逆ハー世界に異物をぶっ込んでみた
初投稿です。宜しくお願いします。
トラックにぶつかって目が覚めたら全くの別世界とかってのは、巷では良くある話なのかしら?
ふわっふわの桃色の髪。
ちょっと垂れ気味の桃色の瞳。
ぷっくぷくの小さな手足。
かろうじて性別だけは前世のままで、それ以外は前世の面影なんて微塵も残ってないのを鏡で認めてギャン泣きすれば、幼いながらも将来超絶イケメン間違い無しって感じの男の子達がワラワラと沸いて出て、オロオロしながらも全力で慰めてくれた。
お姫様みたいな扱いを受けて……って、私、伯爵家のご令嬢なんですってソンナ馬鹿な。
そして私を囲んでる未来のイケメン達は、いきなりぶっ倒れた私を心配してお見舞いに来てくれた婚約者『達』なんですってソンナ阿呆な。
え~人生の伴侶は一人なんじゃないの?
なんて前世の倫理観で考えてみたけど、こっちの世界では一妻多夫が常識だった。
女性が生まれにくい世界で、女:1に対して男:10なんですって。
最低でも5人は旦那様を持たないとダメだって法律で決まっているらしい。
と言うか、誘拐されるかも知れないから出来るだけ多人数で守るって。
うん。テンプレっすね!
私知ってる! 愛読してたネット小説で読んだ事ある!
アレだよ、逆ハーレム!
略して逆ハー!!
………いやいやいや無理無理無理無理!!!
こちとら前世日本人よ?
日本人とはと他国の人に尋ねれば、真面目という単語が真っ先に出るであろう日本人よ?
大和撫子なんて言葉が生み出される位には貞淑さと誠実さが美徳とされる国の住人よ?
彼氏は一人でいいから! 濃く深く愛し合いたい派だから!
なーんて喚いていた時期が私にもありました。
舐めてた。
日本人の環境への順応力の高さ、私舐めてた。
「アンネローゼは本当に可愛いね」 「そうだな。俺たちのお姫様は優しくて可愛くて、俺たちは幸せ者だ」 なんて、キラキラしたイケメンに可愛がられ甘やかされ、あれやこれやと構い倒され。
この世界の殿方ならではのスマートでさり気ない優しさに絆され心許し。
5人の婚約者が居るという事実を当たり前に受け入れている自分に気付いて愕然としてちょっと泣いた(そして全力で慰められた) 。
この世界の女性がその希少性からか甘やかされ我儘で強気な性格の人が多いからか、こんな前世喪女でコミュ障でも慎ましくて有り得ない程性格が良いってすっごいモテた。
そりゃもうビックリする位に釣書が来た。
兄二人と弟が『アンネローゼみたいな子が理想!』と、高位貴族なのに婚約者を作らない程度には殿方にはウケた。
いやいやいや敬愛するお兄様ズとそして可愛い弟よ。
心配でならないから、早いトコ未来のお嫁さんを見付けてくれぃ!
そんな慌ただしくも愛しい日々を送る私の前に彼女は現れたのだ。
いや、存在自体は知っている。
この国で一番美しい女性と称される彼女は余りにも有名で、寧ろ知らないほうが可笑しい。
月の光を取り込んだ様な輝きを放つ銀色の髪。
彼女の祖母の母国である隣国の王族の特徴である蒼翠の稀有な色を持つ瞳。
滑らかな陶器の様な肌は透き通る様な白。
豊かな胸元に反して細くくびれた腰元。
ほっそりとした長い腕に今にも折れそうな華奢な肢体。
ティアラローズ・サザーランド公爵令嬢。
名は体を表すとは良く言ったものだ。
宝石姫と呼ばれるご令嬢は、正に咲き誇る大輪の薔薇の様に美しかった。
前世喪女である私には一人の時間が必要であるという事を、転生者ということを知らないながらもそういう性質なのだと賢く思いやりに溢れる婚約者達は理解してくれている。
厳戒態勢が敷かれたボッチというのも何だかなとは思うが、有難くこの時間を受け取っている。
婚約者の一人に持たされた手作りのオヤツを持って学園にある庭園の端っこをウロウロしていた私は、茂みにコッソリと隠れていたティアラローズ様を発見して心臓が飛び出る位に驚いた。
権勢を誇る筆頭公爵家のご令嬢にコイコイと呼ばれて、伯爵家の令嬢に断るという選択肢などある筈がない。
と言うか、何も考えてなかった。
超絶美人に麗しすぎる笑顔で呼ばれて、何も考えずにフラフラ~って近寄っただなんてアホでしょ私。
まあそこでティアラローズ様に私の前世が転生者であるかどうか、確信をもった様子で聞かれたんだけど。
転生チートもしてないし何でバレたんだろうって思ってたら、何時ものボッチタイムで学園の端っこでラ〇オ体操を第一どころか第二まで踊ってたのを目撃されたらしい。
………やだ…ちょっと待って。
そんなバレ方ある?
そんな馬鹿な身バレをした転生者とかって存在していいの?
待って待ってティアラローズ様!
恥ずかしいどころじゃないんだけど?
「物凄い真顔でのキレのある動きに声を掛けられずにうっかり最後まで見守ってしまって申し訳ないわ」とかって!!
待って待って最後まで見てたの?!
第二とか貴族のご令嬢がする動きじゃないと思うんですけど!!
ノリノリでやってしまった私、死ぬなら今!って感じなんだけど。
恥ずか死ぬってこの事だわ!
ごめんなさいするティアラローズ様は空気に溶け込んでしまいそうなほど儚げで非常に美しかった。
どうして声を掛けたのかと問うてみると、ティアラローズ様は悩ましく溜息を漏らした。
え。やだ。色っぽ…清浄な雰囲気を持ちながらも色気もあるだなんて、この宝石で薔薇なお姫様はどこまで麗しいのかと、こっちが溜息をついてしまいそうだ。
ティアラローズ様の美がとどまる事を知らない!!! はあ……美しすぎるって罪なのね。
幼児体系でゴメン!と、婚約者達に申し訳なくなってしまうわ。
「逃げ回っていたのですが…いよいよ逃げ切れなくなりそうで」
「……はあ?」
「婚姻の日取りが決定してしまいましたの」
「それは……おめでとうございます」
下を向いて小さな小さな声で告白するティアラローズ様。 お可愛らしいわ。 惚気たかったのかしらと微笑ましく思いながら、祝福の言葉を紡ぐ。
「めでたくねぇええええ!!!いやいやいや!無理だから!本当に!マジで!無理だから!!!」
瞬間。
獅子舞の様に髪を振り乱しながら喉も張り裂けんとばかりに絶叫する(制服のブローチに仕込まれている防音効果のある魔道具を発動させていたので周囲には無音)ティアラローズ様の姿に、飛び上がって驚いた。
そんな私の両肩を細い手で掴むティアラローズ様の目は座っている。
稀有な蒼翠が繰り出す眼光の、強者そのものの輝きにちびりそうな程ビビる。
『本山雄二。享年18歳。学校帰りにバイクに乗ってて事故った』
『彼女こそ居なかったが、俺はバリバリのノンケだ』
『………………………は?』
『バリバリのノンケだ』
『………………………え?』
『俺は前世男で、バッリバリのノンケだ』
『……………………………。』
地獄の底から響く様な、超低音のお声がとっても恐いです、ティアラローズ様。
大事な事だから2回、いや3回言ったのですね、ティアラローズ様。
………と言うか。
『……………地獄じゃないですかソレ』
『それな』
嗚呼。 神様。神様。
幾ら何でもあんまりでは?
転生させるなら普通の世界で良かったのではないでしょうか?
何を思って、バリバリノンケの男子高校生を、夫を最低5人持つ法律があるこの世界に転生させようと思ったのですか?
多分9割の中身男子は喜びませんよ絶対に!!
『……………………。』
『……………………。』
瞳を潤ませながら項垂れる本山雄二くんことティアラローズ様は、こんな時でもスペシャルに美しくて何だか居たたまれなくなる。
絶世の美貌でも幸せになれる気がしないんだけど?
コレはナイ。
コレはナイよね、神さま!!
心の中で絶叫しつつ、ポケェっと儚げな風情でフルフルと震える絶世の美少女を見つめたのだった。
一妻多夫の世界に中身男子高校生を詰め込んでみた