36話《手を貸してくれ》
メンバーが決まってから、レイジは自身の弱点克服の為の特訓を始めた。
ベックにもロアにも力に任せだと言われてしまい、実際レイジもどうにもならなくなるとなにも考えずにぶつかりにいく癖があると自覚していた。
だからここでどうにかしなければと思い立ったのだ。
だが、一人ではどうにもならない。ベックに手伝ってもらったところで、これまで何度も戦ってきたのだからそれでも矯正できていない癖を改善できるわけない。
ロアはどう考えても手伝ってくれるわけない。
ライアとフェーレもレイジのやり方に合わないだろうし、二人にはつい手加減をしてしまうと思われるので却下。
そうなると必然的に、いつも絡みのあるメンバー以外を頼ることになる。
「ということなんだ。お前らどうにか頼めねぇか?」
レイジは朝から二人のクラスメイトに頭を下げていた。
「なんでオレらなんよ」
耳にピアスをしている金髪の男。軽薄そうな印象を受ける見た目と喋り方だが、レイジはこいつが仲間想いの良い奴だと知っている。
「ペントリアスはちょっと特殊な魔術が使えるだろ?」
「オレのこれ、魔術じゃなくて魔法なんよ」
「そうだったっけか」
「あんま話さないからしゃーないかね」
「とにかく、ペントリアスは魔術も上手いしその魔法もあるだろ?手伝ってもらえれば結構助かるんだ」
「ふーん」
「ぼかぁ……役に……立てないとぉー思うん……だけど。ぼかぁ……なんのため?」
表情をほとんど動かさず、気力の感じられない男はゆっくりとゆっくりと言葉を紡いでいく。
髪色は薄い灰色で肌の色も白く、ペントリアスと比べるとどうにも病弱な印象を受ける。
「リビオンはマジで訳わかんねぇことできるからな」
「うーん……種が分かればぁ……単純だよーぉ?」
「俺にはわからん。だからリビオンのあの見えねぇ攻撃の対処ができるようになりゃあ、成長できるんじゃないかと思ってよ」
「なるほどぉー」
「もちろんただとは言わねぇ」
「つまり?」
「だからと言って俺からお前らが喜ぶようなもんも出せねぇだろうし思いつかねぇ。だから貸し一にしといてくれねぇか?」
「貸しぃ……?」
「なんかやばいことじゃなければなんでもやってやる」
「へぇ、思い切りがあっておもしろいじゃん」
「なんでもかぁ……なんにもぉー思いつかないけどぉ……まあいいよー」
「オレも手伝ってやるよ。ただその一つの貸しの大きさは、これからどれだけ大変かで決めていいか?」
「好きにしてくれ」
「うっし。決まりだな」
「助かるぜ」
「で、いつからやるん?闘技祭までそんなに時間無いっしょ?」
「できれば今日からやっていきてぇな。放課後に一時間でも三十分でも、暇な時でいいから訓練場に来てほしい」
「じゃあもうせいせーに許可貰ってる感じ?」
「もちろんだ」
「仕事……はやいねぇー」
「まあな。それで、二人共今日はどうだ?」
「オレはいける」
「いいよぉー……」
「じゃあ放課後頼むな」
無事に約束を取り付けることに成功し、内心安堵するレイジ。
「それぼくもいい?」
そんなレイジに話しかけてきたのは、リビオンとペントリアスと同じクラスメイト。
「フレットじゃないか」
「もちろんのぼくは貸しとか要らないよ。ぼくから参加しといて要求するのは理不尽だろうからね」
「当たり前だ。だがよ、なんでそんな急に?」
「ぼくも遊びたいんだ」
「遊びじゃないんだけどよ」
「でも相手が多いに越したことはないんじゃない?動きが固定化されちゃいけないし」
「確かに……その通りだな。じゃあ頼むわ」
「任せてよ」
あははと笑うフレットは、人差し指を曲げてゆっくりと右頬を掻いていた。
左の頬には白い古傷が残っていた。
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