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悪魔のお菓子

とうくんは、中町保育園もも組のもうすぐ三才になる男の子です。とうくんのお母さんのお腹の中には『カンペイちゃん』とよんでいる赤ちゃんがいます。そのお母さんのお腹が、前より少し大きくふくらんできています。もっと大きくなって赤ちゃんがお母さんのお腹から出てきたら、とうくんは本当のお兄ちゃんになるんです。毎日「早くお兄ちゃんになりたいなあ」とワクワクしていました。

 そんなある日、中町保育園もも組のお友だちであるちいちゃんが、とうくんの家に遊びにきてくれました。「いらっしゃい」とお母さんがげんかんのドアを開けると、「こんにちは」とかわいい声が聞こえて、ニコニコ笑ったちいちゃんとちいちゃんのお母さんが入ってきました。

「とうくん、お菓子を持ってきたの。いっしょに食べようね」

ちいちゃんは、両手に同じお菓子を一つずつにぎっています。

「うわあ! ありがとう」

とうくんは、喜んでもらうことにしました。

 ダンボールを使ってお母さんと作ったひみつ基地の中に入って遊んだり、紙を細長くくるくる丸めて作った剣で遊んだりしていたら、おやつの時間になりました。とうくんは、楽しみにしていたちいちゃんからもらったお菓子の箱を開けてみました。初めて見るお菓子でしたから「どんなお菓子が入っているのかなあ?」と、とてもワクワクしていたのです。でも、開けてみると中に入っていたお菓子はチョコレートでした。

「どうしよう」

とうくんは困ってしまいました。

 とうくんのお母さんは、「小さい子どもがチョコレートを食べると、あまりにも甘くておいしいから食べ過ぎて、ご飯を食べられなくなっちゃう」と考えていました。ですからお母さんは、チョコレートというお菓子は、子どもたちが一度食べたら夢中になってしまう魔法のかけられている『悪魔のお菓子』だと思っていました。それでも本当のことを言うと、チョコレートはお母さんも大好きだったのです。

「とうくんが、チョコレートを食べてもちゃんとご飯を食べられるようになったらチョコレートを食べても良いかしらね」

そんなふうにちゃんと考えていたんです。その食べられるようになる日というのを、お母さんは「三才になったら良いかしらね」と思っていました。とうくんの三才のおたんじょう日まであと五日。きのうもお母さんはとうくんにこんな風に言っていました。

「とうくん、もうすぐ三才のおたんじょう日ね。とうくんも三才になればもうお兄さんだし、チョコレートを食べても大丈夫だと思うの」

「うん。三才のお兄さんだもんね」

 今日は、三才のおたんじょう日まであと四日。ちいちゃんからもらったチョコレートを持ったまま困っているとうくんに気がついて、お母さんは小さな声で言いました。

「とうくん、あと四回寝たら三才だし、少し早いけどきっと食べても大丈夫よ。だって、ちいちゃんといっしょに食べたいでしょ?」

「うん」

とうくんは、お母さんに言ってもらって少しホッとしたのか、うれしそうにちいちゃんといっしょにチョコレートを食べ始めました。

「うわあ! 甘くておいしい!」

「うん。とうくん、おいしいね」

しばらく二人で仲よく食べていましたが、とうくんが急にお腹をおさえて泣き出しました。

「お腹がいたい! お腹がいたいよー!」

ちいちゃんはびっくりしてしまい、心配そうにしていましたが、とうくんが薬を飲んだりしているので、「早く治ってまた遊ぼうね」と言って帰っていきました。

 とうくんはすっかり悲しい気持ちになってしまいました。

「せっかくちいちゃんが遊びにきてくれたのに、お腹が痛くなるなんて。やっぱり、三才になっていないのにチョコレートを食べたからお腹が痛くなったんだ。お母さんが前に言ってた。三才にならないうちにチョコレートを食べたらお腹が痛くなるよって。だから、とうくんも三才になるまでガマンしようねって。もう、絶対に三才のおたんじょう日までチョコレートを食べないんだ!」

 お腹がいたいのはすぐに治りましたが、それから四回寝て三才のおたんじょう日がくるまで、とうくんはちいちゃんからもらったチョコレートをぜったいに食べようとしませんでした。

 そして、やってきたおたんじょう日。お父さん、お母さんといっしょに、お母さんが作ってくれたお祝いのごちそうと、ケーキと、そして、ちいちゃんがくれたあのチョコレートを食べました。もちろん今度はお腹が痛くなることはありませんでした。だって、もう本当に三才のお兄さんになりましたからね。とても大事に少しずつ食べましたよ。なにしろ大の仲よしのちいちゃんからもらった、生まれてはじめてのチョコレートでしたからね。

 そんなおいしそうにチョコレートを食べるとうくんを見て、お母さんは不思議に思っていました。だって、三才にならないうちにチョコレートを食べたらお腹が痛くなるなんていうことはないはずだからです。

「何ではじめてチョコレートを食べたあの時、とうくんはお腹が痛くなっちゃったのかしらね」

 それからは、とうくんがチョコレートを食べてお腹が痛くなることはなく、それにチョコレートを食べすぎてご飯を食べられなくなるというようなこともありませんでした。

 そんな三才のお兄さんになったとうくんが、本当のお兄ちゃんになるのは、あともう少しです。

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