第84話 自主訓練?
設けられた10日間の自主訓練の日々。
俺たちは当然のように訓練に打ち込んでいた。今回の騒ぎのおかげか、自分たちの力不足を痛感したからだ。
俺は魔物を滅する力を、ブレアはドラゴンの力と魔法を使いこなせるようになるために、とにかく必死に打ち込んだ。セリスとソニア、ピエルにマクスも必死に訓練に打ち込んでいた。
ちなみにだが、俺たち以外の連中はほとんどが休んでいた。やっているとしても走り込みや筋トレくらいで、剣を持つような事はなかった。おそらくは、スライムの襲撃に相当にショックを受けているのだろうな。
こいつらは貴族の子どもだからな。よっぽどじゃないと魔物と遭遇する事はないだろうし、こうなってしまうのはある程度予測できた事だ。だから、俺はまったく気にしない。なんてったって、俺は既に5歳の時に魔物と遭遇してるしな。環境の差ってのはそう簡単に埋められやしないものなんだよ。
ちなみにこの状況について、ブレアですらもあまり気にしていなかった。多分、あのスライムの事がなければ、「軟弱者ですわね」とでも言ってそうだったから、この反応はちょっと意外だった。そのくらいにスライムという存在は厄介なのだという事だろう。
しかし、そうやって凹んでいる連中を気にしている状況ではない。騎士を目指すのであるなら、少しでも経験を積むべきだからだ。だからこそ、俺たちはがむしゃらに稽古に打ち込んでいるんだ。
「さて、ピエルとマクス。二人一緒に掛かってらっしゃいませ」
そんな中、ブレアは俺たちについてきている男二人に挑発していた。
元々はハーケンとかいう偉そうな奴の取り巻きだった二人だが、俺たちにつくようになってからは真面目に授業に取り組む姿が見られている。
今だって、ブレアから挑発されたとはいえども、特に感情を乱す事もなくブレアと向かい合っていた。
「お願いします!」
ブレアと向かい合ったピエルとマクスは、そう言って頭を下げてから木剣を構えていた。二人はブレアの方の実力が上だと認めて、胸を借りるつもりでいるという事を示していた。素直でいい事だ。
「さあ、いつでも来なさいな」
ブレアから改めて挑発されるピエルとマクス。
じりじりと睨み合いを続ける三人だったが、ピエルとマクスがお互いに合図を送ると、一斉にブレアに向かって走り出した。
正面から行っても厳しいのは分かっているのか、ブレアの左右に分かれて二人は迫っていく。
「甘いですわね!」
ピエルとマクスがまさに攻撃を入れようとした瞬間、ブレアが反応する。攻撃されてから迎撃するとは、さすが挑発しただけの事はあるというものだ。
通常であるならば攻撃を食らってしまいそうな状態からでも、ブレアは木剣を振って二人の攻撃を薙ぎ払ってしまった。
「あっ……」
だが、同時にブレアはしまったというような声を上げていた。
なぜなら、ピエルとマクスが持っていた木剣が砕けてしまったのだから。
ブレア自身はそんなに力を入れたつもりはなかったのだが、瞬間的だったがためか、力を必要以上に使ってしまったようだった。
「あらあら、砕けてしまいましたわね。これではお相手ができませんわね」
やらかしたというのに、まるで自分は悪くないみたいな態度を取るブレアである。だが、ピエルとマクスは折れたというか砕け散った木刀とブレアの間で視線を往復させながら、口をパクパクさせて立ち尽くしていた。
「砕けてしまったものは仕方ありませんわね。お二人とも新しい木剣を取ってくるといいのですわ」
「……あっはい」
ブレアの言葉に、気の抜けた返事をする二人。ばたばたと訓練場の隅にある武器倉庫へと走っていった。
その様子を見送ったブレアは俺の方を向く。
「アリスさん、せっかくですし、ここでお手合わせしませんこと?」
「ええ、いいですね。セリスさん、ソニアさん、よろしいですか?」
俺が手合わせしていた二人に確認すると、こくりと頷いていた。なにせ、俺と手合わせしていた二人も1対2で相手になっていなかったのだから、ここはおとなしく引き下がるしかなかったのである。
というわけで、結局俺とブレアが向かい合う事になる。セリスとソニアは少し離れた位置で俺たちの姿を見守っていた。
「少し本気を出したいですからね。アリスさん、手加減は要りませんわよ?」
「いや、さすがにみんなに被害を出すわけにはいかないでしょう」
目をギラギラさせるブレアに、俺はさすがに苦笑いをするしかなかった。なにせ、ブレアの様子を見ている限り、俺の懸念を受け入れてくれるイメージがわかなかったからだ。軽い気持ちで了承した事を、俺は激しく後悔する。
おそらく今の状態のブレアを止められるのは俺だけだろう。いつまでも凹んでいるわけにもいかず、やる気満々のブレアを前に俺は覚悟を決めるしかなかった。
さあ、やってやろうじゃないか。
改めて心を決めた俺は、木剣を構えてブレアと向かい合う。その様子を息を飲んで見守るセリスとソニア。
「さあ、始めましょうか、アリスさん」
「ええ、そうですね、ブレアさん」
俺たちの木剣を握る手に力が入る。
その瞬間、ピンと場の空気が張り詰めたような感じがしたのだった。




