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第173話 結婚式

 レサとドラゴニルの部下に付き添われて、親父のエスコートで会場の前までやって来た俺。ここまで来たところで、恥ずかしさと緊張が一気に高まってきてしまった。


「さあ、アリス様。中ではドラゴニル様と参列者たちがお待ちかねです。緊張はお察し致しますが、どうか覚悟をお決め下さいませ」


 淡々と言葉を掛けてくるレサ。だが、俺よりもそれは親父にかけてやって欲しい。口を固く閉じたまま、緊張で眉は上がってるし、冷や汗だって滝のようだ。見てるこっちまで緊張が高まってくるぜ。


「ここまで来られたら覚悟して下さいませ。あなたはアリス様の父親なのです。こればかりは代われる者は居ないのですからね」


 レサがすっと顔を上げて親父を見つめる。その落ち着き払った視線に、親父は飲まれるように落ち着いていった。

 大きく深呼吸をした親父は、さっきまでとは打って変わってまるで別人のようだった。


「……確かに、そうですね。お恥ずかしいところをお見せしました」


 実にキリっとした凛々しい顔に、俺は言葉を失っていた。これならお袋も惚れるはずだわ。

 完全に気を取り直した親父は、改めて肘を突き出してくる。その時の親父の顔を見て、俺は思わず笑みをこぼしてしまった。そして、親父の肘に手を掛ける。

 お互いの顔を見合うと、俺たちは再び式場の入口の扉に向き合った。


 扉が開く。それと同時に、参列者たちの視線が一斉に俺たちに注がれる。

 その注目が集まる中、俺は親父に手を引かれながら、一歩一歩進んでいく。その行きつく先には、散々殴ってやりたいと思った顔の持ち主が居た。


「ふっ。見違えたぞ、我が伴侶よ」


 実に堂々とした態度でドラゴニルが待ち構えていた。いつもとは違う純白の衣装に身を包んでいて、普段のイメージとは違い過ぎる。あまりのかけ離れ具合に、こんな場面にもかかわらず笑いそうになってしまった。


「何がおかしい」


「いや、白い服が似合っていないなと思いましてね」


「……お互い様だ」


 ドラゴニルは咳払いをしてごまかしたようだった。


 その後、結婚式が始まり、何事もなく進んでいく。まあ、ほとんどはドラゴニルと俺の武勇伝ばかりが紹介されていた。こうやって大勢の前で話されると、なんとも恥ずかしい気持ちになるものだ。

 というか、ドラゴニルもかなりやんちゃだったんだな、小さい頃からな。その姿が想像できただけに笑いを堪えるのが大変だったぜ。必死に耐える俺に対して、時々ドラゴニルからおっかない視線が飛んできたが、こういう席なのでとりあえず無視しておいた。

 そして、式も最後を迎える。

 ドラゴンの一族の結婚式では、ドラゴンが宝珠を作り、それを用いた指輪を作る。そして、新郎新婦がそれをお互いの指に着けさせることで結婚が成立するらしい。

 そのための指輪が運ばれてきたのだが、その運んできた人物に、俺や会場からはどよめきの声が上がっていた。


「うー」


 いや、まさかの魔王である。なんでこんな役目を引き受けたんだよ。まだ1歳くらいの見た目だろうが?!

 しかし、そのよちよちと歩く姿が危なっかしくも微笑ましいようで、思った以上に会場からは和やかな空気が漂ってきていた。こいつ、仮にも元魔王なのに、そんな事ができるのかよ。

 歩いてきた魔王は、俺たちの前に止まると、頭の上に指輪の置かれた盆を掲げる。


「ぶぅ」


 そうとだけ言うと、背伸びをしていた。どうやら、さっさと取れと言っているようだった。

 思わず顔を向き合わせてしまう俺とドラゴニル。そして、小さく笑うと盆の上の指輪を手に取った。

 俺は照れくさそうにしながら、先にドラゴニルの指に指輪をはめる。そして、今度はドラゴニルが俺の指に指輪にはめる。

 この瞬間、俺とドラゴニルは正式に夫婦となったのだ。

 ドラゴニルはもう40歳くらいだし、俺は15歳だ。世代1つ分くらいの年齢差があるが、めでたく夫婦となったのである。

 式場にやって来ている参列者からは、大きな拍手やお祝いの言葉が送られてくる。この光景には、ちょっと感無量といった感じだった。

 なんだろうか。自然と涙があふれてきていた。


「アリスよ」


 そんな中、突然ドラゴニルが声を掛けてくる。


「何でしょうか、ドラゴニル様」


 涙を拭いながらドラゴニルの声に反応する俺。すると、ドラゴニルはここで思いもしない行動に出てきた。


「ん……」


 何が起こったのか分からなかった。

 よく見てみると、もの凄い至近距離にドラゴニルの顔があるじゃないか。そして、俺はようやく何が起きたのかを理解した。


(ちょっと待て、これって確か接吻とかいうやつじゃ……)


 そう、ドラゴニルと俺の唇が重なり合っていたのだ。

 こんな大衆の面前で、なんて事をするんだよ、この変態ドラゴンが。

 気の動転した俺は、気が付いたらドラゴニルのみぞおちに、拳を一発叩き込んでいた。


「おぶっ!」


「ぶふぅ」


 きれいに入ったらしく、ドラゴニルが少し後ろに下がっていた。その瞬間、会場が一気に静まり返る。魔王だけがおかしそうに笑っている。


「もう、突然何をされるのですか」


「ふっ、実にいい拳だ。それでこそ我が妻というものだ」


 ドラゴニルはすぐに回復して、今度は俺を抱え上げてきた。


「きゃっ、何をされるんですか」


 だが、ドラゴニルは俺の質問には答えなかった。


「皆の者、よく我らの結婚式に集まってくれた。我は嬉しく思う。この後は宴を心行くまで楽しむとよいぞ」


 そうとだけ言い残して、ドラゴニルは俺を抱えたまま式場を後にしたのだった。

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