曲げ、背中を丸めて体を小さくする。
両手を地面に付けて腰を低くしたレイジのその姿は、まるで獲物を狙う獣のようだった。
「まさか」
──カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。
周りの雑音に紛れ、レイジが歯を打ち鳴らす音がベックの耳へと届く。
そしてみるみるうちにレイジの全身が肥大化。
全身が竦むような感覚に、ベックは思わず身震いする。
「挑発し過ぎた……」
頭に血が昇ったレイジは比較的簡単に行動を予測することが出来るようになる。だからベックは柄にもなく煽っていた。
しかしこうなったレイジには何をしても敵わない。
予測するどころか、視界に入れることすらままならない。捉えられなくなるのだ。
「死なない程度に頼むよ」
ベックは聞こえてるかわからない友人に一言告げた。
「シィーー」
歯の隙間から空気が漏れる音が聞こえ、辛うじてレイジの姿がブレたことを認識。
どうにか、一矢報いようと己の拳を振るおうとして……
そして、いつの間にか意識を手放していた。
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