16話《帰宅》
正門から学園の敷地に入り、すぐ右に曲がって進んでいくといくつもの建物が見えてくる。
既に日が落ちかけているにも関わらず多くの生徒が往来する姿があり、二階建てになっているその建物には部屋ごとに外へ続くドアが存在していた。
いわゆる、学生寮というものだ。
ここは男子寮になっていて、生徒たちの姿も男子生徒だけしかいない。
「ぼくとレイジはここだから」
ベックが鍵を差し込みながらロアに伝える。
学園のほぼ全ての生徒が利用しているため、ベックとレイジも寮が毎日の終着点になっている。
「二人は同じ部屋なのか」
「だからこうして仲良くなれたってのもあるかな」
「今は仲が良いだろうから気にしないと思うけど、初めの頃は他人が同じ部屋にいるってことだろう?寝れなくなかったか?」
「案外そうでもなかったよね」
「おう」
「レイジが初対面なのにかなり強引で、同居人だってわかってからすぐ遊びに連れていかれたんだよ」
「想像が容易いな」
「そのお陰でこうして楽しく暮らせてるから、ほんとレイジには感謝だよね」
「いいからさっさと入るぞ!じゃあなロア!」
「あっレイジ!……行っちゃった」
レイジは照れ隠しするように一人で部屋に入っていった。
「僕も自分の部屋に戻るよ」
「……あのね、ロア」
妙に真剣な眼差しのベック。
「レイジは良いやつなんだよ」
「それはわかっているが」
「でも、時々感情的になっちゃって、今日みたいに、今日以上にロアに詰め寄ったり傷つけようとするかもしれない。でも、すぐにレイジを見放さないでやってほしいんだ」
「ふむ」
「今日のあれも、ロアと遊びたかったのにそんなロアが自分よりライアたちを優先してたことが悲しかっただけだと思うんだ。それと、ライアと遊んでたのもレイジの中で引っ掛かってるのかな」
「それ言っちゃうんだ」
「もうロアもとっくに気付いてるでしょ?」
「まあ」
「あいつはあんなんだけど、話せばわかってくれるから」
「……随分世話を焼くんだな。なんのために?」
「ただぼくは仲良くしてほしいだけだよ」
ベックの真剣な眼差しの中に、深い想いが感じられた。レイジへの友愛は確かにあるのだろう。
「……まあ、余程のことがあってもとりあえず対話は試みるさ」
「ありがとう。それじゃあね!」
「ああ」
ベックもレイジと同じ部屋に入っていき、ゆっくりとドアが閉じていく。
『なに話してたんだよ』
『レイジが逃げたんだから自業自得だよ』
『うぜぇ』
『ほら、寝てないでさっさとお風呂掃除して』
『今日俺か?』
『そうだよ。昨日サボ──』
「……」
残ったロアは再び来た道を戻っていく。
途中で階段を登って二階へ。
そこから更に奥まで進んでいき、やがて角部屋に到着した。
鍵を開けることなく扉に手をかけると、一切の引っ掛かりなく開かれる。
「……」
部屋には、窓からささやかな光が差し込んでいた。
椅子も机も棚も、小さな小物もない。寝るための布団やベット等の寝具も置かれていない。
生活感が全く感じられない部屋だった。
「友情か」
いつの間にか笑顔は消え失せていた。
その表情には喜びもなく、怒りもなく、悲しみもなく、さっきまで浮かべていた楽しみもない。
その瞳にはなにも映っていない。
「これじゃあだめだな」
両手で顔を覆って一呼吸。
再び曝け出された顔には、いつもの笑顔が浮かんでいた。
「いくか」
静かに閉じられた扉はその日、再び開かれることはなかった。その部屋から光も音も、漏れ出ることはなかった。
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