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3話《介入》

 ──カランコロン。


「いらっしゃいませー!」


 心地良いドアベルに続き、ハリのある声の可愛らしい店員に出迎えられる。


 外は鬱陶しいほど日差しが強かった為、全身が心地よい空気に包まれてそれだけでも入った甲斐があったと思えた。


「お好きなお席へどうぞー」


 続けざまにそう言うが、人気店舗だからだろうか。店内はとても賑わっていて、カウンター席は全て埋まっている。テーブル席は空いた椅子があるものの、全てのテーブルが利用されている。


 つまるところ、相席をしろという事なのだろう。


 店員へ軽く会釈をしつつ、店内を見渡す。


「男、男、暑苦しそうな男、男、あの女は……まるでハイエナのような目だな。止めておこう」


 その者は、男とも女とも取れる中性的な声で、まるで品定めをするように呟いた。


 体型や顔つきから察するに男だろう。その整った顔立ちは、いままでの人生で容姿に関しては一切の苦労なく過ごしてきたと思えるほどだ。彼自身、自分が恵まれているとわかってるのか、常に頬を上げてにこやかに、自身の美貌を武器にしている。


「うーむ……あ、女の子……二人組か」


 店内の奥、入口からちょうど柱で隠れているところに狙いを定めると、躊躇なく足を進めた。


「ご一緒しても?」


 腰あたりまで伸びた金髪はとても透き通っていて美しく、今すぐどこぞの貴族の舞踏会に出しても恥一つ掻かないどころか注目の的となるだろう。


 更にそのことを後押しするのは、誰しもが美人と評するであろう容貌。


 金色に輝く瞳は、隣に座る少女の様子を窺うように向けられていた。


 その視線を向けられている少女は、突然の男の襲来に驚いて目を白黒させている。


 声をかけた男と同じ、黒色をしたしなやかな髪。少し潤んだ紫紺の瞳には、つい保護欲をそそられる。


 男はすんなりと頷かれる自信があったのだろう。許可を得る前に三席のうち残っている一つに手をかけた。


 すると──


「ごめんなさい」


「……?」


 予想外の答えに、時が止まったかのように男の動きが停止する。


「私の友達、ちょっと人見知りなので他のところに行っていただけると嬉しいのですが……」


 隣には、話しかける前は楽しそうに笑っていた子がいる。しかし今は下を向いて体を縮こまらせている。


 男はうーんと少し考える素振りをしてから、入店して以来変化のないにこにこした表情でそのまま椅子を引いた。


「まあまあ、そんなこと言わずに。ここの会計は僕が出すから」


「申し訳ないですよ」


「少しお話してくれるだけでいいからさ」


「だからそれはこの子が……」


 遠慮のない男の姿勢に、始めは笑顔で応対していた女の子も段々と困り顔になっていく。


 周りの客の視線が集まりつつあるが、男はそんなことを一切気にしていない。


 と、そこで──


「おい」


「ん?」


 肩を掴まれて振り返ると、そこには先ほど見かけた暑苦しそうだという印象を受けた男がいた。


 真っ赤な髪は無作為に散らかっていて、一見チンピラと評されるような相貌。爽やかな印象を受ける男と並ぶと、誰もが肩を掴む男を悪とみなすだろう。


「無理矢理はよくねぇぞ」


「?」


 なぜ自身にその言葉が投げかけられたのか、本当にわかっていない様子だった。


「いやいや、無理矢理だなんてそんなまさか。ただ僕は提案をしてただけさ」


「じゃあなんでこいつらは困ってんだ?フェーレだって怯えてんじゃねえか」


「あー」


 どうやら納得したようで、手を叩く男。


「それは失礼。迷惑だったのか。それならそうと言ってくれればよかったのに」


 その言葉に赤髪の男が女の子に事実確認を確認する。


「言ってないのか?」


「えっと、失礼にならないようにちょっと遠回しに伝えはしたんですけど……」


「言ってんじゃねぇかよ」


「それはそれは、本当にすまなかった」


 男は三人の目を見ながら丁寧に頭を下げていく。


 食い下がることなくあっさりとした対応に、密かに実力行使で抑えることも視野に入れていた赤髪の男は毒気を抜かれる。


「お詫びにお金だけは置いていくよ」


 男はズボンのポケットから小さな財布を掴み、数える様子もなくひっくり返して中身を机に出した。


 一般的な飲食店どころか、ドレスコードが求められるガチガチのレストランでもありえないような額を目にして一同が困惑するなか、男は席から立った。


「ちょ、ちょっと待て!これは多すぎるぞ!」


 その額を受け取るのは流石に申し訳ないと感じ、すぐさま呼び止めようとするが──


「あーそうそう。君、この子達を守る為に熱くなることは構わないし、そもそも僕には関係ないことだけどさ」


 男は少しもったいぶらせるように間を空けると、変わらない笑顔で告げる。


「見ず知らずの人の前、それにこの子達を困らせていたような奴の前で名前を呼ぶことは止めておいた方がいいと思うぞ」


「……あ?」


 男は、忘れ物が無いか確認するように机の上や椅子の座面、足元を見まわしながら淡々と話す。


「例え名前一つだったとしても、案外辿れるのさ。逆恨みとかでその子になにかあれば君は責任が取れるのか?」


「──ッ!!」


 言われたことを理解して真っ青になる。


「助けに行くことは否定しないが……その情報だけでその子の名前だけでなく、君がただの正義感だけで助けに入ったんじゃなくてその子と知り合いってこともわかるからさ」


「それは……」


「まあ考えすぎだろって言われたらその通りなんだけど、用心に越したことは無いからね。それじゃ」


 持ち物を確認し終えた男は歩き出し、振り返ることなく一言。


「お金は要らなかったらそこら辺の人にあげるか多めのチップって事にしといて」


 結果的に赤髪の男は介入した目的を果たせた。しかし、その胸の内は敗北感に打ちひしがれていた。

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