あなほりしょくにん
この春に、ももぐみからひとつ大きいりんごぐみになったとうくんは、毎日ほいくえんへかよっています。朝、たんにんのゆみこ先生がへやの前でまっていてくれます。とうくんは先生の前まで行くといつものように大きな声で言いました。
「先生、おはようございます」
「おはよう、とうくん。お手ふきタオルをタオルかけにかけて来てね。カバンをロッカーにしまったらおにわであそんで良いわよ」
いつものあいさつの後、したくをおわらせて、とうくんはいそいでおにわのはしにあるすなばにむかいます。とうくんはすなば用のおもちゃのスコップをもってくるとさっそくすなばをほりはじめました。
「今日はどこまでほれるかなぁ」
りんごぐみのほかのお友だちは、みんなおにごっこやすべりだい、ボールあそびをしていてすなばにいるりんごぐみさんはとうくんだけです。とうくんのまわりにいるのは、小さいくみのお友だちばかりで、先生がいっしょにおだんごを作ったりしておままごとをしているだけです。でも、とうくんはそんなまわりにいる小さいお友だちにすながかからないように気をつけながら、せっせとあなをほっていきます。
「りんごぐみのお友だちはおへやであそぶので、かたづけをしておへやに入ってくださーい」
先生がよんでいます。とうくんは、自分のひざがうまりそうなふかさまであなをほることができましたが、先生によばれてしまってはしかたがありません。ここでストップです。「よし!つづきはおひるねをしておやつを食べたあとだ!」と言うと、スコップをかたづけておへやに入りました。
きゅうしょくを食べて、おひるねをして、おやつを食べて、タオルかけのタオルをカバンにしまって帰りのしたくをすませると、お母さんがむかえにくるまでおにわであそびます。とうくんは、朝のあなほりのつづきをしようとすなばにやってきました。すると、あながありません。がんばってがんばって、あんなにふかくほることができていたのになぜかすなばはきれいにたいらになっています。
「おかしいなぁ。おひるねのあいだは、だれもおにわであそんでいないのに。まあいいか。またほればいいんだし!」
とうくんは、またはじめからあなをほりはじめました。
つぎの日のあさ。いつものようにほいくえんへきたとうくんは、あさのしたくをおわらてせすなばにやってきましたが、「あれ?」きのうのゆうがたにほったあながまたなくなりたいらになっていました。
「どうしてかなぁ?」
ふしぎにおもいながら、でもやっぱりそんなに気にすることなくまたはじめからあなをほりはじめるとうくんでした。
そんな日がなんにちかつづいたある日、おむかえに来たお母さんは、すなばのあなをみてとうくんにききました。
「このあなって水をためてさかなを入れたらいけみたいよね?ねえ、とうくん。まいにちあなをほっているけれど、このあなは何になるの?もしかして、まあるいちきゅうのはんたいがわまでほって、外国とトンネルをつなげようとしてる?」
「ううん。すなばのあなはちきゅうのはんたいがわまでつながらないんだよ、お母さん。だって、このすなばはちゃんとそこがあるんだもの」
「えっ?じゃあ、なんでまいにちまいにちあなをほっているの?」
「それは、ぼくがあなほりしょくにんだからなんだよ。だから、まいにちあなをほっているんだよ」
そう言うと、とうくんはまたスコップであなをほりはじめました。お母さんはちょっとびっくりです。だって、いくらあなをほっていてもすなばにはそこがあって、それよりふかくほれないとしっていて、それでもまいにちほっているのはじぶんがあなほりしょくにんで、だからただただまいにちあなをほっているのだと言うのですから。「あなほりしょくにんって何?」「じぶんでおもいついたの?」と、びっくりすることはいろいろありましたが、いちばんびっくりしたのは、こんなにまいにちあなをほっているのに、なぜそのたびにきれいにたいらにもどっているのかをしらないことでした。ふしぎにおもわなかったのでしょうか。「どうして?」とだれかにきかなかったのでしょうか。だってお母さんはしっていたのです。まえに先生たちが大きなこえではなしているのがきこえてしまいましたからね。
「○○先生!すなばのあな、うめておきますね!小さいくみの子どもたちがおちたらあぶないですからね。でも、まいにちこんなにふかくあなをほっているのはだれなんですか?」
それから少しして、すなばのあなは、かたづけのじかんになったらそのあなをほった人がちゃんとうめてくるようにと先生が子どもたちに言ったそうです。もちろん、とうくんはじぶんであなをうめるようになってからも、まいにちあさとゆうがたにあなをほりつづけています。だって、あなほりしょくにんですからね。