はじめまして
夏の始めのある日、はちきれそうなパンパンにふくらんだお腹をかかえてお母さんが言いました。
「そろそろ生まれそう。病院に行ってくるね」
とうくんとお父さんは、急いでお母さんを病院に連れて行きました。でも、赤ちゃんはすぐには生まれないらしく、とうくんはお父さんといっしょに家で待つことになりました。初めてのお母さんのいない夜。とうくんは少しさびしくなりました。でも、がんばってガマンします。だって、もうすぐ『カンペイちゃん』にあえるのですから。
次の日の夕方、病院から電話がかかってきました。
「もうすぐ生まれそうですよ。お父さんもお兄ちゃんも病院にきて下さい」
お父さんは、とうくんを連れて大急ぎで病院に行きました。二人が病院に着いてしばらくすると、「オギャー、オギャー」と赤ちゃんの泣き声が聞こえてきました。
「おめでとうございます。男の子ですよ。」
とうくんとお父さんは、ドキドキしながら『カンペイちゃん』に出てくるのを待っていました。カラカラと部屋の戸が開いて、中から小さなベッドに寝かされた赤ちゃんが出てきました。とうくんにくらべたらうんと小さな赤ちゃんです。すると、
「あれ? 『カンペイちゃん』青くないねえ」
とうくんが言いました。お父さんは何のことかわからずびっくりして聞きました。
「何で『カンペイちゃん』が青いと思ったんだい?」
「だってね、『キラキラ島のタマちゃん』のカンペイちゃんは、青い色のかわいい恐竜の赤ちゃんだったんだよ」
お父さんは、それを聞いて「なるほどなあ」と思いました。とうくんはきっと、お母さんのお腹から生まれてくる赤ちゃんはみんな青い色をしているのだと思っていたのでしょう。
さて、お腹の中にいた時には『カンペイちゃん』と呼ばれていた赤ちゃんでしたが、やっぱり新しく名前を決めることになりました。そのまま『カンペイちゃん』にしようかまよったお父さんでしたが、『きいちゃん』にすることにしました。とうくんの名前もお父さんが考えて決めたので、同じようにきいちゃんの名前もお父さんが決めてあげたかったのですって。
小さなベッドですやすやねむっているきいちゃんの顔を、お父さん、お母さん、とうくんがのぞきこんで言いました。
「はじめまして、きいちゃん。これからよろしくね」