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楽して生きれるほど甘くはない世界で。  作者: 成田楽


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50話《壁は巨大で強大で》

「何故生きているのですか!貴方に与えた救いは!?救済は!?」


「黙レ」


 宙に浮かんで、どこにも踏ん張れないから情けない姿勢になってしまっている。


「何故受け入れない!?何故抵抗する!?」


「黙レよ」


 身体良好。頭はスッキリしている。


「私が求めて止まない救いを!貴方は私に身を任せるだけでこんなにも容易く手に入れられるというのに!」


「黙りヤガれ」


 奴の声が鬱陶しい。聞いているだけでイライラする。だが、奴が声を荒げて感情をむき出しにしているのを見ると清々する。


「贅沢にも程がある!!欲を出すにも限度がある!!」


「黙れヨクソ野ろウ」


「もう限界です!新たな罪の清算は諦めましょう!さっさと貴方を救済し、彼らも救済し、全て終わらせましょう!!【グラビティ=レイズ】!」


 レイジ以外の重力が正常に戻る。


 逆にレイジは更に空高く落ちていく。


 互いの距離を大きく離すその行動に、レイジからの反撃に対する恐れが見え隠れしているように感じた。


 脅威とみなしているというわけだ。


「そういヤ俺、こんナン持っテんだ」


 腕に装着していたリングに魔力を通す。


 その途端、レイジの体が急降下し、男を一人潰しながら地面に着地。


「は?」


「テメェのその力がリビオンと同じもんでも違うもんでも、俺を同じ場所に固定し続けてるってことはよ、上とか下とかに拮抗する力が掛けられてるってことだろ?だったらそれ以上の力で下に落ちればいいだけじゃねぇか」


「なにを、人の力では成しえないはずです!報告にも貴方がそのような力を持っているなど記されていなかった!……それか?その魔道具か!?」


「だったらナンだヨ」


「人の身でありながら、平等に与えられた救いを無視し、単なる道具に頼るなど愚の骨頂!!恥じなさい!悔いなさい!【グラビティ=アンダー】!」


 今度は全身に異常な負荷が襲った。


 今までの奴の力を大きく超える重みを感じた。


 だがこれも想定していたことだ。


 魔道具による体重の増加による肉体への負荷。それを後押しする奴の力。


 しかし、この魔道具を使わなければ空に浮かんで無防備になることも事実。


 半ば博打の発動だったが、己の力を信じて正解だった。


 立っているだけで地面が押し固められ沈み込んでいくほどの重みだが、今は全く以て障害にはならない。


「……煩わしい。実に煩わしいですよ」


 奴はレイジを睨むように視線を向けてくる。


 イラつきを表すように、指先でこめかみトントントンと一定のリズムで叩いている。


「テメェの人形モ道具なんジャねぇンか?」


「貴方と一緒にしないでいただきたい。私は私の力を助成するために使っているのです。貴方のそれは貴方の力とは完全なる別物ではありませんか。根本から違うのですよ……【現身変幻】」


 奴が懐から新たに人形をいくつか取り出し、無造作に放り投げる。


 そしてそれらが奴らと瓜二つに。


「……屁理屈じゃねぇカ」


「救いを求めなさい。救いを受け入れなさい。」


「やッパ話になラねぇ」


 複数人いるというのに重くする力の重ね掛けをしないのは、そこまで思い当たっていないからか、それとも重複が効かない力なのか。


 奴が考え無しだとは考えにくい。となると、一つの対象に重複させることはできないのだろう。


 それはありがたいことだった。流石のレイジでも、何十人といる奴らから一斉に負荷を掛けられれば耐えられる自信はない。


 まあ、どちらにせよ指摘したり質問する必要性はない。


「今度こソぶっ殺シテヤる」


 未知ばかりなこの湧き上がる力。経験が少なさ過ぎて、いつまで続くかすらもわからない。


 この力が無くなれば、勝ち目は無いと言い切れてしまう。早々に決着を付けなければ。


「貴方に救いを──!【リコシェギア】!!」


 重力を操る力の効果が薄いと悟ったか、その言葉を起点に眩く光る弾が奴の周囲を取り巻いた。会話をしている奴だけでなく、他の奴らも同様に弾を浮かばせている。


 白と黒が蠢き混ざり、されど水と油のように濁らず混ざり合わない。


 時には黒く、時には白く、時には両方が表面上に現れ、それが視界のあちらこちらに広がっているのだから鬱陶しくやかましい。


 こんな魔術は知らない。


 魔法なのか?なら重くする力はなんなんだ?


 魔法は一人一つしかない。であれば、どちらかの力は魔道具によるものだろう。


 一部の魔法は代償無く繰り返し使用できるが、無限に使用できる魔道具は存在しない。使用者の魔力を消費するか、使用回数に制限があるかだ。


 ならば、もしもの場合は消耗戦に持ち込むことも視野に入れていいだろう。


「これは裁きです。私から貴方へ贈る、贖罪と救済。この力を使うことになるとは思っていませんでしたが、次は受け入れてくださることを願っています……」


「俺からも、テメェのソノイカれタ頭に救いをクレてやる!」


「凡人の分際で救いを与えるなど、驕りだと知りなさい!」


 奴らから光弾と暗弾が、レイジに降り注ぐ。


 正面や左右、上方からも、視界を埋め尽くすほどの量だった。


 もちろん後方からも飛んできているのだろう。


 どれだけ高速で動いても回避できない、圧倒的な物量で攻めてきたというわけか。


「だったらそれを上回りゃ良いだけのことだ!」


 やむを得ない接触でない限り、迎撃のためにと拳を振るって自ら危険に身を晒す必要はない。


 背後からの攻撃は思考から切り捨てる。前だけを見て突き進めば良いだけの事なのだから。


 僅かな隙間を潜り抜け、最も近い奴の脳天を力任せに殴ってカチ割った。


 残酷な殺し方だが、恐怖も躊躇いも無かった。偽物だとわかっているからか、それともこの状況に麻痺してしまっているのか、イカれてしまったのか。


 ……やっぱり考えることは好きじゃない。目の前だけを見て動けばいい。それが性にあっている。


「【ギアアップ】!」


 次の呼応で、急速に弾速が上がった。


「グッ──!」


 突然のことに対応し切れず、右足の太ももに受けてしまった。


 今までは大抵の攻撃は体で受け切れる自信があったものの、こうもあっさりと打ち破られてしまうと心にくるものがある。


 じっくりと傷口を確認できないが、ジクジクと痛むし足先まで異様な痺れを感じる。もしかしたら大きく抉れているかもしれないし、貫通しているかもしれない。


 だが今は突っ込むしかない。自分にはそんな能しかないのだから。


「【ギアダウン】!」


 今度は弾速が超低速へ。


 過ぎ去ると思っていた光弾が、目の前でほぼ停滞状態に。


「ぐゥ……!!」


 辛うじて身を翻し急所を回避したが、それでも避け切れずに肩口に当てに行ってしまった。


 それでも、更にもう一人の奴にの首を横から打ち当て、確かな感触を感じた。


「【ギアアップ】!」


 既に聞いた言葉。だがそれでも低速から高速への変化には即座に順応できない。


 背中からぐちゅっと嫌な音、そして瞬間遅れて痛みに支配される。前のめりになってしまうが、踏ん張って耐え、止まることなく走る。ついでに転がっていた石を拾って、眉間目掛けてぶん投げてやった。


 また一人倒れる。しかしまだまだ、奴らは減らない。出してないだけでまだ人形は残ってるかもしれない。


「……【ギアチェンジ】」


 知らない。今度はなんだ。


「過去を振り返らず未来を見て生きる。良いことだと思います」


 奴らの弾が全停止。


 今度は対応でき、回避しつつ構わず突き進む。


「ですが、歩んできた軌跡を振り返ることも、大切なのですよ。【チェンジアップ】」


 停止していた弾が動き出す。


 それはレイジ方向へではなく、奴らの方向へ。


 まるで時間が巻き戻ったかのように、飛んできた軌道をゆっくりなぞって帰っていく。


「なんノ意味があンダ?」


「意味のない行動なんてありません。全ての行ないには、必ず結果が存在するのですから」


 弾は奴らの周囲に戻って消えて、戻って消えて……


「ッ──!!」


「掠っただけですか。惜しいですね」


 戻って消えていく。つまり、その元を辿れば、放たれてレイジに当たらず消えていったものも巻き戻り、再び生み出されてレイジの背後から迫ってきていたということ。


 レイジは当たる寸前でそのことに気付き難を逃れていた。


「小細工ばっカしヤがってよ!」


「……【リコシェギア】【アクティベート=リコシェ】。そろそろ片付けましょう。貴方はこの無数の弾丸に耐えられますでしょうか。【グラビティ=フィックス】【現身変幻】」

【】が多くて喧しいですねぇ。後で【】内の解説するんで、後書きにも注目しておいて下さい。ついでに評価とブクマもしてって下さい。

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