お買いもの
とうくんは、いつもお母さんといっしょにお買いものに行きます。行くお店は、とうくんの家の近くにあるスーパーマーケットです。
今日もほいくえんの帰りにいつものスーパーマーケットに来ました。お母さんはだっこのひもできいちゃんを前にだいて、片方の手をとうくんの手とつないで、反対の手でかごをのせたカートをおしていきます。最初に野菜売り場。じゃがいもや玉ねぎ、とうくんのあまり好きではないきゅうりもあります。お母さんは、そのきゅうりをかごに入れました。とうくんは「おいしくないけど食べられるもん」と思って、だから何も言いません。お母さんは次にお肉売り場に行きました。とうくんの手をグーにしたよりも大きいお肉のかたまりや、うすく切って並べてあるお肉やつぶつぶになったお肉がありましたが、お母さんは「今日はぶたこま切り落としが安いから、これを使ってお夕飯のおかずにしましょう」とパックをひとつ取りました。「あとは今うちの冷蔵庫に入っている材料を使って作るから、今日のお買いものはこれだけね」と言って、お金を払うために長いレジの列にならびました。するとそこは子どもたちが大好きなおかし売り場の前でした。右を見ても左を見ても上から下までズラリとおかしがならんでいます。チョコレート、クッキー、あめにおせんべい、ポテトチップスもあります。そして、とうくんの目の前には子どもが手に持つのにちょうど良い大きさのかわいい絵のついたおかしがならんでいます。とうくんは「買って!」とか「ほしいなぁ」なんて言いません。でも、やっぱりかわいい絵のついたおかしたちをじーっと見てしまいます。お母さんは、とうくんの顔をそっと見ながら「何か買ってちょうだいって言うかしら?」と思っていました。でも、さすがお兄ちゃんになったとうくんです。お母さんの手をはなさずにだまってそのままレジの前まで進んで行きました。
「とうくん、おかしをほしいのよね?でもごめんね。お母さんのおさいふに入っているお金ではおかしは買えないのよ。このおさいふに入っているお金では夕ごはんの材料しか買えないの。おかしは、お父さんのおさいふに入っているお金でしか買えないの。だから、おかしはいつもお父さんが買って来てくれるでしょう?」
お母さんは、とうくんにそう声をかけました。「そうかぁ。だからお母さんはおかしを買わないんだ。買えないんだね。お母さんもおかしが欲しかったらお父さんにおねがいしたら?」
「うふふふふ」
そのとき、とうくんとお母さんの後ろから笑い声が聞こえてきました。どうやら知らないおばあちゃんが、とうくんとお母さんのやり取りを聞いていたようで、ニコニコとこちらを見ていました。お母さんはちょっぴりはずかしくなりました。
だって、どうやらとうくんはお母さんのおさいふのお金はおかしを買おうと思ってレジに出しても、「このお金ではおかしは買えませんよ」とお店の人にことわられると思ったようなんです。本当はおかしを買ったらごはんの材料を買えなくなるから、お母さんが「おかしまでは買えない」と思っていただけなんですけどね。まあもう少しの間は、おかしはお父さんに買って来てもらいましょうと思ったお母さんでした。