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第17話 フェイダン公爵邸での生活

 俺が領主ドラゴニルに拉致されて7日ほどが経った。親の事が心配になるものの、ドラゴニルは心配要らないと言うだけだった。ちゃんと俺の事も伝えてくれてるんだよな?

 それにしても、フリフリのドレスなんか着せられて、俺はなんとも落ち着かなかった。今まではシンプルな毛皮のチュニック。それは別に気にならなかったのに、どうしてドレスだとこうもむず痒くなってくるのだろうか。

 そして、さらに面倒なのは作法などの勉強だ。ただでさえ服装が気になって落ち着かないというのに、細かいマナーが付きまとう貴族の作法についていけるわけがない。最初のうちだからという事と、領主の養女という事で厳しく怒られないのだが、教育を担当している教師の顔がそれはもう露骨なまでに引きつっていた。怖えよ。

 だが、逆行前に理不尽な騎士団や王国からの依頼に耐えてきた俺は、頑張って耐えてみせている。叩かれる事はないものの、それはきつい叱責が飛んでくるが、それだってなんのそのだ。やむなく陥った状況であっても、それに慣れてみせる。


 そして、拉致されてから10日が経った日、ようやく俺の前にドラゴニルが姿を現した。今までは仕事の方に身を置いていたらしく、俺を連れてきておきながら一度も会う事がなかった。食事だって俺は一人だった。まあ、作法の教師は張り付いていたがな。


「どうだ、アリスの様子は」


 ドラゴニルが教師に問い掛ける。


「はい。さすがは田舎娘とあって、作法はかなり酷いものです。あってないようなものですが、身に付けようとして努力をしている姿勢は感じられます。あと10日もあればかなり改善するのではないかと思われます」


「ほほう、それは楽しみだな。体調の方を聞いたんだが、そっちはどうなんだ?」


「はい、そちらも問題ございません。湯浴みの際に確認させて頂きましたが、あの環境でありながら傷ひとつなく、病症の類も見られませんでした」


「そうか。それは実によかった」


 俺の目の前でこんなやり取りが繰り広げられた。

 教師の言った通り、俺の体は本当にきれいなものだった。これでも何度となく転んだりしたものなのだが、痕なんてものはまったく見当たらない。病気の類も確かにまったくした事がない。実に健康そのものだった。

 これにはさすがの俺も、今さらながらに疑問に感じた。どうして俺はこんなに健康なのだろうかと。

 ところが、その直後に何やら気になる話が聞こえてきた。


「突然、こんな小娘を連れてこられるので、また公爵様の気まぐれかと思いましたが、なるほど、そういうわけでございましたのですね」


「うむ、だからこそ、我が伴侶にふさわしいというわけだ。そのためにはまずは我が娘として立派になってもらわないとな」


 がはははと笑うドラゴニル。それに対して教師の方は頭を抱えていた。なんとなく関係性が見えてくるやり取りである。


(なるほど、あのドラゴニルにはずいぶんと周りは振り回されているみたいだな。だったら、あまり苦労は掛けさせたくないな……)


 俺もいろいろ押し付けられてきた苦労人がゆえに、教師の気苦労がなんとなく分かったような気がした。そう思ってしまうと、今までみたいにあまり手を焼かせるのがはばかられるというものである。というわけで、それからの俺は食事のマナーや所作や言葉遣いなどの教育を一生懸命頑張った。

 俺の気迫に押されてか、教師の方もだいぶ熱が入ってきてしまった。それでも言葉で叱るだけで体罰が飛んでくるような事はなかった。ドラゴニルから結構言われたんだろうなと思われる。そのかいあってか、あれから10日後の俺は、見違えるほどにお嬢様になっていた。人間、その気になればできるものである。


「おお、元々も可愛かったが、ますます可愛くなったな。よくやったなサウラ」


「はい、アリス様もかなり努力されていたようですので、とてもやりやすかったでございます」


(この教師の名前はサウラというのか。覚えておくか)


 ドラゴニルとサウラのやり取りを見ながら、俺はのんきにそう思っていた。


「お前がそこまで言うのなら、我が確認するまでもないか。すぐにでも社交界にデビューさせてもいいくらいだな」


(はあ?!)


 ドラゴニルの言い放った言葉に、俺は思わず固まった。


「そうでございますね。ですが、養女として発表するのでしたら、貴族たちから求婚が殺到すると思われますよ。年齢的にまだ先の話とはいえ、婚約自体はできますから」


「むぅ、それはそれで困るな。アリスは我の伴侶にする予定なのだ。どこの馬の骨とも分からぬ奴らの手に渡してたまるものか」


 サウラの忠告に、ドラゴニルが唸り始めた。まったく一体何だっていうんだ。


「サウラ、我がフェイダン家と親しいものだけに招待状を出すぞ。お前も手伝え」


「畏まりました、公爵様」


 そう言うと、ドラゴニルとサウラは一緒に俺の部屋から出ていく。


「そうだ、アリス。これまでの教育で疲れたであろう。今日はもうゆっくりしていなさい」


 ドラゴニルは部屋を出ていく前にそう言い残し、俺の返事を聞くまでもなく扉を閉めて行ってしまった。


 なんともまあ、どういう風になるのかは分からないが、俺は貴族社会に放り込まれる事は間違いないようだ。はっきり言って無理やり拉致ってきておいてこの仕打ちである。この世界だから許されるようなものだが、ちゃんと両親には説明しておいてくれよな。

 その後の俺は、さすがに淑女教育に疲れたらしく、そのままぐっすりと眠ってしまったようだった。

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