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4話《難は去り?》

「その、なんだ……ごめんな。ライア、フェーレ」


 男が外に出て行ってから数秒後のことだった。すっかり意気消沈した様子で男は片手で顔を覆っていた。


「全然気にしないでください!助かりましたし、嬉しかったですから!」


 金髪の少女、ライアは男を励ますように声をかける。


「だがよぉ……」


「いいですから!えっと、ところでレイジくんはどうしてここに?」


「あぁ、鍛練終わりでよ、ベックと一緒に遅めの昼を取ってたんだよ」


 男、レイジが親指で差す方向には、こちらを心配そうに見つめる細身な男がいた。


「そうだったんですね。私は新作のデザートが出たって聞いたから、フェーレと一緒に来てみたんです。ねっ」


「……ぅん」


 フェーレと呼ばれた少女は微かな声で相槌を打つ。


「デザートか。最近甘いもん食ってねぇな。もう昼は食ったし、今度また来た時にベックと食ってみるわ」


「それだったら、これがその新しいものです」


 メニュー表を指差すライアの表情は生き生きとしていて、レイジは思わず見惚れてしまう。


「……」


「どうしました?」


「いや!なんでもない!」


「そうですか?」


 レイジ自身、声を出してから下手な誤魔化し方だったと後悔したが、どうやら不審には思われていないようで安堵の息を吐いた。


「でね、私のお気に入りはこれなので、一つずつ頼んでベック君と半分こしてみてください」


「おう!」


 どうやらレイジは調子を取り戻したようで、すっかり元気になっていた。


「じゃあ俺はベックのところ戻るからよ」


「はい。ありがとうございます」


「いいってことよ。フェーレもじゃあな」


 フェーレは目を合わせることなく、小さく手を左右に揺らした。


 そんなフェーレを優しく見つめるライアを見て、また見惚れかけるレイジだったが──


「あっ」


 顔をが熱くなり気を紛らわせようと横を見ると、放置していた友人と視線が重なった。


 少し不機嫌そうだ。


「そんじゃあな!」


 もう一度別れをつげ、レイジは常識の範囲内で店内を駆けていった。


『すまねぇベック』


『遅いよ。って言いたいところだけど、僕一人だったら見て見ぬふりしてたから文句は言えないかな』


『すまん。ところでよ、さっきライアが教えてくれたんだが──』


 ライアは気になって聞き耳を立てていたが──


「ん?」


 クイクイと、服の裾を引っ張られて意識を隣に移した。すると、そこには頬を膨らませた可愛い友達がいた。


「今日は二人で遊ぼうって言ってたのに、ボクの事ほったからして……」


 可愛らしい嫉妬に思わず笑みが零れるライアだったが、それがバレると更に不貞腐れることは今までの経験からわかっていた。なのですぐさま手元にあるデザートをフェーレの口の前に持っていく。


「なに」


「いらないの?」


「……いる」


 甘味の誘惑には勝てず、フェーレはパクリと頬張った。


 不満げな様子の彼女だったが、飲み込む頃にはいつもの表情に戻っていた。


 その扱いやすさに、将来変な人に騙されたりしないか心配だなと思うライアだったが、当の本人はそんなことを思われているなんて知る由もなく、自分の頼んだデザートを味わっていた。


 あの男の人から貰ったお金をありがたく使用させていただき、会計を済ませて外に出る。


 相変わらずのカンカン照りではあったが、カフェに入る前よりは日差しは弱まっていた。


「この後は二人でどこにいく?」


「……二人で?途中でほったらかしたりしない?」


 誤魔化されていたことを思い出して確認するフェーレ。


「そう。二人で」


「……じゃあ、雑貨屋さんに行きたい」


「いつもの二階のところ?」


「うん」


「じゃあ久しぶりにそこにいこっか」


 目的地が決まり、どちらからともなく手を繋いで歩き出した。


「そういえば明日は学園に入学してから初めての実技授業だったよね。なにか持ち物あったっけ?」


「なにもないはず」


「それなら、今日はもうなにも気にせずに買い物ができるね」


「ねね」


「どうしたの?」


「ボクがライアに、ライアがボクにプレゼントするものを選ばない?」


「お互いに相手のものを買うってこと?」


 コクンと頷くフェーレ。


「駄目かな?」


 その上目遣いの攻撃を受け、首を横に振れる人がこの世にいるのだろうか。


 更にその仕草が無自覚なのだからタチが悪い。


 しかし、日頃からあまり自分で行動しようとせず、ライアの後ろを着いてくるだけだったり、促されてからやっと自分の意思を伝えるフェーレが、なんと自分から提案をしてきたのだ。


 例えそれが些細なことだったとしても、それがどんな願いだったとしても、ライアは叶えたいと心から思っている。


 だからこういう時は即座にこう答えるのだ。


「そうしよっか」


「うん!」


 相変わらず、空は雲一つなく彼女たちを照らしていた。

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