第161話 ドラゴン対魔王
俺が斬りかかると、魔王も素早く反応していた。
「ふん、甘っちょろい剣だな!」
魔王が攻撃を受け止めようとする。
だが、何かを感じた魔王は、剣を受け止めるのをやめてとっさに回避に切り替えた。
(なんだ、今の感じは……。大した事のない剣だが、触れると危ない感じがしたぞ)
煽られやすい魔王だが、まだ余裕があったはず。その魔王が思わず冷や汗を流したのである。
だが、剣を躱された俺はそれには気が付かなかった。
「くっ、躱されるなんて……」
「いや、躱されるどころか普通なら受け止められる。やはり貴様も感じたか、この娘の力を」
ちらりと魔王へ視線を向けるドラゴニル。
その時のドラゴニルの表情に、魔王は苦虫を噛み潰したような表情をしている。相当癪に障ったようだ。
「ほざけ、このトカゲごときが!」
怒りに任せてドラゴニルに襲い掛かる魔王。だが、ドラゴニルは余裕の表情で構えている。
「はああっ!」
「たああっ!」
そこへ、ブレアとニールの二人が斬りかかっている。
「雑魚が!」
魔王が二人を払おうとして腕を振り上げる。
ドラゴニルでようやく互角に近いのだ。未熟なブレアとニールであれば簡単に吹き飛んでしまうだろう。だが、ドラゴニルは二人に加勢しなかった。
「なにっ?!」
思いもしなかった事が起きる。魔王の拳が二人の剣によって受け止められたのだ。
「バカな。この程度の雑魚にどうして私の攻撃を受け止められるというのだ」
動揺を隠せない魔王。
だが、ブレアとニールは歯を食いしばって攻撃を受け止めている。二人からすればギリギリといったところだった。
「我の力を分け与えたからな」
ドラゴニルの拳が魔王に炸裂する。その攻撃に、魔王が大きく吹き飛んでいった。
「……浅いな」
拳の感触からして、大したダメージになっていない事を感じ取るドラゴニル。その言葉通りに、すぐさま魔王が舞い戻って攻撃を仕掛けてくる。
「よくもやってくれたな。不完全な復活とはいえ、この私に拳を入れるなど、許されるものか!」
「ふん、威勢だけはいいな。だが、さっきより弱まっているぞ!」
魔王とドラゴニルの拳がぶつかり合う。
ところが、さっき弾かれたドラゴニルの拳が、今度は魔王の拳とぶつかり合ったまま耐えている。
「ぐっ……」
「ふん、我らの気配を感じて慌てて出てきたのが徒になったな。耐久力はあるが、攻撃力は先程に比べて衰えておるぞ」
「ちぃっ!」
ドラゴニルの指摘に、魔王は眉間にしわを寄せている。どうやら痛いところを突かれたようだった。
実は、俺たちが魔王の放つ瘴気で消耗しているのと同様に、魔王の方も消耗していたらしい。一番近くで見ているドラゴニルだけが、それに気が付いているというわけだ。俺にはさっぱり分からないがな。
俺がぼさっと立っていると、ドラゴニルが顔を向けてくる。
「アリス、お前の力を見せてやれ。我らの力では対抗する事はできても、打ち破るのは難しいだろうからな」
「分かりました、お父様」
ドラゴニルに言われて、俺は剣をしっかりと持って力を込めて集中し始める。
魔王はドラゴニルが受けているし、魔物たちは全部魔王が始末してくれたので、安心して集中できるというものだった。
ところが、俺が集中し始めると同時に、魔王の顔色が段々と悪くなっていく。とはいっても、そもそも肌の色が暗いので分かりにくいがな。
「その力は……。おのれっ、あいつが甦ったというのか!」
ものすごい形相をして俺を睨み付ける魔王。ドラゴニルを振り切って俺に狙いを変えている。
だが、そうはさせまいとドラゴニルが魔王へと反対の拳を叩き込む。
「お前の相手は我だ。よそ見など許さぬぞ」
「このトカゲごときが……! いいだろう、私に楯突いた事を後悔させてやる」
ドラゴニルの煽りで、魔王の狙いが再びドラゴニルに向いた。
せっかくドラゴニルが機会を作ってくれたんだ。これを活かせないようでは騎士失格だろうな。
「ドラゴニル様に加勢しますわよ」
「おうとも!」
ドラゴニルが交戦するところにブレアとニールも加わる。
さっきまでは軽くあしらっていたはずだが、消耗をしてきているのか魔王は少し苦戦をしているようだった。
「このトカゲどもが。ちょこまかとうるさい」
「ふん、そのトカゲに振り回されて、今はどんな気分だ?」
イラついている魔王を、ドラゴニルが再び煽っている。
「ただのトカゲだと思って甘く見てますと」
「痛い目を見るってこった」
ドラゴニルが攻撃を止めて、ブレアとニールで小刻み攻撃を入れていく。ドラゴンの武器と力をもってしても、魔王には思った以上にダメージが入らない。
優勢に進めながらも、少しずつブレアとニールには焦りの色が見え始めていた。
(くそう、こんな時なのに思ったように力が発揮できねえ)
一方の俺は焦っていた。思ったように魔物を滅する力が発揮できないのである。
「アリス、まだか」
ドラゴニルもさすがに待ちきれなくなっている。
そんな時だった。疲れの見えてきたブレアとニールに魔王が襲い掛かる。
「ふん、しょせんはトカゲ。おとなしく我が糧となれ!」
「……させません」
ブレアとニールの姿が目に入った俺の中で、一気に何かが弾けた気がした。