17話《生まれた想い》
学園の敷地内。右へ進めば寮がある。しかしそれは男子寮だけだ。
過去に男女のいざこざがあり、女子寮は現在離れたところに移転されているのだ。
噂によると男子生徒による女子生徒への性暴力が行われていたことが発覚したそうな。
真実は明かされていないが、移転された時期に重なって数人の三年生が自主退学したという記録が残されていた。
それから、これまで時々あった一年生の女子生徒がなんの理由も語らずに学園を出ていくということがなくなったという情報もあり、その噂の真実味を後押ししていた。
男子寮の真反対に位置する女子寮。
学園の入口から左側に向かうとその建物が見えてくる。
しかし、男子寮よりも厳重に警備されていて、女子生徒と一部の関係者のみが通ることのできる結界が設置されていた。
その結界を越えていくと、男子寮と同じような建物がいくつも建てられていて、女子生徒の姿がちらほらと見えた。
日は完全に落ち、出ていく生徒よりも戻ってくる生徒の姿の方が多い。
そんな女子寮の一室。
「ちゃんと明日渡せる?」
「……わかんない
「もう、それで怖気づいちゃったら選んだ意味ないでしょ?」
「でも……恥ずかしいし、多分……声出なくなっちゃうし」
そんな、うーんうーんと悩みながら呻くように声を鳴らすフェーレを見て、そんなフェーレも可愛いなぁと思うライア。
「ライア……」
「どうしたのフェーレ?」
プレゼント用に包まれたそれを手に持つフェーレをライアが微笑ましく見ていると、ふとフェーレが切り出した。
「ずっと考えてたんだけど……あのね、ボク、水の魔術は試験の日に使っただけで、その日から一回も使ってないんだ」
「使ってない?」
「うん。だからね、あの……ロアって人が知ってたのはおかしいはずなんだ」
「おかしい……」
「魔術の授業の時も、少し風の魔術を使っただけ」
「私たちがここに来る前に出会ってたとかは?」
「ううん。それもないはず。あんな変な人、あっ、変っていうのは悪い意味じゃなくて」
「うん。ゆっくりでいいよ」
「……ライアじゃない人の前だと固まっちゃって、ライアも手伝ってくれてるけど全然直せなくて、あの人とも話せなかったけど、その…………あの人は怖くなかった」
「うん」
「でも……酷いかもだけど、まるで、オモチャみたいな感じがしたの。よくわかんない。よくわかんないんだけど……とにかく不思議な人だった。だからもし出会ってたら、他の人と違うから覚えてると……思う……」
「そっか」
そこまでフェーレの言葉を親身に聞いていたライアは、チャンスなのかもしれないと思った。
フェーレからすると、ロアが普通の人とは違うらしい。その普通の人との違いが良いことなのか悪いことなのか、今はそれを判断することはできない。
だけど、珍しくフェーレが他人へ興味を持ち、その人を怖くないというのなら、フェーレが変わるきっかけになってくれるのではないかと。
「フェーレはどうしたい?」
「え?」
だから、フェーレに一歩踏み込んでもらう。
フェーレの意思で進んでもらう。
「もうロア君とは関わりたくない?」
「ボクは……」
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あの人と関わりたいか関わりたくないかと聞かれたら、どちらかと言えば関わりたくない。
前ならそう思っていた。
初めて出会った時も押しの強い人だったし、男の人だし、軽薄そうだし。
正直苦手なタイプの人だった。
いきなりライアに距離を詰めていたのも、あんまり良い印象じゃない。
そして自分にも──
『なるほどね。通りで君に好感を持ったわけか』
あの時言われた言葉が頭の中で再生される。
途端に自分の頬が、体が、熱を帯びていくのを感じる。
真っ赤に染まっていないか、そのことがライアにバレていないか心配になる。
いつもライアばかりを見ていたから、ライアに向けられる好意も、悪感情だって分かっている。
だから、
レイジがライアのことを好きなことも。
ベックもレイジのことを応援している癖に、実はライアのことを諦め切れていないことも。
好きとは違う。他の二人とは違う感情だけど、本当にあの人がライアに惹かれていることも。
ライアは凄い。みんなから愛されているんだから。
その分、たまに深い嫉妬を受けているけど、そんなこと気にも留めずに明るく振舞っている。
……そして、ボクも今、ライアに嫉妬してしまっている。
『なるほどね。通りで君に好感を持ったわけか』
時々、ライアに近づく為にボクと仲良くする人がいる。
ボクを踏み台にして、ライアと接触しようとする人が。
でも、あの人の言葉には悪意が感じられなかった。
嘘をついている表情でもなかった。
初めて向けられた、純粋な好意だった。
それが薄っぺらく感じられたとしても、どうしても自分の中で消化することができない。
異性としての好意ではなかったし、その後ライアにも同じような……いや、それ以上の好意を持っていた。
だから嫉妬していまう。
一番の友達なのに。一番の家族なのに。一番恩があって、一番感謝してるのに、どうしようもなく嫉妬してしまう。羨ましいと思ってしまう。
彼の感情を独り占めしたい。あの笑顔をボクにだけ向けて欲しい。
…………あ、
そうか。
「ライア。ボクは……」
「うん」
「ボクは、ロアと仲良く……なりた、い」
最後の方は恥ずかしくなって上手く言えなかったけど、、その言葉は確かにライアに届いたみたいだった。
「そっか。よく言えたね」
「……うん」
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