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第171話 準備万端?!

 騎士の養成学園から掻っさらわれるように王都を出てきた俺だが、移動はちゃんと馬車で行っている。

 ぶっすーと不機嫌たっぷりな表情の俺の目の前では、ドラゴニルがドレイクと一緒になって何やら話し込んでいるようだ。

 その様子を見ていた俺は、いよいよ耐え切れなくなってドラゴニルたちに対して声を上げた。


「まったく、何を話しているのですか!」


 俺が肩肘を張りながら怒鳴ると、ドラゴニルが俺の方へと顔を向けてきた。


「何を言っているのだ。最初に言ったではないか、式を挙げると。ドレイクとはそれに向けて打ち合わせをしておるのだよ」


「左様でございます、アリス様。王都での手続きの結果、アリス様はドラゴニル様の養女ではなくなりました。ですので、早速次の手続きに移っているのでございます」


「はい?」


 ドラゴニルとドレイクの説明に、俺は思わず表情を歪ませた。

 つまりだ。今回ドラゴニルが王都に来ていたのは、俺を自分の妻として迎え入れるための準備をするためだったというわけだ。

 そして、それをすぐに実行に移すために、学園の卒業式にも無理やり出席していたという事らしい。相変わらずやる事がめちゃくちゃだな、この脳筋ドラゴンは。

 まあ、騎士学園を卒業したら結婚するとかいう話は、確かに最初からしていた気がする。

 だが、卒業と同時にこうやって領地に連れ戻されるとは誰も思ってないだろうが。俺は思わず足を組んで不機嫌な表情をしておいた。淑女らしからぬ態度だが、馬車の中だしこれくらいは許してもらおう。

 ところがどっこい、結局領地内のフェイダン公爵邸に戻るまでの間、俺の事はほったらかしでドラゴニルとドレイクの話は続いていたのだった。おい、当人を無視してくれるなよ。


「ささっ、アリス様。早速試着と参りましょう」


「いや、試着ってなんですか。ちょっと、どこへ連れて行くつもりですか!」


 屋敷に着くなり、俺はメイドに捕まってしまう。

 きれいさっぱりにされた俺は、簡単なドレスに着替えさせられて、とある部屋へとやって来ていた。


「はあ、酷い目に遭いましたよ……」


 部屋に連れてこられるまで徹底的にきれいにされてしまったので、俺はものすごく疲れ果てていた。メイドたちの顔が怖かったんだよ。

 ひと安心して部屋の中を見ると、そこにはひときわ美しいドレスが置かれていた。普段着ている服とはかなり趣の違ったドレスだった。


「あの、これは?」


 なんとなく質問をしてしまう俺だったが、メイドたちから返ってきた答えは予想通りのものだった。


「はい、こちらは結婚式で着用されるドレスでございます。ドラゴニル様の命令で、見ての通り、既に完成されております。あとは実際にご着用頂いて、細かいところを手直しするだけでございます」


「ははは……、嘘でしょ?」


 体形を測らせた覚えは一切ないのだが、そんな状態にもかかわらず、この重要な服を仕立ててしまっていたのだ。これは相当に前から計画していたのだと、はっきり認識させられてしまった。どんだけ気が早いんだ。

 そうなると、このドレスを作らせ始めたのは、おそらく魔王と戦った時から、つまりは半年前からなのだろう。あの時ならば、屋敷で休む俺をこっそり計測するなんて事は可能だからな。……頭が痛いぜ。


「ささっ、衣装合わせをしてしまいましょう。あまりに遅くなるとドラゴニル様が来られてしまいます。さすがに式より前にドラゴニル様にお見せするわけには参りません。アリス様、覚悟をお決め下さいませ」


「わ、分かりましたよ!」


 メイドから掛けられたとんでもないプレッシャーに俺は負けてしまった。ドレス姿をドラゴニルに見せるつもりはない俺は、さっさとドレスへと着替えたのだった。

 それにしても、コルセットがきつすぎる。普段のドレス以上にぎちぎちに締めてくるんだが、さすがに内臓潰れやしないか、これは……。

 苦しさに耐えてどうにか着替え終えた俺は、メイドの持ってきた姿見を見せられる。すると、そこに映っていたのは、見た事のない美しい女性だった。


「えっ、これ、誰ですか? 私?」


 思わず混乱してしまう俺である。学園に入ってからの俺は、身長こそ伸びたものの、ブレアたち同室の連中と比べても胸の成長は非常に乏しかった。だというのに、このドレスではしっかりと胸があるではないか。そのせいで姿に映る姿が自分だと認識するのに余計時間がかかったのだ。

 それにしても、この真っ白なドレス、異様なほどに俺に似合っている。ただ、髪色と瞳だけはどうしようもなく浮いているがな。


「このドレスですが、初代様と結婚されたお姫様が着用されていたドレスを参考にさせて頂きました。ドラゴニル様がそうしろとうるさかったですし、デザインを見て私たちも納得しましたので、仕立て屋に頑張って頂きました」


 嬉しそうに話すメイドたちである。そのきゃっきゃと喜ぶ姿を、俺は乾いた笑いを浮かべながら見守る事しかできなかった。

 俺をべた褒めしてくるメイドたちを前に、ため息しか出なかった俺。


 俺の意思を無視して、着々とドラゴニルとの結婚の準備が進んでいくのだった。

 はあ、もうどうとでもなれ。

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