13話《気分屋》
「ロアはこのあとどうするんだ?」
会計を済ませたあと、何気なくレイジがロアに聞いた。
「僕か?特にすることは無いもないから寮に戻るさ」
「じゃあ俺らと遊ばねぇか?」
「そうだな。その内容にもよる」
「なにもねぇぞ。行き当たりばっかりで歩き回るんだ」
「楽しいのか?」
「俺らもそこまでこの町に詳しくねぇからよ、新しいことが知れるって楽しいんだぜ?」
「ふむ……いや、歩き回るのは面倒だから帰るよ」
「なんだ素っ気ねぇな。付き合いが悪くねぇか?」
「こういうタチで悪かったな。また今度誘ってくれ」
「次誘えば来るのか?」
「……気が向けばな」
「ったく、しゃーねぇな。ライア、フェーレ、ロア、じゃあな。ほらいくぞベック」
「あ、うん。わかったよ」
ロアとライア、フェーレの三人に背を向けて歩き出すレイジに続いて、ベックも慌てて着いていく。
「三人共またね!」
ベックは最後にこちらを振り返って手を振ってからレイジに着いて行った。
「怒ったり気分悪くするのかと思ったが、ちゃんと僕にも別れの挨拶をしたな」
「ああ見えて根は良い人ですから」
「ベックもそれ言ってたな。人望ってなかなか作ろうとしてできるものじゃないし、レイジはそんなに凄い奴なのか」
「レイジ君にはカリスマ性があるんだと思います。なし崩しではありますがクラスの委員長を務めてまして、二組の中心人物になっていますので」
「ふーん……矢面に立つのはかなり疲れると思うけど、よくやれるな」
「難しいことはベック君にほとんど任せてるみたいですけどね」
「カリスマ性があっても知性は足りてないのか」
「あんまりその人のいない所でそうやって悪口を言うのは良くないと思いますよ」
頬を膨らませてプンスカといった感じに怒るライア。
「……性格的にはライアの方が向いてる気がするが、何故やらなかったんだ?」
「学校での仕事を増やしてしまうとフェーレとの時間が減ってしまうので」
「そうか。じゃあフェーレはどうなんだ?」
「……?」
「君はライアが役職持ちにならなくて嬉しいか?」
「ボクは……嬉しい……かな」
それはとても小さな声だったが、確かに二人の耳に届いた。
「フェーレ……!」
「……まあ、レイジの方が適任だったのならそれでいいんだけどね」
ロアはなにか思うところがあるのか、どこか含みのあるような言い方だった。それを不思議に思ったライアがその意図を聞こうとするが、それよりも早くロアが言葉を続けた。
「さて、僕もそろそろ行くとするかな」
「帰っちゃうんですか?」
「誘ってくれるのなら残るけど、男が一人入ってくるより女子二人の方が気楽でいいだろう?それに、レイジたちの誘いを断っておいてここで付いていくってのもね」
「えっと……」
ライアはフェーレを一目見る。
その不安そうなフェーレの表情からなにを読み取ったのか、ライアはフェーレと繋がる手に少し力を入れて答えた。
「学園の近くに露店が並ぶ通りがあるんですけど、せっかくですし少しそこに寄り道していきませんか?」
「飲食系?それとも雑貨とか?」
「どっちもですね。その日その日で移り変わるので極端な日もあれば本当になんでもあるような日もあります」
「ガチャみたいなものか。興味本位で行ってみるのはありだね。学園方向ってのも都合いい」
「決まりだね。私はちょっとレイジ君たちに伝えておきたいことがあるから、二人は先に行ってて」
「…………ッ!?」
「場所分かるのかい?」
「あそこで立ち止まっていますよ」
先ほどレイジとベックが歩いていった方向を指差すライア。その先には民家の壁に注目して、なにやら話し合っている二人の姿があった。
「まだそこに居たのか。あれはなにを見ているんだ?」
「ついでに見てきますよ」
「あっ……」
フェーレから離れてレイジたちの元への歩いていくライア。
ロアはそんなライアの行動を訝しんでいた。
「急にどうしたんだろうな。用があるならさっき別れる前に伝えておけば済んだと思うんだが」
「……」
「まあ、そんなこと気にしても仕方ない。とりあえず向かうか。詳しい場所は知らないから案内してくれないか?」
「……」
「フェーレ?」
ライアが居なくなってしまったからか、さっきまでライアと繋いでいた手を右往左往。
そして、俯きながらも周りからの視線を気にするように、目線をあちこちへと移していた。
「ライアが来るまで待つか?」
「……」
無言ながらも、そのロアからの提案に小さく頷く。
「なにを話してるのか気にならないか?」
その言葉には首を左右に……振りかけたが、その動きを止めるとまた小さく頷いた。
「ああして知り合いが話してると、自分の知らないところでなにかが変わってそうで不安になるよな」
「……!」
「まあそこで不安に思っても結局関係ない話をしてたって落ちがほとんどだが、それでもなんだかんだ考えてしまうよな」
三人は楽しそうに言葉を交わしている。
「嫉妬するか?ライアを取られて」
「ッ!?」
「そんなことないって?それにしては随分不満そうにしてたが……別の要因でもあるのか?」
「……」
「まあ、人付き合いってのは本当に難しいからさ。誰とでも親睦を深められる特別な人もたまに居るが、大抵は生きていく中で躓くところだよな。僕はぶっちゃけ苦に思う」
「……」
「会話って相手の気持ちを汲み取って気分を窺いつつ、自分の喋る言葉も組み立てていかないといけないからな。形だけなら簡単だが、案外精神的な疲労が生まれるんだ」
「……ロアくん……も?」
「僕か?そうだな……今話したのは僕の考えではあるんだが、最近はそうでも無いな。立場とか、今後の関係性とか、なにも気にしなければそこまで苦痛にならない。結局人それぞれの相性とかはあるから難しいところだが、コツは……あれだ。人として見ない」
「……?」
「人に対して言葉を返さず、言葉に対して言葉を返す。顔を見るフリをして遠くを見るか、わざと視界をぼやけさせて目を合わせてるように見せかける。人の顔色を窺うのが得意な商人とかには効かない戦法ではあるが、気休め程度でも楽になるぞ」
「そう……」
「それでも面倒なことに変わりは無いが、少しくらいは話せるようになっておくべきだと思うぞ。以前フェーレがライアと二人でいた時は──」
「──痛ッ!」
突然、フェーレがもたれるようにしてロアにぶつかった。
「邪魔だ」
どう考えても避けて通れる道幅にも関わらず、フェーレとぶつかった男は謝罪の言葉もなく立ち去った。
その男は無精髭が生え、髪の毛は肩まで伸びてフケが絡まっている。しかし服装は小綺麗で、なんともあべごべな身なりをしていた。
ロアはそんな男の後ろ姿を注視。
「……ふーん」
なにかを汲み取ったかのように喉から声も漏らし、一度視線をフェーレへと移した。
「フェーレ?」
「ッ……」
ロアにくっついたまま全く体を動かさず、世界からの情報を拒むようにグッと目を瞑っていた。その両手はロアの服強く掴み、シワが残りそうなくらい握り締められていた。
「そんなに強く打ったのか?」
しかしフェーレから返答はない。
「フェーレ!」
どうしようかとロアが悩んでいると、慌てた様子でライア駆け寄ってきた。
「来てくれて助かるよ。ほらフェーレ、愛しのライアだぞ」
「おいで、フェーレ」
その言葉を聞いて一目散にライアに抱きつく。
「ライアぁ……」
「うん、怖かったね。もう大丈夫だよ」
背中を優しくさすってフェーレを宥めるライア。
「大人の男がダメって、それほどまでに無理だとは」
「やっぱり怒鳴られたり、さっきみたいにぶつかられたりすると怖くなっちゃうみたいなんです」
「ほどほどに話せたから案外いけるのかと思ってたよ」
「そうなんですか?」
「たぶん。ほとんど一方的に話してはいけたけど、一応応答はあったからそう認識してるんだが…………ちょっと一つ聞いていいか?」
「えっと、なんですか?」
ロアは背後を気にしながら一言。
「フェーレさ……財布とか、無くしてたりしないか?」
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