51話《死の苦しみすら虚構へ送る者》
また奴らが増え、先ほどと全く同じ弾が飛んできた。
だが男の暗号のような言葉を聞き、どこかに違いがあるのではないかと、レイジは目を光らせる。
光弾や暗弾が、変わらず飛んできて、速度もレイジが全然避けれるほどで、見た目も違和感はない。
「さぁ、参りましょう!」
わからない。ハッタリの可能性も──
「──バッ!?」
今までのはただの物量による弾幕だった。だから速度に緩急があれど、動きがある程度予測できた。
だが今回のそれはそんな容易いものではなかった。縦横無尽に動く。乱反射する光のように地面に当たって跳ね返り、障害物のない虚空で屈折。
それは全てを利用する跳弾。
一つ一つが即死級。急所に当たれば最期となるだろう。
そんなものがありとあらゆる方向から消えることなく襲う掛かってくるのだから、もう形容しがたいほどにやってられない。
耐えるだけでは終わりの見えない、絶望的な光景。
行動に移さなければどうにもならない。
ならどうするか。
「死にやガレ!」
もう避け切ることは不可能。
捨て身の特攻で殺し切る。
レイジの体力が、命が尽きるのが先か。それとも奴の人形を殺し切って本体を殺すか、本体を先に見つけ出し殺せるか。
「【グラビティ=フィックス】」
瞬間、体がピクリとも動かなくなる……が、それを力で無理矢理振り切る。
腹を蹴ってぶっ飛ばし、そいつの後ろにいた奴らごと潰す。
しかしその一手の間に、頬が切れた。
だが無視。
腰も抉られた。無視。
脛にも痛みがある。無視。
「らァッ──!二十ッ!!」
口元に膝蹴りをぶち込み、ぐちゃぐちゃにしてやった。
「……【グラビティ=フィックス】」
次の奴をぶん殴ってやろうとしたら、目の前に壁があった。
見えない壁だ。
なら別の奴を殺しに行けばいいだけの話。
「二十一!」
右手の小指と薬指に感覚が無い。
「二十二!」
視界の左側がぼやけてきた。
「二十三!」
「……止まりなさい。【グラビティ=フィックス】」
また壁ができた。
でももうそれは知っている。だから、それを足場として利用。
壁に足を付けて急転換。奴の肩に乗って、もう一方の足で頭を蹴り飛ばした。
「二十四!」
殺す。受ける。殺す。躱す。受ける。殺す。受ける。受ける。
……単なる作業と化し始めていた。
頭を潰す。腹に風穴を開ける。首を捻り折る。首をもぐ。足を掴んで投げつける。顔面を陥没させる。背中と尻を合わせるようにへし折る。肩から叩き潰す。頭と頭を持って合掌。頭突きでかち割る。股下から蹴り上げる。眼球から脳をかき混ぜる。顎を打ち据える。胸に掌底を打ち込む。喉に指を突き刺す。
確実に致命傷を与え、急所を抉って即死させ、徹底的に潰していく。
もう何人殺したかわからない。だが、確実に奴らは減っている。奴が追加で現れることもない。
「……【グラビティ=レイズ】【グラビティ=アンダー】」
更にレイジがもう一人殺した時、奴らが空中に浮き始めた。そしてレイジには使われていなかった負荷を掛ける力を。
レイジ自身に掛かる負荷はもうどうだっていい。
「逃げンノカ?」
「逃げる?違います。これは戦略ですよ。貴方と同じ土俵にいること自体間違いでした」
「……」
「冷静になるべきでした。お恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ありません」
奴らは攻撃を止め、空からレイジを見下ろす。
「もう、私を無駄にしません」
「……ソうかよ」
攻撃が飛んでこないことをいいことに、レイジはその場にしゃがみ込む。
「それはなんの真似でしょう」
「一回ヤッタだロ。忘レタんか──ヨッ!!」
「ヵ──」
レイジの小石の投擲に、奴は力無く落下していく。
「喋ってル奴ガ本体ってわケジゃねぇんダな」
「……早急に終わらせましょう」
「俺モそうしタいとこロダぜ!」
二十人か、三十人か。
目に見えて数が減っている。
「死になさい!」
「救いじゃナカったんカよ!」
奴らは保身のために空中へ飛んだが、レイジにとっては好都合。
意識しなければいけない攻撃と、狙わなければいけない標的が分かりやすく分断されたのだから。
小石を拾って撃ち落とす。
正面から来る弾丸を避ける。
地面に当たって跳弾と成って下方からレイジを狙うものも、跳躍して股下に入れ込み回避。
側方から無数の弾丸がレイジを狙う。
後方からも一度レイジに当たり損ねた弾が、見えない壁にぶつかり跳ね返って、再びその命を刈り取りに狙う。
「──ッ!」
正面の空間に違和感が生まれた。
砂埃が舞う戦場に、その箇所だけ穴が開いたかのように綺麗な空間になっていた。
それは、奴の弾が反射する時と同じ現象。
つまり──壁があるということ!
「なッ……」
レイジはその空間に向けて跳躍し、壁を足場として更に上へ上がる。
「シね!」
奴の胸倉を掴みながら、直接拳をぶち込む。
それからそいつを足元に引っ張って即席の足場に。
「ハっ!」
踏まれた奴は勢い良く落下し、地面に突き刺さる。
更にレイジはもう一人刈り取る。
「無防備ですよ!」
「いヤ、違ぇな」
足場を無くしたレイジに跳弾が殺到するが、リングに魔力を通して即落下。
ペントリアスのような挙動で回避した。
そして着地後すぐに疾走。
唖然としてる奴に投擲。
「クッ……【グラビティ=シャット】!」
全身を抑え込められる不快感がある。それだけだ。
「次ダ!」
「ぐ──」
「テメェも!」
「ぎゃ──」
「死ねェ!」
「待──」
……あと八人だ。もう、数えられる人数になった。
もう、負ける未来は無い。
ペントリアスも、リビオンも、これが終わったら急いで助けてやらねぇと──
「アッハッハッハ!!」
「……ア?なに笑ってんだヨ」
急に攻撃を止めて笑い出す奴に、レイジは戸惑う。
「わかりました!私には貴方を救えません!」
「……テメェが言った言葉をそのまま返してやる。戦意損失か?」
「戦意損失……そうですね。戦意損失しました。私の力では、どう足掻こうが貴方には届きません」
謎だ。奴はなにがしたい?
潔く負けを認めたのか?
大人しく殺されるつもりか?
それとも、逃げるつもりなのか?
……それは断じて許されない。
更なる殲滅を、全ての奴の命を磨り潰し、絶望を。
「なので、最後に貴方を惑わす言葉を残しましょう」
「……」
抵抗を止めるのか、そいつらは空からゆっくりと降りてきた。
これなら、全て殺せ──
「ライア・ストライン。彼女は元気でしょうか」
「ッ!?テメェなにヲ!」
なんで奴からその名前が出てくる?なんでそんな余裕そうな顔ができる?なんで俺を見ていない?
「我が主君よ!我々に救いを!【勝利のフィナーレ】を!!」
その瞬間。奴らの体が膨れ上がるのをレイジは認識した。奴ら全身がひび割れて、光が漏れ出し──
それは、ただ純粋な破壊の力だった。
訓練場の全てを飲み込む大爆発。
レイジの視界が真っ赤に染まり、それから真っ白に塗り替えられた。
肌を灼熱が燃やし、瞳を閃光が焼き、爆音が耳を劈く。
息を吸えば口から喉から、肺まで焼かれる。
駄目だ。
視界から情報が得られない。
聴覚も機能していない。
触覚も嗅覚も、焼かれてしまってわからない。
自分が生きているのかすらも……なにも。
奴はこれで死んだのだろうか。
ペントリアスとリビオンは巻き込まれてないだろうか。
……ライアは、無事なんだろうか──
──???──
謎の聖職者。人々に見返りを求めずに救う正義の味方。救いを与えるためには己の犠牲も厭わず、どんな腐った人間でも分け隔てなく救いを与える善人。
……上記は、間違っていないが正しくはない。
己を神を信じない聖職者と呼称する、黒い祭服を着た男。己の考えを勝手に押し付け、救いと言う名の絶命を与えようとする。死=世界から解放されるという考えの元、殺しこそが救いと考えている。己こそが最高の善人だと信じてやまない、凶悪極まりない悪人。
【グラビティ】という力で重力を操り、範囲内のモノを下方向以外にも落とすことができる。本来の重力を消しているわけではないため、上への重力と拮抗させることでその場に浮かせたままにすることもできる便利な力だ。
【アンダー】下方向へ落ちる強力な負荷を受ける。
【レイズ】上方向へ落ちる強力な負荷を受ける。
【フィックス】その場を固定する。
【シャット】全方向から負荷を受け挟まれる。
他の力についても説明しましょうかね。
【現身変幻】は、小さな人形を触媒にし、己と瓜二つの存在を生み出す力です。明確な意思が存在していないだけで、能力は全く同じものが生み出されます。どれだけ生み出しても減衰することがないなんてズルいですね。
【リコシェギア】は、特殊な弾丸を操る力です。魔術で同威力を出すにはその道を極めなければ届かないほどの威力を誇ります。接触した部分を抉り取る、消滅させるような感じの影響を与えます。
【アクティベート=リコシェ】は、【リコシェギア】を跳弾に切り替える力です。彼は【グラビティ=フィックス】で空中を固定して視認不可能の壁を作り、跳ね返させたりしていましたね。
他にも、【ギアアップ】で高速化、【ギアダウン】で低速化。
【ギアチェンジ】で一時停止+力の切り替えを行ない、【チェンジアップ】で発動。放たれた【リコシェギア】を巻き戻して攻撃してきます。器用ですね。
【勝利のフィナーレ】は大爆発を起こします。一番説明が簡単な力ですね。【現身変幻】で散開した彼の偽物全員が内に残る魔力を使って自爆します。自爆するのに【勝利のフィナーレ】ってどうなんだ?と、思うかもしれませんが、彼からすれば己が犠牲になっても『あの方』の勝利に繋がるのであれば、その爆発は【勝利のフィナーレ】の演出の一つなのです。
あと、どうしても言いたかったことがあります。私、このキャラの構想を練って、この話を書き終えた後に某アビス作品を読みました。やってたゲームがコラボしてて、そこから気になって読み始めたのですが……この聖職者、少々既視感を感じませんか?一度そう思ってしまうとなんかパクリっぽくて気になるんで、せめて祭服の色でも白くしてやろうかとも考えました。ですが《祭服を黒くすることで、彼自身は己を正義と思いつつも根本は悪》なのだということを表現したかったので、どうにも変えたくなかったんですね。なので私の意思を突き通しました。
言わなければ誰も気づかなかったことかもですが、言いたかったんで書きました。
ここまで読んでくださっている方がいるかわかりませんが、時々こんな感じで後書きにお話ししにきてますので、よろです。




