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第155話 本当の昔話

 村に戻った俺とドラゴニルは、とりあえず魔物使いの男をしっかりと縛り付けた上で魔力を封じ、牢屋の中に放り込んだ。

 すぐさま俺はドラゴニルに連れられて、ケイルの居る部屋へとやって来た。


「ケイル、仕事中すまないが邪魔するぞ」


「ええ、構いませんよ。こちらの魔物はニール様の活躍で簡単に片付いたので、その報告書作りをしているところですからちょうどいいです」


 ケイルもあまり気にしていないようなので、空いている椅子に俺とドラゴニルが向かい合うように座った。

 それにしても、さっきからドラゴニルの表情が硬い。あの魔物使いの男が関係しているのだろうか。


「そうだ。あの男と魔王、それとフェイダン公爵家の起こり、すべてを詳しく話そうじゃないか」


「いや、だから私の頭の中を読まないで下さい」


 ドラゴニルの放った言葉に、思わず俺はツッコミを入れてしまう。なんで俺の考えている事を見透かしてくるんだよ、こいつは……。


「以前、フェイダン公爵家の話を少ししただろう。あれに付け加えねばならぬ事がある」


「それが、魔王との因縁ですか」


 俺が口を挟むと、ドラゴニルは黙って頷いた。


「以前話したフェイダン公爵の話よりさらにさかのぼる。フェイダン公爵家の起こりは、ドラゴンと王家の姫が結ばれた事によるものだ。ドラゴンを妻に迎えたフェイダン公爵は、そこからかなり時間が経っておってな、かなり血が薄まってほとんど人間だったのだ」


「なるほど。ところで、その時のドラゴンが傷ついていた理由は、何なのでしょうか」


 もうかなり前の話だが、衝撃的な話だったので今も俺はしっかり覚えている。

 俺の質問にドラゴニルは少し驚いた顔をしていたが、すぐに落ち着いてぽつりぽつりと話し始める。


「そこら辺の記録は詳しくは残ってはおらぬ。だが、おそらくは今回のような事が起きて、それを阻止せんと戦ったのだろう。そもそもドラゴンに傷を負わせられる存在は限られておるからな」


「なるほど……」


 ドラゴニルの憶測ではあるものの、そういう話であるなら俺もすんなりと納得できる。

 そういう背景があるのなら、ドラゴニルがすぐに勘付いたのも理解ができるというもの。もちろん、ドラゴニルの強さについてもな。


「ドラゴンはその巨体と強大な力ゆえに勘違いされやすいが、そもそもはこの世界の裁定役だ。まぁ、人との混血が進めば、ランドルフのように欲に溺れる事もありえる話だがな」


 ドラゴニルの話に、俺は当然だが、同室に滞在しているケイルも大きく頷いていた。


「俺の家にもその話は伝わっておりますからね。ルイスともどもよく知っておりますとも」


「あら、やっぱりケイルさんも公爵家の傍流でしたか」


「まあな。そういう事もあってか、家訓は結構厳しいものになってるぜ。フェイダン公爵家に代々仕えている事もあってな」


 報告書を書きながら、ケイルは半ば愚痴のように話していた。


「それにしてもお父様」


「なんだ、アリス」


「なぜ以前は中途半端な話をされたのですか?」


 ふと話を戻して、俺はドラゴニルに詰め寄る。理由はフェイダン公爵家の話だ。

 なにせ昔話してくれたのは中途半端な時期のできごとだったからだ。

 俺がにこやかに詰め寄ると、ドラゴニルは困った顔をしていた。その顔を見ると、これまで散々やられていた事をし返しできた気がして、つい嬉しく思ってしまった。


「まぁそれはな」


 咳払いをして、ドラゴニルが口を開く。


「いろいろと面倒な単語が出てくるからだ。あの時のお前はまだ小さかったし、フェイダンの家に馴染んでいなかったからな」


 しっかりと俺の顔を見ながら説明するドラゴニル。その真剣な表情に、思わず引き込まれてしまう感じがした。

 でも、確かにそれは言える事だった。あの頃の俺はまだ自分の持っている力もよく把握してなかったし、環境も大きく変化して戸惑っていたからな。ドラゴニルなりに気を遣ってくれていたのだろう。


「だが、今でならはっきり言える。そのくらいに物事が分かってきているのだからな」


 自信たっぷりに言い放つドラゴニル。その時の表情に、俺は思わずドキッとしてしまった。


(いやいやいや、ドキッて何だよ、ドキッて)


 自分の思わぬ反応に、俺は慌ててしまった。


「それでドラゴニル様。俺はあの山の監視に入ればいいんですかね」


 俺たちの話が終わったかと思ったのか、ケイルが書類を書きながら尋ねてきた。


「ああ、そうしてくれれば助かる」


 ドラゴニルは短く答える。


「あの男はどうするんですかね」


「あやつなら傷を治した上で王都の牢に放り込んでおく。その際には魔力も封じてやらんとな。また何かをやらかしかねんからな」


「分かりました。では、その件も書類にまとめておきますんで」


「うむ、頼んだぞ」


 そんなこんなで、俺とドラゴニルの話は終わった。

 正直、ケイルの居る状態で話をするとは思わなかったが、終わった今となってはそれで正解だったのだと思える。

 フェイダン公爵家の中には、しっかりとした絆があるという事実をまざまざと見せつけられたのだった。


 翌日は魔物掃討作戦の後始末を終え、2年生の冬の野外実習は終わりを告げる事になったのだった。

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