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第18話 衝撃告白

 翌日の朝、ドラゴニルの奴がようやく俺と食事を一緒に取っていた。だだっ広い食堂だというのに、俺とドラゴニルの二人しかテーブルには着いていない。周りには三人ほどの使用人が居るくらいだった。


「さて、アリスよ。今日は時間を取るから、我と一緒に話をしようではないか」


 その食事の席で、ドラゴニルはこんな事を言ってきた。今さら何を言おうというのだろうか。俺は警戒の目をドラゴニルに向ける。ところが、ドラゴニルは俺の視線にもまったく動じておらず、むしろにこやかに笑っていた。

 俺はその態度に何とも言えない気持ちになったのだが、あえてその要求を受け入れる事にした。そんなわけで、食事が終えた俺たちはドラゴニルの私室へと向かった。


「さて、どこから話をしようか」


 私室に戻ったドラゴニルは、俺を抱え上げて椅子に座らせると、自らも椅子に座って膝を組んで肘をつきながらそんな事を言っていた。なんかむかつく態度だな。俺は文句を言いたいところだが、とにかく我慢をして当たり障りのないところから問い質してみる事にした。


「どうして私をここに連れてきたの?」


 俺がこう聞くと、ドラゴニルは一瞬目を丸めていたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべていた。なんか気持ち悪いぜ。


「そうだな。言ったとは思うが、お前が我の伴侶にふさわしい存在だからだ」


(ああ、確かにそんな事を言っていた気がするぜ……)


 俺は心の中で嫌な顔をしながらため息を吐いた。実際にしているわけではないが、気持ちとしてそんなものだ。

 それにしても、俺の目の前のこの領主は、相変わらずにこにことした笑みを浮かべて俺の顔を見ている。間にテーブルが無ければ今にでも殴ってやりたい顔だった。


「まったく、顔と気持ちが合っていないな。ここには我ら以外は居ないのだから、別に演技する必要もないのだぞ、アルス・フェイダンよ」


 突如として言い放たれたドラゴニルの言葉に、俺は激しく動揺して固まる。

 そうだ、フェイダンという言葉をどこかで聞いた覚えがあると思ったら、騎士に取り立てられた時に俺が貰った名前じゃないか。どうして忘れていたんだよ、俺は。

 ……って待てよ。それを知っているって事は、こいつはまさか……。

 俺の中にとある仮説が浮かび上がってきた。俺が目を見開いてドラゴニルの顔を見ていると、ドラゴニルはさらににかっと笑って俺の顔を見てきた。


「そうだ。お前と相打ちになったドラゴンは、何を隠そうこの我だ。お前と我は、我の最後の力によって過去へと遡ってきたのだ」


 衝撃的な言葉が出てきた。なんと、目の前のドラゴニルが俺が単独討伐を押し付けられたドラゴンだったのだ。一体どういう事なのか、俺はまったく理解が追い付かなくなっていた。


「ふははははっ! 驚いて声も出ないといったところか。そうであろうな。過去へ遡る能力など、存在するとは思わぬからな」


 ドラゴニルはものすごく饒舌だった。

 ところがここで、俺にはとある疑問が浮かんできた。


「もしかして、私……、いや俺が女になったのは、お前のせいだというのか?」


 目の前の男があの時のドラゴンだと分かった今、少女のふりをする必要はない。俺はあの頃の口調に戻してドラゴニルに詰め寄る。

 すると、ドラゴニルはその豹変っぷりに動じる事なく、にやりと不敵な笑みを浮かべている。やはり、この男が犯人のようだ。


「その通りだ。あの時の我とお前の性別を、遡ると同時に入れ換えたのだ。我も女のままでは不都合な事が多すぎたのでな!」


 なんという衝撃的な事実だ。俺が必死に戦って相打ちとなったドラゴンは、なんとメスだったのだ。

 というか、目の前のいかにもなおっさんが、元々女性だと?!

 俺は衝撃的な事実にくらくらして倒れそうになる。だが、そこへドラゴニルがすっと飛んできてしっかりと抱きかかえていた。


「大丈夫か? 我が運命の伴侶よ」


 俺の目の前にきれいに整ったドラゴニルの顔が迫っている。その時俺は、どういうわけかその顔をじっと見てしまっていた。


「ふっ、やはり9年も女でいると、精神的にもだいぶ染まってしまうというものだな」


 ドラゴニルはそう言いながら俺を静かに椅子に座らせると、すっと元の位置に戻っていった。一体俺はどうしてしまったのだろうか。頭が少しぼーっとしてしまっている。


「かなり衝撃的なのは分かっている。だが、こうしなければただ過去に戻ってきただけでは、運命に抗えぬと思ったのでな。我がフェイダン公爵家は、我が女であったがために薄汚い連中によって潰されてしまったのだからな」


 ドラゴニルは肘をつきながら手を組むと、真剣な表情をして俺の方を見てくる。そのあまりに冷たい眼差しに、さすがの俺も我に返っていた。


「正直、勝手な事をしたのは分かっている。だが、我としてもこの由緒正しきフェイダン公爵家を途絶えさせるわけにはいかなかったのだ。最後の瞬間だったとはいえ、お前と会えた事は、まさに僥倖だったと思う」


 真剣な表情を見せるドラゴニル。その雰囲気に俺も姿勢を正すと、ドラゴニルはかつて自分の身に起きた事をぽつぽつと語り出したのだった。

 俺の一度の目の人生の時にフェイダン公爵家に起きた出来事とは一体どんな事なのだろうか。俺は息を飲んでドラゴニルの話に聞き入ったのだった。

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