カンペイちゃん
初めて投稿します。宜しくお願いします。
お母さんは、おひるね中のとうくんの顔をそっと見ながら、ちょっぴり心配そうな顔をして考えていました。
「とうくんは赤ちゃんが生まれることを喜んでくれるかしら?」
少し前から、何となく体の具合いが悪いと感じていたお母さんは、昨日病院へ行ってみました。すると、なんとお医者さんから「おめでとうございます。お腹に赤ちゃんができていますよ」と言われたのです。その夜、仕事から帰ったお父さんに伝えると、それはそれは大喜びをしてくれました。でも、そこでお母さんはあることが心配になりました。
赤ちゃんが生まれると、赤ちゃんのお兄ちゃんやお姉ちゃんになった子どもたちが、赤ちゃんにやきもちをやいてしまうと聞いたことがあったからです。それはそうだとお母さんは思います。だって、今まではひとりじめにできていたお母さんを、これからは赤ちゃんに半分かしてあげなくてはならなくなるのですから。
「どんな風に赤ちゃんのことを話したら、とうくんも楽しみにしてくれるかしら?」
そこで、お母さんはお腹の赤ちゃんのことを、とうくんにこう紹介することにしました。
「とうくん。あのね、お母さんのお腹の中にとうくんの弟か妹になる赤ちゃんができたの」
「お腹に赤ちゃん?」
「ボクの弟か妹?」
「そうよ」
「わーい! ボクの弟か妹だって!」
とうくんは、お母さんの話を聞いて大喜びをしてくれました。
それからは、毎日毎日お母さんのお腹をやさしくなでながら、「早く出ておいで」なんて赤ちゃんにニコニコ話しかけていました。そんなある日、とうくんはふと気がつきました。赤ちゃんに名前がない! いつもは『チビちゃん』なんて呼んでみたりしていますが、『チビちゃん』はちゃんとした名前ではありません。
「お母さん、『チビちゃん』の名前は何ていうの?」
お母さんは、赤ちゃんの名前はまだ考えていませんでした。だって、まだ男の子か女の子かわかりませんでしたから。だからちょっと困ってしまいましたが、すぐに良いことを思いつきました。
「そうね。『チビちゃん』もダメではないと思うけど、ちゃんと名前をつけてあげたら赤ちゃんも喜んでくれるかもしれないわね。そうだ! とうくん、あなたが赤ちゃんの名前をつけてあげてくれない? だって、あなたは赤ちゃんのお兄ちゃんだもの」
とうくんは、ほんの少しだけ考えているようでしたが、すぐに思いついたようで、大きな声で言いました。
「じゃあ、カンペイちゃんね!」
お母さんは、とうくんがあまりにも早く名前を決めたことにびっくりしました。
「えっ? どうして『カンペイちゃん』なの?」
「あのね、きのうテレビで『キラキラ島のタマちゃん』を見てたら、タマちゃんのお母さんのお腹から赤ちゃんが生まれたの。その赤ちゃんの名前が『カンペイちゃん』なんだ。青い色をしてて、とってもかわいかったんだよ!」
とうくんはとてもうれしそうに話してくれますが、お母さんはちょっぴり困ったような顔をしています。
「でもねえ、赤ちゃんが男の子だったら『カンペイちゃん』でも良いと思うんだけど、もしも女の子だったらイヤだって思わないかしら?」
お母さんが言うと、とうくんはニコニコと胸をはって答えました。
「だいじょうぶ! うちの『カンペイちゃん』は男の子だから!」
その日から、お母さんのお腹の赤ちゃんは『カンペイちゃん』とよばれるようになりました。そして、お父さん、お母さん、とうくんから毎日「カンペイちゃん」とよんでもらいながらお腹をなでてもらうようになりました。
「早く会いたいねえ」
「でも、あわてないで良いからね。元気に出てきてね」
「みんな楽しみにまってるよ」
みんなが楽しみにしている『カンペイちゃん』と会える日は、もう少し先のことになります。