27話《永遠に友で》
ある休日の昼下がりのこと。
「ねぇ、天国とか地獄って本当にあるのかな?」
「なんだいきなり」
レイジとベックが町中を並んで歩いていると、ふとベックがそう切り出した。
「いや、本読んでたらそういう話が出てきてさ、ちょっと気になったんだよね」
「死んだ後の世界が存在してるのかってことか?」
「大まかに言えばそうだね。色んな本に書かれてるし、昔話とかでも出てくるし、吟遊詩人も語ってたりするから、どうなんだろうなって思って」
「そんなの知るわけねぇよな。死んだら生き返れねぇんだから、死んだあとを教えてくれる人なんて居ないんだからよ」
「でも、存在してないのにこういう考えが広まってるってのも変な話じゃない?」
「あー。それを言われりゃ確かにそうかもな。考えたことなかったぜ。でもまぁ、あった方が面白そうだな」
「面白いの?」
「まぁあれだ。死んでもそこで終わりじゃないってのは、一歩踏み出す勇気になるってもんよ」
「でもレイジの行き先は地獄だよ」
「おい!」
「冗談だって」
「俺は悪いことしてねぇから天国だろ」
「でも別に良いことをしてるわけでもないじゃん?それどころか、時々熱くなって問題ごと起こすときあるし」
「うぐっ……ほ、ほら、世の中の極悪人と比べれば全うに生きてるだろ?そういう奴らと比較すりゃあよ……お?なぁベック、あそこにいるの、ロアじゃねぇか?」
「どれどれ?」
ベックがレイジの視線の先を追うと、そこにはロアがいた。
それも、知らない女の子を連れて歩いていた。
「デート中なのかな?」
「んなわけねぇだろ。ロアがモテるって、そんなわけ」
「でもロアって性格はともかく、顔は良いよね。興味ないことにはとことんやる気を出さないからね」
「でもな、世の中、顔より性格を重視する人も多いんだぜ?」
「そういう考えもあるだろけど、それよりも豊かさを求める人も多いじゃないかな?ロアって結構お金持ちみたいだし」
「つまりロアはあの女に財布代わりにされてるってことか?」
「そうは言ってないよ。お金目当てで近づく人もいるだろうなって話をしただけ。あの人がーって言いたいんじゃないよ」
「そうか。にしてもよ、ロアって恵まれ過ぎじゃねえか?認めたくねぇが、イケメンって言える顔だしよ、金も持ってるしよ、ああやって女も選べんだろ?」
「もっとマシな言い方しなよ」
「そのくせして面倒くさがり屋でロクに努力してねぇんだから、羨ましいぜ」
「影で努力するタイプかもよ?」
「いや、ずっと寝てばっかりってあいつ自身がこの前言ってたんだぜ?影で努力するならともかく、わざわざ努力を隠すってのも意味わからんだろ」
「うーん……たしかにそうかも」
「前世でどんな徳を積んでんだか。国を救うとかそんくらいしてたりしてな……おい、ちょっと待て。もしかしてだがよ」
「うん。多分そうだろうね」
ロアとその隣にいる女の子が立ち止まっていた理由。その二人のすぐ近くの店から新たに出てきた女の子が二人と合流して、三人になって歩き出したではないか。
「……この世の理不尽をかき集めてぶつけられた気分だぜ」
「まぁ、あれにはぼくもちょっと羨ましいって思うかな。ぼくらってせっかく学園にいるのに色恋沙汰皆無って言っちゃえるし」
「くっ……別にいいぜ。俺にはライアがいるんだ」
「レイジのライアじゃないけどね」
「い、いつかは……!」
「へぇ、いつかは……ね」
「……なんだよ」
「それで、いつ行動に移すの?ライアとの交流が増えたのも、ロアが来てたらでしょ?ロアがキッカケで、ぼくらとライアたちは距離が縮まったんだ。あの日、カフェでロアがライアたちをナンパしなければ、今頃はいままでみたいに遠くから見守るだけで、時々単なるクラスメイトってだけの関係で関わりが生まれる程度なんじゃないかな」
「……ごもっともだぜ。痛いところにぶっ刺しやがる」
「あの時も、ライアに良いところを見せるんだって思っての行動じゃなくて、思わず体が動いたって感じでしょ?」
「…………言われてみりゃ、そうかも知れねぇ」
「そこはレイジの人柄の良さが表れてる良いところなんだけど、レイジはもっと積極的にならなくちゃ駄目なんだよ」
「積極的にって、具体的にどうすんだよ」
「ぼくに聞かないでよ。そこはレイジの物語なんだから、レイジ自身で考えて行動に移さなくちゃ」
「……おうよ。なんとなくだが、言いたいことはわかったぜ」
「本当に?」
「だがよ、決心するにもキッカケが欲しいところなんだ。だからちょっとだけ時間をくれ」
「ゆっくりしてたらロアに先を越されちゃうかもよ?」
「んなわけねぇだろ。ロアとは協定を結んだんし、それにああやってライア以外の女にかまけてる奴がライアを奪っていけるわけねぇだろ」
「そういう油断が敗北に繋がるんだよ」
「わかってるって。でもよ、ちょっと聞きてぇんだがよ」
「どうしたの?」
「お前はいいんかよ」
「な……」
「お前だって、ライアのことを──」
「良いんだよ!ぼくはライアに見合うような男じゃないから!」
「……そうか?」
「そうだよ!それに……レイジとは、喧嘩とかそういう争いはしたくないし……」
「ベック……」
「ぼくはレイジのことを応援するから、レイジはライアを見てればいいんだよ」
「……おうよ!俺は友の親切心を言葉任せに切り捨てるほど腐っちゃいねぇ。すまねぇなんて言わねぇぜ」
「それでいいんだよ」
「ただ、ありがとうとは言ってやるぜ。これだライバルが一人減ったんだからよ!」
「それでもライアって結構人気あるから、ライバルが減ったって言っても誤差だよ」
「それでもよ、俺もベックと争いたくねぇって想いはあったんだぜ?お前が離脱してくれただけで心の持ちようは随分変わるってもんよ」
「じゃあ明日からガンガンアタックしてね?」
「それは……」
「冗談だって。やっぱやめるわとか言い出さない限りは大人しくしてるから」
「大人しくって……」
「もし約束を破るんなら、レイジのあることないこと、ライアに吹き込むから」
「おまッ!」
「嫌ならちゃんと実行するんだよ」
「脅しやがって……!」
「ぼくの想いを無駄にしないでね」
「──ッ!おうよ!任せとけ!」
「それでこそレイジだよ」
「……ベック」
「なに?」
「お前は絶対天国に行くぜ。俺が保証してやる」
「……」
「ベック?」
「ぼくは本当に良い友を持ったって、心から思うよ」
いつの間にかロアと女の子二人の姿は消えていた。
そして、この二人の友情が消えることなんて、死が別つ以外にあり得ないだろうと、誰であろうとそう思えるほどに彼らにはなによりも深い信頼があった。
「見つめ合ってなにしてるんだ?」
「うわっ、ロア!?」
そんな二人の背後からひょこっと現れたロアに驚いて、レイジは肩を跳ねさせた。
遠目からだと気付けなかったが、その首にはフェーレが渡した雫のネックレスがあった。
「そんな驚かなくてもいいだろ」
「うっせぇ。さっきの女共はどうしたんだよ」
「なんだ、見てたのか?君らも趣味が悪いな」
「濁すなって。どんな関係なんだ?」
「そこで出会って、そこの店でご飯食べて、それで別れたってだけさ」
「そんだけ?」
「そんだけ。今日初めてあった人さ」
「やることやってねぇのか?」
「普通それ掘り下げてくるか?デリカシーって知ってるか?」
「いいから答えろって」
「はぁ……そういう事をしたくて誘ったわけじゃないからな。僕はレイジとは違って頭の中お花畑じゃないのさ。レイジとは違ってな」
「……ベックもロアも、俺のこと言葉でぶっ刺してくるのなんなんだ?」
「まあまあ、それでロア。この後の予定ってなにかある?」
「特になにも無いな」
「それならぼくたちに付き合ってよ」
「なにするんだ?」
「ちょっとした小遣い稼ぎをしようと思って、これからギルドにいくんだ」
「ほーん。依頼内容は?」
「まだ決めてねぇぜ。そもそも俺ら登録済ませてねぇから、まずはそれからだ」
「……ま、良いな。お供させてもらおう」
「そうと決まれば、早速行こうか!」
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