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楽して生きれるほど甘くはない世界で。  作者: 成田楽


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42話《招かれざる乱入者》

「ア?だれダテメェ」


 顔つきはレイジたちよりやや大人っぽい。


 また、統一の学生服を身に着けていないところからも同じ学生ではないように思えた。


 黒を主体とした祭服……聖職者だろうか?


「初めまして、罪人諸君」


「罪人だァ?ナニ言ってやがル」


「人は己の過ちに気付けない。哀れな生き物ですね……」


「だかラな二言ってンだテメェ」


 そこで、レイジの体が背後にふわっと引っ張られた。


「待って……レイジ。なにか、おかしい……」


「あ?」


 謎の男から距離を離され、神妙な面持ちのリビオンたちの元まで浮かび上がった。


「空が……」


「ソらァ?」


 リビオンの言葉に空を見上げた。


「……ンだよコレ」


 本来であればまだ空には日が昇り、青空が広がっている時間帯だった。


 だがレイジの目に映るそれは明らかに異常なものになっていた。


 どこに目を移しても日の光が差してくることはなく、それを遮る雲も確認できない。


 空色は赤色に薄く染まっているが、気にしなければ夕焼けとも取れるものだった。


 だからレイジはすぐに気付けなかったのだろう。


「この空が気になりますか?」


「テメェがやっタんか?」


 レイジは謎の男を睨む。


「私ではありませんが、これは我々の行いの結果でしょう」


「なんかあいつヤバそうじゃね?」


「うーん……不法侵入ー?」


「学園関係者じゃなさそうだな」


「どうすンだ?」


「まだぁ……危ない人ってぇ決まったわけじゃ……」


 離れたところでひそひそ話をする三人だったが、男の話は終わっていなかった。


「しかしご安心を!」


 安心させるように、自分は無害だと知らせるように、全てを愛し抱きしめれるように、両腕両手を広げてアピール。


「これは救いなのです!人は誰もが過ちを犯してしまう。人である時点でそれは仕方のないことなのです。変えられない運命なのです。だから人には平等に贖罪の機会が与えられるベきなのです。貴方方も、そう思いませんか?」


「知らねェヨ」


 なに言ってんだと切り捨てる。


 しかしそのことが気に食わなかったのか一瞬顔を歪め、すぐに穏やかな表情に戻る。


「理解を拒む。それもまた人であるが故に無知であり、未知を拒絶する性質がある。仕方のないことです」


 慈愛に満ち溢れた表情で告げる。


「ですが、私はそれを許しましょう」


「なにを勝手二」


「救いは訪れます。私にも、貴方方にも、誰にでも!……だからこそ私が貴方方を救うのです。いつ救いが来るのか。今なのか、今日中なのか、明日なのか、明後日なのか。いつまで待ち続ければいいのか。不安に思われたことがあるでしょう」


「んナことネェよ」


「隠さなくてもいいのですよ。今まで良く頑張りましたね。えぇ。わかっていますとも」


「……」


 話が通じなさすぎる男にうんざりし、レイジは言葉を出すことを止めた。


「世界は不平等で不条理なものです。だから私が神に変わり世界に救済を届けるのです。罪を教え、罪を認めさせ、救いを求めるものには正当なる救いの手を差し伸べる」


 自身を抱くように胸の前で腕を交差。


「賛美されるべきこの行ないを、私は誰に自慢するわけでもなく、淡々と各地を訪れこなしていく……素晴らしいとは思いませんか?」


 今のは自慢とは違うのか?と、言いたくなる気持ちを抑え込み、口に出さないように飲み込む。


「……少々お喋りが過ぎましたね。救いを実行するの前にこうして真実を伝えることも私のすべき権利の一つですので、つい長くなってしまうのです。失礼しました」


 自身の頭を小突く男は、左手を胸の前に、右腕を外側に反らして胸を張り一礼。


 そして──


「さてこれから私が行なうことは一幕の幕切れ。そしてその幕開けを顕すものです。逃げずに、抵抗なく受け入れていただけると、新たな罪人の救済に迎えるので楽なのですが……お願いしますね?」


 右腕を空高く、レイジたちの方向へ向けて──


「【グラビティ=アンダー】」


 一言そう言っただけで、そいつからなにか飛んでくるわけでもない。


 だが……


「……?」


 リビオンは自分の知覚範囲内からペントリアスの魔力が感じられなくなったことに気付く。


 今の男の行動と、ペントリアスが消えたタイミングが一致し過ぎていて、嫌な予感と共に右に顔を向け──


 ──グシャ。


「ペント、リアス……?」


 下方からなにかが潰れた音がした。

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