23話《来訪者》
「渡せてよかったね」
「うん」
ベットの上で枕を抱きながらフェーレは頷いた。
ロアがレイジとベックと一緒に行ってしまった時は、もう明日にしてしまおうと考えた。
だが、一度でも後回しにしてしまうといつまでも怖気づいてしまって、話しかけられずに明日頑張るからって言い訳して過ごしてしまう。
自分はそういう人間なんだとフェーレは理解していた。
だからこそ、あの時ライアに言った言葉を覆さないために。ライアを裏切らないように、勇気を出してロアの帰りを待ってたのだ。
でも、他の学生の往来があるところで一人で待ち続けるというのはフェーレにとって拷問に等しいことだった。
「一緒に待っててくれてありがとう……」
「いいんだよ、フェーレ」
側にライアが居てくれてとても心強かった。
おかげでちゃんとネックレスを渡すことができたんだから。本当にライアには感謝しかない。
フェーレはそんなことを思いながら、ロアに渡したあの時の事を思い出して再び赤面。
枕に顔をうずめて悶えた。
──コンコンコン。
「……ノック?」
「そうみたい。こんな時間に誰だろうね」
二人共誰かと会う予定はなく、突然の何者かの来訪に首を傾げた。
「ちょっと出てくるね」
「うん」
ライアがノックをした主を出迎えに玄関へ。
大抵はライアに用がある人か、寮を管理している人が急ぎの書類とかがある時に知らせに来ることがほとんどだ。だからフェーレが出ることはなく、どちらにせよライアに対応をお願いしていた。
『はーい、どちら様ですかー』
「……」
こういうときは息を潜めて影を薄くして待つのだ。
フェーレにとって、二人のプライベート空間に他人が入り込んでくるのはとても嫌だった。
数か月に一度、部屋を綺麗に使用しているのか確認しにくることがあり、貸してもらっている身とはいえそれでもやっぱり入ってほしくない。
女子寮だから管理人の方も女性だ。男性だったら本当に駄目だったが、だからと言って女性は際限なく入っていいというわけじゃない。
ライアもそんなフェーレの心が分かっており、そもそもフェーレ以外と深い関係性になることはないが、クラスメイトに入っていいかと聞かれても断っていた。
この部屋はある意味聖域なのだ。
ライア以外に入っていいとしたら、ギリギリ、ライアのお父さんお母さん。それ以外だと……ロアくらいか──
「もう、ボクはなに考えちゃってるの」
誰にも見られてないのに恥ずかしくなって顔を隠してしまう。
『あれ?……え!?』
玄関の方からライアの驚くような声がした。
不安になる。
変な人が入ってきてライアが襲われていないかとか嫌な想像ばかりしてしまう。
「大丈夫だよね……」
ちゃんと防犯は徹底されているはずだし、本当に襲われていたらもっと叫んだりするはず。
『と、とりあえず入ってください!見つかったら危ないですから』
『……ぅ………ね』
ライアの声は大きくて、フェーレのところまではっきりと聞こえていたが、そんなライアと対面する誰かの声は微かにしか聞こえない。
『なんで居るんですか?』
『……が……たからかな』
「え?」
そんなまさか。
部屋に近づく足音。それに伴いはっきりと聞こえ始めるもう一人の声。
ここ最近、フェーレ自身も驚くほど耳に入り込んでくる声だった。
「え、あ……その……」
「やぁフェーレ。さっきぶりだな」
「……うん」
「にしても、ここに来た僕が言うセリフじゃないとは思うが、入ってよかったのか?ベックが言うにはもう時間的に駄目らしいけど」
「だからと言ってロア君を入れないで他の人に見つかっちゃったらロア君が大変になってしまいますし、わたしたちもちょっと見捨てた責任感じちゃいますから」
「そんなに気を使わないでくれてもいいんだが……助かる。ありがとう。じゃあ迷惑かけるわけにもいかないから、さっさと目的を達成させてもらって、自分のところに戻るよ」
「目的ですか?」
「ああ。フェーレ」
「なっ……に……?」
「そう怖がらなくてもいいって。とりあえず、さっきのネックレスありがとうな」
「あ……うん……!」
「それで大した物じゃないんだが、これを」
ロアが取り出したのは片手で握れるような小さな箱だった。
「僕からのプレゼントだ」
「プレ……ゼント?」
「そうだ。さっき渡してもよかったんだけど、すっかり忘れててさ。でも明日にしたら忘れそうだから、ちょっと隠れつつここまで来たってわけ」
フェーレは自分とは真逆のロアのその行動力に、ただただ凄いなぁと思った。
「ほら、あげるよ」
「ありがと……」
「ライアにも」
「わたしも!?」
二人のやり取りを見守っていたライアだったが、まさか自分にもあるとは思っておらず不意を打たれる形となり動揺を隠せなかった。
「ライアにも仲良くしてもらってるからね」
「あ、ありがとうございます!」
「さて、目的は果たしたし僕は帰るね」
そして、そんな言葉を置きざるほどの速度で間髪入れずに去っていった。
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