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第172話 純白の日

 俺たちがフェイダン公爵領に戻ってきてから20日くらい経った頃だろうか。嫌だと言ってももう遅いあの日がやって来てしまった。


「ううう、恥ずかしいし、緊張するし……、気が気じゃないです」


 俺は公爵邸にある別邸の中の個室で、顔を強張らせて座っている。横では侍女であるレサが忙しく動いている。

 今日は俺とドラゴニルの結婚式が行われる日だ。いや、そういう話で連れてこられたが、本当にそうなるとは思ってもみなかった。最初からあいつは本気だったんだなと、今改めて俺は思い知らされている。


「レサ」


「何でしょうか、アリス様」


「わ、私っておかしくありませんよね?」


 思わずレサに尋ねてしまう俺。すると、レサはにこりと微笑みながら答える。


「ええ、おかしくありませんよ。今日のアリス様は、いつもより、誰よりもお美しいですよ」


 ―――


 俺とドラゴニルの結婚式が行われる別邸の外には、近隣の領地の領主や招待客たちが集まってきていた。その中には、当然だけどあいつらの姿もあった。


「招待状を頂いた時は、とても驚きました」


「いやまぁ、本当に卒業と同時に結婚とは思ってもみなかったな」


「一応15歳からは認められているとはいえ、かなりせっかちですよね」


「なんというか楽しみでなりませんね」


 学生時代によく付き合っていた四人だ。全員が招待を受けて参列していたのだった。全員、騎士になって忙しいだろうに、よく来てくれたものである。


「結局みんなを呼んでますのね」


「そうだな。ドラゴニル様なりの気遣いなんだろうな、きっと」


 ブレアとニールもちゃっかり来ている。まあ、この二人はドラゴニルとも家の関係でがあるから仕方ないな。特にブレアは隣の領地で交流も多いもんな。

 そうやって集まってきていた参列者たちは、別邸のパーティー用の部屋の中を埋め尽くしていた。

 そして、参列者たちはざわざわと話をしながら、式が始まるのを今か今かと待ち焦がれていた。


 ―――


 着々とその時を待つ俺の元に、思わぬ来客がやって来ていた。


「ほ、本当にいいのですか?」


「いいのですよ。あなた方はアリス様のご両親なのですから」


 わずかに聞こえてきた声に、俺は思わず驚いていた。ここは公爵邸で、平民は簡単に足を踏み入れられる場所ではない。だが、俺の両親という理由で、わざわざここまで連れてきたようなのだ。

 扉の外で揉める声が大きくなってくる。どうやら実の子である俺とはいえ、場所が場所ゆえに遠慮しているようだ。


「レサ、お願いします」


 というわけで、俺はレサに頼む。すると、レサは無言でこくりと頷いて扉へと近付いていく。扉を開けると、そこには踏ん張って耐えようとしている親父と、横で困惑した顔で立っているお袋の姿があった。

 扉が開いた事に気が付いた俺の両親は、中に居た俺の姿を見て思わず固まってしまっていた。


「ア……リス?」


「本当にアリスなの?」


 信じられないものを見たような表情の両親だが、さすがに今日のこの時とあっては怒る事もできない。なので、俺はにっこりと微笑みを返しておいた。


「お父さん、お母さん。よく来て下さいました」


 俺がこう言うと、親父もお袋もその場で膝から崩れ落ちていた。おいおい、一体どうしたっていうんだよ。


「おおお、アリスのこのような姿を拝めるなんて……」


「ええ、あなた。夢のようですね……」


 その顔をよくよく確認してみると、両親揃って思い切り泣いていた。ヴェールのせいでよく見えないんだよな。

 とはいえ、そこまで泣くのも俺としてはよく分かる。村の中の誰かと結婚すると思っていたところに、まさかの公爵夫人という立場だからな。それがいよいよ現実になるしたら、そりゃ感情がめちゃくちゃになるってものだよな。


「感動しているところ、実に申し訳ないのですが」


 そこへ、レサがすっと割って入ってきた。


「アリス様のお父様ですね。会場までアリス様をエスコートいただきたいので、今すぐ身なりを整えさせて頂きます」


「えっ、えっ?」


 混乱している親父は、どこからともなく現れた執事に両脇を抱えられ、そのままどこかへと連れ去られてしまった。まあ、あの格好のままじゃ式に参列はできないよな。俺とお袋は、親父のその姿をただにこやかに見送った。


「ああ、私のアリス。本当にきれいよ」


「お母さん……」


 元々男だっただけに、お袋からこのドレス姿を褒められるのは少しばかりくすぐったかった。

 お袋としばらく話をしていると、連れ去られていた親父が執事とともに戻ってきた。その姿を見て、俺は思わず笑ってしまった。


「おい、アリス。なんでそんなに笑うんだ?」


「ぷくく……。だって、似合わないんですもの。お父さんに貴族の服はやっぱりだめみたいですね」


「ええ、本当に」


「お前まで……。まあ、俺もそう思うがな」


 思わず笑いの渦が怒り、場が一気に和んでいた。

 しかし、それもすぐに終わりを迎えてしまう。そろそろ式が始まるという声が伝えられたからだ。


「それじゃ、私はこんな格好ですから、遠巻きに見させてもらうわね。おめでとう、アリス」


「ありがとう、お母さん」


 お袋と別れて、俺は親父にエスコートされながら結婚式の行われる会場へとゆっくりと歩き始めた。

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