15話《友情の形》
「さて、後は合流するだけなんだけど……」
ロアが元の場所に戻ると、二人はその場に留まったままだった。
フェーレも落ち着いた様子で、二人してきょろきょろとロアを探しているようだ。
「戻ったよ」
「ロア君!大丈夫でしたか!?」
「ほら、ご覧の通り。怪我無く、話し合いで平和に解決したよ」
「ありがとうございます!ほら、フェーレも」
「あ……りがと」
「多分中身もそのままだと思うが、一応確認してくれ」
フェーレは財布を開いて中身を確認。コクリと頷いた。
「それなら良かった。それにしても、この辺も案外治安悪いんだね。首都に近い町だし、結構栄えてて学園も立ってるんだからもっと平和なもんだと思ってたよ」
「だからこそ、だと思います」
「だからこそ?……あー、それはそうか。栄えてれば金も物も集まるし、学園があれば若者も多く集まるからその分狙いやすくなるってことね」
「近隣の町と比べたら幾分かはマシだと思いますけど、それでも今みたいな犯罪は無くならないですね」
「相変わらず世知辛い世の中だね。まあ怪我も無く失ったものも無いんだからさ、さっきのことは一旦忘れて、ちょっと遅れただけって考えよう。気楽にいこうじゃないか」
「はい。そうしましょう」
「フェーレもいいか?一応、無理そうなら日を改めたりして今日はお開きってことでも良いんだけど」
「……大丈夫」
「そうか?なら、改めて案内してくれないか?」
「はい。と言っても、露店の並びはある程度系統ごとに分かれてはいるんですけど、特定の場所に毎回出店する人はほとんどいないので、私も案内しきれないところはありますね」
「じゃあとりあえず食べ物関係のエリアに行きたいかな。二人が良ければだけど」
「そうしましょう。じゃあ行きましょうか」
ライア、フェーレ、ロアの並びで、三人揃って歩き出す。ライアとフェーレが仲睦まじく手を繋いでいるいるところは見ていて微笑ましく、そんな二人の隣を歩くロアはボソッと呟いた。
「華があるね」
「花ですか?この辺は魔道具系のエリアのはずなんですけど……」
「そう?」
別に隠すことでもないが、わざわざ言う必要もない。そう考えたロアは適当に流すことにした。
「あれを花と見間違えたみたいだ」
適当に指差し方向には、いかにも怪しさ、胡散臭さの溢れる素朴な仮面の露店があり……なにをどう見ても花には見えない。
「……最近衰えを感じてきてね。どうも目が悪いんだ」
「だからまだそんな歳じゃないじゃないですか」
「若年性老眼的な?」
「なに言ってるんですか」
そんな感じに、生産性のない雑談をしながら三人は道を歩く。
エリアを超えていくと段々と人通りが増え始めた。
「もしかしてあんまり魔道具は人気無い?」
「こういう露店だと正規の店舗より高価格だったり、信憑性のないものばかりなんです」
「そうか……そう聞くと、なんか食べ物の衛生面が気になるね」
「それなら、購入前に店主の方の食品の扱い方を確認したり、きちんと火の通った物を選ぶのはどうでしょう」
「それも面倒だし……別に気にしなくていいかな。どうせ体は壊さないだろうし」
「なんですかその謎の自信は」
「あくまで気持ち的なところの問題だから、たとえ埃に塗れてたとしても知りさえしなければどうってことはないかな」
「うーん……」
首を傾げて真剣に考えている様子のライア。
「知らない幸せってあるでしょ?それさ」
「そういうものなんでしょうか?」
「人それぞれ価値観は違うし、別にそんな深く考えるものでもないよ」
「……ね、その……」
静かに二人の間を歩いていたフェーレが、か細い声と共にライアの手を引いて意識を引いた。
「どうしたの?」
「このあと、ボクのも……」
「うん。あの、ロア君。食品関係の次は、フェーレの行きたいところでもいいですか?」
「全然いいよ。今日はもう気分が乗ったし、気の向くままについていくさ」
「あり、がと……」
「そもそも僕が後から付いてきてる形なんだし、気にしないでいいさ。ちなみに目的はなんだい?」
「……こーゆー、の」
フェーレがロアに見せてくれたのは先ほどの財布だ。
「雑貨とかが好きなのか?」
「ん」
「なるほどねぇ……それじゃあ、せっかくだし僕からなにかプレゼントをしよう」
下心があるわけじゃなく、善意だけの行動ってわけでもなく、ただお金に余裕があり気が向いたからってだけの理由。
「……」
フェーレはそんなロアの提案を聞き、しばし考えた末に首を横に振った。
「嫌だった?まあ出会ってそんなに経ってない奴から貰ってもな……って感じか」
「……」
またもやフェーレは首を横に振った。
「あれ?……んー、どっち?」
「ボ……ボクが……」
言葉を絞り出すフェーレだが、段々と耳が真っ赤になり口をパクパクさせてしまう。
「フェーレが?」
「……あぅ」
どうにも喉と口と、思考が固まってしまい、上手く言葉を紡げない。
そんなフェーレの様子を見かねたライアは、いつものように手を差し伸べる。
「ロア君にプレゼントされるんじゃなくて、さっきのお礼も兼ねてこの子からプレゼントしたいみたいです。ね?」
「……ん」
「おお、流石ライア。フェーレのことよくわかってる。これぞまさに以心伝心ってやつだね」
「ずっと一緒にいますから」
「普通は一緒にいるってだけでそうはならないと思うんだけど。でもそれほど仲が良いってことだし、叶うなら老後もそうでいられるといいね」
「まだ学生ですよ?」
「案外時の流れってのは早いもんさ。で、そういえばなんやかんや聞きそびれてたんだけど、結局さっきのレイジたちはなにを見てたんだ?」
「近々闘技祭があるみたいで、その告知の張り紙を見てましたね。ちょうど学園の休日に開催されるので、二人共参加しようか悩んでたみたいです」
「ふーん、闘技祭ね」
「ロア君も興味ある感じですか?」
「いや、参加する気は無いかな。わざわざ現地に行くのも面倒だし、多分その日は観戦もしないで部屋で寝てるよ。二人は?」
「私たちも行かないですね。人も今以上に多く集まるでしょうし、フェーレの負担になりそうなので。あ、ここら辺ですね」
「おぉ、結構よさげだね」
右を見ても左を見ても食に溢れていて、見たことも無いような料理も多く見受けられた。
「とりあえず人が多いところは当たりと考えていいかな。あとは安過ぎず、高過ぎず、良心的な値段の露店も信用できそうだね。あ、とりあえずあの……なんだあれ?知らないけど美味しそうな見た目のあれにしよう」
「どれだけ食べるつもりなんですか……」
「んーー気の向くままに」
ロアはその後、成人男性の一日の食事量を優に超えるほどの量を食べたが、苦しさを感じている様子もなくケロッとしていた。
色んな露店を見て回るロアの表情は子供のように生き生きとしたものだった。しかしいざ購入して口にすると、特にお気に召すことがなかったのか首を傾げたりするだけだった。
両手に食べ物を持ちながらライアとフェーレの後に続いて雑貨エリアを進んでいく。
「本当に良かったんですか?」
「良いの良いの」
「……おいしい」
ライアとフェーレが手に持つものは、ロアが二人に相談することなく独断で三人分購入して渡してきた、肉と野菜が挟まったパンだ。
なんの肉なのかは店主に聞かなかったのでわからないが、パサパサしていることもなくジューシーで簡単に噛み切れる柔らかさだった。山菜と思われるものもその肉を邪魔することなく、その食感が良いアクセントになり引き立て役となっていた。
ただ、パンはちょっと固めだった。人によっては食べ応えがあって良いと感じることもあると思う一方、ロアはどちらかと言えばパンも柔らかかった方が具材との纏まりがあって良かったかなと思いながら食べた。
「おいおい、歩くのは面倒だからっつって帰るんじゃなかったのかよ」
「……ん?どうしたレイジ」
振り返るとそこにはレイジとベックがいた。
「や、やぁ、三人共」
「ったくよ、俺らを振っといてライアたちと遊んでたのか?どうだ?楽しかったか?」
「厭味ったらしいセリフだね」
「だってよぉ…………ロア、ここからは俺らと一緒に来い」
「え?」
「ほら行くぞ」
無理矢理ロアの腕を掴んで引っ張っていくレイジ。
「展開が早くないか?」
「うるせぇ。黙って着いてこいや」
「着いて行ってるんじゃなくて、連れていかれてるんだよね」
「どっちだっていいだろ」
あーだのこーだの言い合いながらその場から離れていくレイジとロア。
ライアとフェーレは蚊帳の外で、その様子をただ見守るしかなかった。
「ごめん、レイジのこと止められなかった」
「い、いいですよ。そんな謝らないでください」
「レイジ、かなりロアと遊びたかったみたいなんだ。時々、ロアも来ればよかったのにって呟いてて……」
「ベックも来いよー!」
「わかってるってー!とにかくごめん二人共。また学園でね!」
ベックも二人を追いかけてその場から去っていく。
「は、はい……」
ロアは元から抵抗していなかったが、ずっとズルズル引きずられるのが嫌になったのか大人しくレイジの隣を歩き出した。
「……行っちゃった」
「行っちゃったね」
「……プレゼント、渡せなかった」
「じゃあどうするの?」
「…………」
ライアの問いかけに、フェーレは十分に長考してから口を開いた。
「……明日渡す。だから選びに行こ?」
「そうしよっか」
「うん。そうする」
大なり小なりアクシデントばかりの日だったが、それでも確かに充実した日となった
ちなみにこれは大きく語られることのない話だが、この日の夕暮れ頃、魔道具の露店にて爆発騒ぎが起きた。
騒ぎの渦中には、声を荒げる赤髪の男子学生がいたそうな……
モチベに繋がりますので、よろしければ評価やブックマークをお願いします




