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第153話 実習の裏で

「捕まえたか」


 駆け寄ってきたドラゴニルがジークに声を掛ける。


「ああ、この通りだぜ」


 ジークが伸びた男を首根っこを掴んでいる。ドラゴニルはその男の顔をじろじろと見ている。だが、よく分からないのか少し顔をしかめているようだった。


「お父様」


「おお、アリスか。よくあのワームを倒したな。褒めてやるぞ」


「はい、ありがとうございます。……ってそれどころじゃないんですよ。どういう事なんですか、説明して下さいませんか!」


 目の前でドラゴニルとジークがにこやかに話をしている様子を見て、俺は思わずツッコミを入れずにはいられなかった。

 ジークはローブの男と組んで俺たちに襲い掛かってきたというのに、どうしてそんなに笑っていられるのかが理解できなかったのだ。


「ああ、我が頼んだ事だからな」


「はいぃ?!」


 とんでもない証言に、俺は思わず変な声を上げてしまう。


「一体どうしましたの。倒し損ねた魔物たちはみんな逃げていきますし、アリスさんの奇声は聞こえてきますし、何が起きているのです」


 そこへブレアがやって来た。俺の声もがっつり聞かれていた。いや、恥ずかしいんだが。


「魔物使いの術が完全に解けたんだ。これでやつらはただの魔物に戻った。お前たちの強さに恐れをなして逃げたってところだろう」


「どういう事ですの?」


「あいつは恐らく村にも差し向けていただろうが、同じように今頃は術が解けているはずだ」


 ブレアの質問を無視して、話をするジークである。


「事情を説明して下さい、ジーク」


 フリードからも質問をされるジーク。さすがに同僚に言われると気まずいのか、そのまま地面に座り込んで話を始める。


 ―――


 それは前回の夏の野外実習の時だった。

 その時から、実習の地となっていたランドルフ邸の周りから不審な魔力が感じられていたのだ。

 ドラゴニルにその事を伝えたジークは、ドラゴニルから思わぬ話をされる。


「そやつは恐らくランドルフにくっ付いておった腰巾着だろう。そうだ、我を恨んでいるふりをして、そやつと接触してくれぬか?」


「はあ? 何を仰るんですか、ドラゴニル様。確かに騎士団の時はあなたの振る舞いに振り回されはしましたがね」


 ドラゴニルから持ちかけられた話に、ジークは思い切り反発する。なにぶん騎士の精神に反する事なのだ。いくらガサツな性格のジークとはいっても、その命令は聞き入れ難かったのだ。


「何をいうか。去年の湖の無限スライムの件を忘れたか? あれは恐らくランドルフの作った宝珠に魔物を使役する能力を持つ者が魔法を付与したものだ。スライム程度の低級な魔物ならば、ドラゴンの宝珠の魔力さえあれば簡単に生み出せるからな」


「な、なんですと?!」


 衝撃を受けるジーク。ドラゴニルはそのリアクションを無視するように話を続ける。


「ジーク、お前は我らから距離を取って、不満があるような姿を見せつけてやってくれ。話し掛けてきたら、わざとそれに乗って油断させるのだ」


「……そこまで仰るのでしたら仕方ありませんね。不本意ですがやらせてもらいましょう」


 ドラゴニルの圧というより熱意に負けて、ジークは囮を引き受ける事になった。


「それにしても、なんで俺なんですかね?」


「がさつな性格だから、野心が強いように見えるだろう?」


「……そういう事ですか」


 にかっと笑うドラゴニルに、ジークは呆れ果てていた。

 そして、翌日から作戦は実行に移されたのだった。


 ―――


「ってなわけだ。悪いなフリード、お前にも黙っていてよ」


 説明を聞き終わったフリードは、何と言っていいのか分からずに髪をわしゃわしゃと掻き乱していた。


「まったく、みんなに黙って隠れて何をしているんですか。ドラゴニル様もドラゴニル様です。本当にいい加減にして下さい」


 フリードはドラゴニルとジークに本気で怒って怒鳴りつけていた。普段温厚な姿ばかりのフリードがあそこまで声を荒げるとはな……。除け者にされていたのが相当頭に来たのだろう。


「まあいいじゃねえかよ。こういう危険な奴を一人取り押さえる事ができたんだからよ」


 それなのにジークはけらけらと笑って、縛り上げた魔物使いの男をぶんぶんと振り回していた。


「アリス・フェイダンも悪かったな。だが、ずいぶんと腕を上げたものだ。さっきの状態でまた剣を交えてみたいもんだぜ」


「嫌ですね。私の力はそういう使い方をするものじゃないですよ」


「はははっ、そうかい。でも、普段から使いこなす練習はしておいた方がいいぜ」


「それはまあ、そうですね……」


 ぐぬぬ、ジークに言い負けてしまった。なんか悔しいぜ。

 歯を食いしばりながら、俺はジークを睨み付けていた。


「よし、こいつの事は我とアリスに任せて、お前らは学生や騎士たちの面倒を見てやれ」


「分かりました。行くぞ、ジーク」


「へいへい」


 フリードに言われて、ジークは渋々ついて行く。ブレアも俺の方を見ながらフリードたちについて行った。

 その場に残されたのは、俺とドラゴニルと、気絶して縛り上げられているローブの男だけになった。そこには何とも言えない空気だけが漂うのだった。

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