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楽して生きれるほど甘くはない世界で。  作者: 成田楽


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20話《謎に包まれた関係性》

「魔術とは魔術陣を展開し、自身の持つ魔力を消費することで望んだ事象を生成、発動するもの。世間一般ではそのような説明で通っています。しかし、これはあくまで表面上だけであり、更に深く解説することができるのですが……わかる方はいますか?」


「はーぃ……」


「リビオンさん」


「えーぇ、魔術はぁ、人が直接作り出してるんじゃなくてぇ……魔力を精霊に渡しぃ、その対価として現世に新たなる事象を生み出してもらうというものですぅ」


「正解です。では何故、我々は魔術陣を創るのでしょう?」


「はい」


「ライアさんどうぞ」


「精霊との意思疎通の手段で、更に魔力と魔術を引き換えるゲートの役割も担っているからです」


「そうですね。なので私たちは魔力を消費して魔術陣を展開、精霊と仮契約を結び、魔術として精霊の力を引き出すことができています」


 生徒に質問を投げかけながら理解を深めさせていく。典型的な手法だが、答えずらい雰囲気を作ってしまうと授業を進行させることができないので、そのような所はナチュレーザの講師としての実力が感じられた。


「ただ、皆さんも考えたことがあるでしょう。使いたい魔術を考え、魔術陣を想像し、自分の中から魔力を引き出して魔術陣を作り出す。そこから精霊との取引の末に魔術を顕現。この一通りの動作はどうしても飛ばすことが出来ず、即射することができないじゃないかと」


 チラホラと頷く生徒たち。


 ベックやレイジのような魔術を主体としない生徒たちは「なるほどなー」という表情をしている。


「これでは近接戦闘を得意とする相手には遅れを取ってしまうのではないかと。実際、三組との授業で実感した人は少なからずいるのではないかと思います」


「あの時の人たちもそう考えてたのかな」


 ベックは隣に座るロアに小声で話す。


「どうだろうな」


 ロアはベックに見向きせずに答えた。


「では諦めるしかないのか?それは断じて、否と答えましょう」


 ナチュレーザが右手を掲げると、魔術陣が展開された。そこまでは生徒たちの当たり前の光景だ。


 しかし、その魔術陣は一瞬にして消えてしまい、次の瞬間には視認できるほどの濃密な気流が渦巻いていた。


 瞬きの間の出来事だった。


「とある抜け道を使えば、このようにして遅延無く魔術を行使することができます。ここは……ロアさん。わかりますか?」


「仮契約の手間を省く」


「もう少し詳しく説明すると?」


「本契約」


「そう、精霊との本契約なのです」


 自ら二組での授業を希望しておきながらもつまらなそうに机に肘をついていたロアだったが、ナチュレーザからの突然の指名にも動じずに簡単に答えた。


「……ロアってもしかして頭良い?」


「さてな」


「精霊との本契約をするだけ?と、考えた人もいると思います。ですが、精霊との契約をすぐに破棄してしまう仮契約とは違って、本契約は永久的な契約になることがほとんどです」


 レイジはベックの右隣で頭を抱えている。どうやら話についていけていないようだ。


「また、この間の授業で話した通り、魔力を持つ生命体にとって魂と魂を結んで縛る契約というものはとても重いものです。なので、特例を除いて本契約というものは生涯で一度しか結ぶことができません。つまり、軽い気持ちで本契約を結んでしまうと取り返しがつかず、後悔する結果になってしまうでしょう。ですので、自分と相性の良い精霊を見つけるまでは決して近道をしないようにしてくださいね」


 ナチュレーザは、ただと付け加えて続ける。


「そもそも本契約を結ぶことができるほどの精霊は数少なく、出会うことすら稀です。更にそれほどの力を持つ精霊のほとんどは自我を持っているので、精霊からも気に入られる必要がありますので、本契約できるかは運でしかないですね」


「ちなみに特例について聞いてもいいですか?」


「特例とは複数の精霊と契約を交わしても魂がキャパオーバーしない者のことです。無限ではありませんが、それでも通常よりも多くの精霊の力を借りることができ、より強い魔術を操ることができます。そのようなものは一般的に魔術士ではなく精霊術士と呼ばれていますね。他にも呪術士や魔導士というものもありますが、これについては今度やります」


「色々あるのか」


「大半は魔術士だろうけどね」


「へー」


「そもそも、私たちが魔術を会得するまでの経緯ですが──」


─────────────────────────────────────


「…………」


「──ア。おいロア」


「……?」


 いつの間にか寝てしまっていたようだ。


 教師には話を聞いている相手を眠くさせる不思議な力があるのではないかと思う。


 自分の意思ではどうにもならないほど瞼を重くしてくるのだから、敵に対して講義すれば強制睡眠させられる強力な技に変えれる気がする。


 名前を呼ばれて顔をあげるとレイジがこちらを見ていた。


「どうした?」


「なに寝てんだよ」


「昔話とかつまらなくて」


 興味が無い話を永遠と聞き続けるとか拷問でしかない。


「ったく」


「──というわけで、コンクスト王国では魔術以外も重視するようになり、第一に目を付けたのが近年発現例が増え始めていた魔法だったのです。……では、時間になりましたので本日の講義は終了になります。お疲れ様でした」


「あれ、魔法の話も終わったのか?」


「そうだよ」


 帰る準備をしているベックが話しかけてきた。


 なんだ。一番楽しみにしてたのに。


「ちゃんと起きてねぇからだ。自業自得だぜ」


 ちゃっかり鼻で分かってくるレイジ。


「まあいいや。あとで気が向いたらレーザに直接聞いてみるさ」


「レーザ?」


「ああ、ナチュレーザのことだよ」


「ロアさん。敬称は付けなくていいので、せめてナチュレーザと呼んでください」


「いたんだ」


「学園内では上下関係をハッキリさせるように言われているんです」


「レーザも面倒なんだね。辞めないの?」


「辞めないですよ」


「給料?」


「やめてください。私はただ好きでやってるだけですから」


「ふーん」


「ロア君と先生ってどんな関係なんですか?」


 ライアが入ってきた。


 フェーレは相変わらずライアの後ろに隠れてて会話に入る気はないようだ。


「ただの知り合いだよ。大人だけど彼はいい人だからさ」


「?」


 ロアのよく分からない発言を理解できたものはナチュレーザくらいだろう。


「そうだ、レーザはこの後暇?」


「まだ仕事が残っていますよ」


「じゃあ暇になったら教えてくれ」


「わかりましたよ。場所は?」


「あーどこだっけ?」


「バングさんの武器屋だ」


「そうそう。そこに行くんだ。終わったらいつものとこに帰ってるから」


「先に要件を聞いても?」


「……魔法のこと教えられてない。この前ボロ出しかけた」


 小さな声で、周りに聞こえないように話す二人。


「忘れてました。さっきの授業は……寝てましたね。それなら帰ってから聞けばいいのでは?事情は知ってるんですから」


「……たしかに」


「それでも疑問が残れば呼んでください」


「ならこれだけ聞かせてくれ。魔法は、堕罪の力って呼ばれてたものか?」


「……えぇ。そうです」


「そうか。それを聞けたなら十分だ。じゃあ仕事頑張れ」


「楽しんできてくださいね」


「それは二人次第だね」


 そうしてナチュレーザを見送った。


「すまない、待たせたね」


「よし。じゃあ行くか」


「ライア。フェーレ。また明日」


「じゃあな」


「ばいばい」


「はい。さようなら」


「……」


 フェーレはライアに隠れて手を振った。


 三人が教室を出ていくと、


「やっぱり無理だよ」


 すぐさま弱音を吐くフェーレ。


「怖くはないけど、でもなんて言えばいいのかわかんないよぅ……」


 フェーレにとって、公衆の面前で渡すなんてありえないことだった。


 だからロアに放課後会えないかとか、少しだけ時間をくれないかと伝えてサッとプレゼントを渡してしまうつもりだった。


 だが、それ以前の問題。そもそも恥ずかしくって話しかけられない。


 ライアにはフェーレから伝えることに意味があると言われており、フェーレの代理でロアに声を掛けるつもりはないのだろう。


 そのことについてはフェーレも理解していて、言われなくとも自分で切り出すつもりでいた。


 でも自分から話しかけたことがなく、話すタイミングも、会話を始めるきっかけとかもなにもわからない。


「明日がんばろうね」


「明日…………うん……」


 いままでどれだけライアに助けられていたのかをひしひしと感じるフェーレだった。

評価感想。暇があれば是非とも

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