表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽して生きれるほど甘くはない世界で。  作者: 成田楽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/74

31話《失踪?》

 レイジが向かうのは二組の教室だ。


 ほとんどの生徒は昼休憩は食堂を利用したり、売店で軽食を購入後に食堂または中庭で食事をとっている。


 これは学園長の意向により生徒の生活支援が行われ、その一環として学園での食事が低価格で利用できるからだ。


 しかし例外もあるもので、一部の生徒はそれを利用せずに、自身で寮部屋の台所でお弁当を作って持ってきたり、健康の為だからと昼食をとらない生徒もいた。


 レイジからしたら食べないという選択は滑稽そのものであり、食べて鍛えれば強くなれると考えている。


 満足じゃ足りず、お腹一杯を超え、もうこれ以上は食べれないくらいまで食べる。


 レイジの中で食事というのは楽しむよりも栄養補給のためのものだという考えとなっていた。


 だから、女子の食事量なんて意味わからんと思っていた。


「いつも思うんだが、そんなので足りるのか?」


 教室に戻ると、予想通り二人だけ残っている生徒がいた。


 仲良く、同じ指輪を付けた女子生徒。


 一人は右手の小指に付け、もう一人は左手の小指に付けている。


「わたしたちはレイジ君とは違ってそんなに体大きくないですから。ところで、こんなに早く戻ってくるなんて珍しいですね」


「……」


 前者がライア。後者がフェーレだ。


 二人が付けている指輪にはレイジも見覚えがある。ロアがバングに貰ってたものだ。


 どうやら無事に渡せていたようだ。


 ……正直、レイジはライアがその指輪を付けていることが気に入らない。


 だが、その感情はレイジの表に出でこなかった。


 レイジが大人になったわけではない。ただ緊張しているだけだ。


「二人に、用があってな」


「わたしたちにですか?」


「あぁちょっとな。今時間いいか?」


「いいですけど、まだわたしもフェーレも食べ終わってないので長引かないようにお願いしますね」


「簡単に話すとだな……その……」


 ここにきて日和ってしまうレイジ。


「あーっと」


「レイジ」


「わかってるって……」


 ベックに名前を呼ばれたことでなんとか立て直すレイジ。


「なぁ二人共、俺らと闘技祭に出ねぇか?」


「闘技祭……ですか?」


「……?」


「もう少しでこの町で闘技祭が開催されるんだ」


「そういえばこの前その張り紙を見てましたね」


「その時はチーム戦だけってなってたから諦めてたんだ。でも、それでもやっぱ参加したくてな」


「だからわたしたちを?」


「あぁ。それで……どうだ?」


「うーん……」


 ライアはフェーレを見る。


 闘技祭に出るとなると、もちろん多くの観客がいる。


 そうなると、大きな活躍をせずとも少なからず注目を浴びることになるだろう。


 果たしてフェーレは大丈夫なのか。


「……他の人じゃ駄目なんですか?」


「ただ参加するだけならライアたちじゃなくてもいいんだが、せっかく出るなら楽しい思い出にしたくてな」


「そうですか……」


 心配はあるものの、これがフェーレの成長に繋がることも確か。


「何人まで参加できるんですか?」


「一チーム五人までだな」


「じゃあもしわたしたちが入るとしたらもう一人誘うってことですよね」


「そうしたいところだな」


「その場合誰を誘うつもりなんですか?男性を誘うなら申し訳ないんですが、ペントリアス君とタイト君以外にしていただきたいです」


「なんでだ?」


「あの二人はちょっと威圧的というか、フェーレとあまり相性が良くないと言いますか」


「そういうことか。残りの一枠はロアでも誘おうかと思ってるんだが、どうだ?」


「ロア君ですか?」


「最近あいつと遊べてねぇ、てか会えてねぇだろ?だから三組に行って、ついでに誘ってみようかと思っててよ」


 ライアにとって、ロアが来てくれることは都合が良い。


 ロアにはチームを組むことに拒否感を感じないことに加え、フェーレにとっても考えられるなかで最も接しやすい助っ人となるだろう。


 だが、ライアには一つ懸念点があった。


「ロア君は闘技祭は面倒だから寝てるみたいなこと言ってましたよ?」


「……」


 レイジの計画、崩壊。


「一応誘ってみれば?一人だったら参加しないってだけで、もしかしたら来てくれるかもよ?」


「そ、そうだよな!よし、そうと決まれば早速三組に行ってくるぜ」!


 今度はベックを待つことなく一人で教室を飛び出していくレイジ。


「ちょっと待ってレイジ!……行っちゃった。なんか前もこんなことあった気が……ごめんね二人共。まだ返事も貰ってないのに勝手に進めちゃって。駄目だったらぼくから伝えておくけど……」


「フェーレはどうする?」


「ボクは……」


「無理はしないでいいんだよ。フェーレが断っても誰も怒らないからね」


「そうだよ。このみんなでできたらいいなってレイジが思ってるだけで、第一の目的は参加することだから」


「やって……みる」


「いいの?」


「…………うん」


 頷くまでに時間がかかっていて、まだ踏み切れていないところはあるものの、それでもフェーレは参加の意思を表した。


「ならもちろんわたしも参加させていただきます」


 フェーレもライアがいるという前提の上での答えだろう。それならライアも参加する以外の選択肢は無い。


「ありがとう二人共!」


「こちらとしてもいい経験になりますし、そのきっかけを頂けたのですからとてもありがたいです」


「そう言ってもらえるとぼくもレイジも嬉しいよ。ただ、参加するにしてもあんまり無理しないでくれていいよ。絶対優勝したいってわけじゃないから、初戦敗退って結果でもいいんだ」


「そうなんですか?」


「レイジはなんだかんだ優勝を目指すだろうけど、ちゃんとライアたちの意思も尊重してくれるはず……うん、そのはずだよ」


 自分で言っておいて、あの負けず嫌いのレイジが無茶せずに大人しく負けを認めるとは思えない。限界まで戦いそうな気がする。


 そうなると、二人を無理矢理引っ張って頑張らせないか心配なところはあるが、それでもレイジは他人を、それもライアを巻き込んでまで勝ちに拘りはしないだろうとも思えた。


「とにかく、二人が参加してくれるなら、後はレイジがロアを誘ってくるのを待つだけだね」


「それにしても、ロア君最近教室に来ませんよね」


「確かにそうだね。一時期は毎日来てくれてたのに、ここ最近はめっきり姿を見なくなったね」


「……」


「二人って最後にあったのっていつ?ぼくはレイジとぼくとロアの三人で武器屋に行った日以来会えてないんだ」


「その日ってもしかしてフェーレがロア君にプレゼントを渡した日ですか?」


「あーそうだね。その日だ」


「そうなると、わたしたちもその日が最後になりますね。他に人がいないから言えるんですけど、あの後ロア君がわたしたちの部屋に来ましたから」


「やっぱり行っちゃったんだ……」


 的を射た考えをしているときもあれば、世間知らずなことを言い出したり実行する。


 レイジとは別の意味で難しい。


「おいお前ら!」


「どうしたのレイジ。ロアはなんて言ってた?」


 レイジが教室に戻ってきて早々、声を荒げて告げた。


「ロアがもうずっと学園に来てねぇらしいぞ!」


「来てない?」


「教室に行ってもロアが居なくてよ、食堂とかにいるかもしれねぇからそっちに行こうとしたんだがよ、ちょうどガンドレ―先生がいたから聞いたんだ」


「そしたら来てないって?」


「あぁ。先生もなにも聞かされてないらしくてよ。どうなってんのかわからねぇ状態みたいだ」


「なんか不安になりますね」


「まさか死んでたりしてねぇよな?」


「……ッ!」


「嫌なこと言わないでよレイジ」


「でもよ、学園になんの連絡もなく休むなんてことあるか?事件に巻き込まれててもおかしくねぇんじゃ……」


 そんなレイジらしくない悲観的な考えを聞き、他の三人も気分が沈んでしまい暗い空気が流れる。


「おや。みなさんどうしたんですか?」


 不安を募らせた四人の元に訪れたのは、このクラスを担当する講師。ナチュレーザだった。


「先生……」


「レイジさん。そんな暗い顔して、なにか揉め事や問題がありましたか?」


「……そういや先生ってロアと仲良かったですよね」


「仲が良いとはまた違いますが、他人とは言い難い関係ではありますね」


「この前も思ったんですけど、なんでロアも先生もはっきり言わないんですか?いや、今はそんなことどうでもいい。先生、ロアがどこにいるか知りませんか?」


「ロアさんですか?昼休憩中ですので三組の教室か食堂にいるのではないですか?」


「それが、そもそも学園に来てないらしいんですよ」


「来てない……ですか?それは一体……」


「ガントレー先生にも聞いたんで確実だと思います」


「……そうですか。事情はわかりました。ロアさんの部屋は見に行きましたか?」


「いや、どこなのかわからないんで行ってないです」


「そうだったのですね。親しくしているようだったので、てっきり訪れたことがあるかと」


「ロアの部屋は僕たちの部屋よりも奥の方みたいでして、一緒に帰っても先に僕たちが部屋に帰るのでその後ロアがどこに行ってるのかはわからないんですよ」


 ベックの言葉に、ナチュレーザは少しだけ悩み、


「本人の口から教えられていないとなると、これは生徒の個人情報に関わるのであまり口外してはいけないのですが……君たちは悪用しないでしょうし、教えてもいいでしょう」


「ありがとうございます!どこなんですか!?」


「落ち着いてください。記憶が確かであれば、彼には第三棟の二階、一番奥の角部屋が与えられているはずです。なのでまずはそこに行ってみてください」


「三棟二階の奥ですね。わかりました。行ってみます!」


 レイジはこれ以上話す時間すらも惜しいとばかりに、教室の外へ駆け出していく。


「レイジー!」


「んだよベック。お前も来いよ!」


「今が昼休憩中って忘れてない?まだ授業は残ってるよ」


「あ……」


「放課後にしましょうか」


「はい……」


 出鼻を挫かれてしまい、そのあとの授業に全く身が入らないレイジだった。


「寝ないでよレイジ」


「うるせぇ……」

評価感想。暇があれば是非とも

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ