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第170話 卒業の時

 あっという間に半年が過ぎた。

 俺とブレア、それとセリスとソニアの女子四人組は、晴れて無事に卒業する事ができた。これで、俺たちは正式に騎士団に入団することになるのはずなのだが、その卒業式の場に奴が来ていた。


「ふはははははっ、やはり順当に3年で卒業したか、アリス」


「何の用ですか、ドラゴニル様」


 ドラゴニルが笑いながら近付いてくる。俺は鬱陶しそうに睨み付け、ブレアも俺を守るように立ちふさがっていた。


「おいおい、ずいぶんな態度を取ってくれるものだな。我も騎士団の参加者の一人なのだぞ?」


「そうなのですか?」


 俺がふと教官であるフリードやジークの方を見る。すると、二人揃って視線を外していた。やっぱりドラゴニルが無理やり捻じ込んできたようだった。


「ドラゴニル様?」


「ははははっ、細かい事は気にするな」


 俺がジト目を向けてやると、ドラゴニルは大声で笑ってごまかしていた。あまりに強引な話に、俺はため息しか出なかった。

 卒業式に臨むも、俺からは嫌な予感が消えずにいた。ドラゴニルが騎士団の代表に混ざって立っているのだからな。

 あまりに目立つその姿に、俺がそっと視線を向ける。するとドラゴニルの奴は俺の視線に気が付くと、白い歯を見せながらにかっと笑っていた。思わず俺はすぐ目を背けたが、本当に何なんだよ。

 せっかくの騎士団への入団となる晴れ舞台だというのに、ドラゴニル一人のせいで俺の気分は最悪だった。


 そんな俺の気持ちを知る事もなく、卒業式は淡々と進んでいく。

 教師陣が順番に評価していった後、最後に学園長が出てきて総評を話している。それにしても話が長い。フリードやジークは気を遣って短く済ましてくれたのに、学園長だけでここまでの教師陣の話の時間をあっさりと越えてしまっていた。

 まあ、いろいろあり過ぎたのが一番の問題だな。特に魔王絡みの話だ。

 ただでさえ学園は設立したてで、いろいろと模索をしながら運営するという状態だった。

 それだというのに、魔王を信奉する一族が絡んできて、野外実習ではことごとく事件を引き起こされていた。それだけ苦労してきているから、学園長の話も長くなってしまうというわけだった。……それでも限度ってものはあるだろうがよ。

 それが証拠に、学生たちのあちこちからあくびが出る始末だ。まったく、せっかくの卒業式だっていうのに締まらないな。

 そんな感じに退屈な卒業式も、どうにか終わりを迎えた。

 卒業式を迎えた俺たちには、騎士見習いの勲章を回収した上で、新たに騎士の勲章が与えられる。卒業生たちの中には、嬉しさのあまりに高く掲げてしまう者も居たが、そのくらいに騎士の称号というのは特別なものなのだ。


「ちぇっ……。俺も一緒に卒業したかったぜ」


 俺たちの姿を見ながら、ニールが愚痴っていた。


「仕方ありませんよ。規則は規則ですもの」


「まぁそうだな。みんなの規範となるべき騎士だから、特別扱いも無しというわけだな」


 ブレアがそう言うと、ニールは納得した顔で呟いていた。

 はて、この二人、どことなく雰囲気がいいような気がするけど、気のせいだろうか。


「待ってろよ。俺も来年卒業してお前たちに追いついてやるからな」


「ええ、待ってますわよ」


 ニールの宣言に、ブレアはくすっと笑って返していた。

 微笑ましい状況はあるものの、思ってもみなかったやり取りに、思わず困惑した表情になってしまう俺。さすがにそんな顔をしては、二人から怪訝な表情を向けられてしまう。


「どうなさいましたの、アリスさん」


「いや、ずいぶんと仲良くなっているなと思いましてね」


「前からこんな感じだろうが。おかしな事を言うもんだな」


 苦笑いをしながら返すと、ニールからは鼻で笑われてしまった。ぐぐぐ、なんか腹が立つぞ。

 俺たちが話をしている場に、セリスとソニアの二人がやって来る。


「アリスさん、ブレアさん、一緒に卒業できてよかったですね」


「また一緒に仕事ができるといいな。同じ部署に配属されるか、今から楽しみだよ」


 セリスとソニアの二人は一般人の貴族だが、さすがに俺たちと交流していたせいか、他の連中に比べれば格段に腕が立つ。魔法もかなり扱えるようになっているから、おそらくは最初から一線級の活躍ができるだろう。


「ええ、そうですわね」


 ブレアもブレアで楽しみなのかにこやかにしている。

 そんな俺たちが楽しそうに会話しているところに、あの男がやって来た。


「ふむ、仲間内で盛り上がっているか」


 そう、ドラゴニルである。空気も読まずに、俺たちの間にあっさりと割り込んできやがった。


「これはフェイダン公爵様。アリス様にはお世話になっております」


 騎士になったものの、ここはあくまでも個人ということで淑女らしい挨拶をするセリスたちである。


「おお、レンブラントとソルディスのところの娘たちか。久しぶりに見たな」


 どうやら、ドラゴニルはセリスとソニアと面識があるようだった。

 ところが、ドラゴニルは挨拶もほどほどに俺のところへと真っすぐにやって来た。


「さて、アリス。早速家に戻ろうか」


「えっ、はい?」


 満面の笑みを浮かべてドラゴニルが話し掛けてくる。その次の瞬間、俺を小脇に担ぎ上げると、そのまま学園から走り去っていく。


「ええええっ?!」


「わははははっ。この時をどれだけ待ちわびた事か。アリスよ、早速式を挙げるぞ」


「はいぃぃっ?!」


 こうして俺は、学園を卒業すると同時に、ドラゴニルによって学園からさらわれるようにフェイダン公爵家へ戻る事になったのだった。

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